「アルツハイマーの殺し屋」を熱演! 70歳リーアム・ニーソンが語る『MEMORY メモリー』と亡き友人の記憶

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アクション俳優路線を決定づけた『96時間』シリーズ(2008~)以降も、渋味ヒューマンドラマからSF大作シリーズまで多様な作品にコンスタントに出演し映画ファンを楽しませてくれているリーアム・ニーソン。昨年ついに70歳を迎えた名優の劇場最新作『MEMORY メモリー』は、記憶障害を抱える老齢の殺し屋を描いたサスペンス・アクションだ。

リーアムが演じるのは、アルツハイマーによって徐々に記憶を失っていく殺し屋アレックス。これで最期と決めた任務にあたっていた彼は、自身の「子供は絶対に殺さない」という誓いを蔑ろにした悪徳クライアントに対し一生に一度の正義を貫く。

病に苦しむ“悪のヒーロー”を演じるリーアムと、かつて『メメント』(2000年)で同じく記憶障害の主人公を演じたガイ・ピアースとの共演も興味深い本作。ジェームズ・ボンド像の“変容”を成し遂げた『007 ゴールデンアイ』『007 カジノ・ロワイヤル』のマーティン・キャンベル監督による“タイムリミット・アクション”だ。

2023年5月以降もバラエティに富んだ主演作の公開が控えているリーアムが、多忙の合間を縫って日本のメディアのインタビューに応えてくれた。

「アルツハイマーと戦っていた亡き友人を役に注入した」

まずリーアムは、『MEMORY メモリー』への“出演の決め手”について、「本作のオリジナル版であるベルギー/オランダ映画『ザ・ヒットマン』(2003年)をプロデューサーに見せてもらい、いずれ自分の命を奪うであろう病を抱えているヒットマン、という設定のオリジナリティに興味を抱いたし、すごく出来が良いと思った」と振り返る。

それに加えて、マーティン・キャンベルと仕事をしたいという気持ちもあったんだ。昔、彼が製作した英国のTVシリーズをはじめ、2作の『007』など、その仕事ぶりはよく知っていたからね。

本作の主人公アレックスはアルツハイマーの症状に動揺することになるのだが、「当然ながら、色々とリサーチしたうえで役に挑んだ」と語るリーアム。記憶の混濁という難しい状況を表現する上で、もっとも「気をつけた」ことは何だったのだろうか?

とにかく“誇張しない”ということと、アルツハイマーの要素を抑えて表現することも意識したよ。本作はジャンル的にアクション・スリラーになると思うけれど、そういった作品はクライマックスに向けてペースが上がり、盛り上がっていくものだよね。けれど、自分が病についてリサーチしたことでペーシングを阻害したくなかったし、それは監督も同感だった。例えば演技的に大きすぎる表現があった場合は、監督が助言してくれて抑揚を抑えたりね。

また、亡くなってしまったのだけれど、アイルランドにアルツハイマーと戦っていた友人がいて、数年にわたって彼が弱っていく姿を見ていたので、それをこの役に注入した部分もある。

「マーティン・キャンベル監督の現場では全員が平等だ」

齢70を迎え、本作の役柄には自身の体験とリンクする部分も多々あったのだろう。しかし本作の監督は、そんなリーアムよりも年上の名匠マーティン・キャンベルである。近年は比較的若い監督と組んでいるリーアムだが、キャンベル監督との撮影はどうだったのだろうか?

マーティンは本当に素晴らしいエネルギーを持っているよ。もちろん、彼のフィルムメーカーとしての経験値の高さは分かっていたし、実際に現場では全ての部署の仕事の状況を把握し、全てのスタッフや出演者に声をかけ、激励したりするんだ。

そして彼の現場では、全ての人間が平等だ。時には役者だけ特別扱いされたりする現場もあるけれど、彼の現場にはそれがない。僕はそういう監督が大好きなんだ。例えば美術部や小道具など、全てのスタッフに賛辞を贈る。そういう監督と仕事ができたことが嬉しかったね。

キャストの演技に関しては、まず監督のビジョンとその理由が共有される。しかも、皆の意見にすごくオープンなんだ。だから僕からも色々と提案させてもらったよ。演じるキャラクターの感情面であったり、どういうやり取りをするのか? という部分など役者の想いに敏感な監督だから、ぜひ再タッグを組みたいと思ったね。

「常に自分の年齢に見合ったアクションを演じてきた」

キャンベル監督作であることは、再び激しいアクション映画への出演を決意する大きな要因だっただろう。加えてリーアムは、出演作選びについて「常に脚本の出来が基準になる」と明かす。

どんな映画でも基礎の部分は脚本だと思っている。たしかに『96時間』以降はアクション映画に出演してきたけれど、いくつ銃撃シーンやファイトシーンがあろうと、大事なのは人間的な側面がしっかりと描かれているか? それが脚本の中でいかに重視されているか? という部分なんだ。

昨年、僕は70歳になったけれど、最新作を含め待機作のうち3本にアクションの要素がある(笑)。でも正直、アクション映画への出演は少しずつ減っていくとは思っているよ。観客もそろそろ、そう感じているだろうけれどね。僕は常に自分の年齢に見合ったアクションを演じてきた。例えば、70歳なのに30~40歳のようなアクションを見せようとは思っていない。それは観客をリスペクトしているからで、騙すようなことはしたくないんだ。

今後に関しては、実はレスリー・ニールセンが演じた『裸の銃(ガン)を持つ男』(1988年)のリブート作への参加が決まっていて、今秋にも撮影に入る予定だ。ついにコメディの世界に足を踏み入れることになったよ(笑)。

「『マイケル・コリンズ』は特に思い入れのある作品」

本作のアレックスや『96時間』の最強パパこと元CIAのブライアン・ミルズ、『スター・ウォーズ』シリーズのクワイ=ガン・ジンなど、2000年以降も多様なキャラクターを演じているリーアム。いわく「全キャラクターがフェイバリット」とのことだが、やはり祖国アイルランドの英雄マイケル・コリンズには特別な想いがあるようだ。

『マイケル・コリンズ』(1996年)のマイケル・コリンズ役は、自分の心の中で特別な存在として在り続けている。映画としてはもちろん、現代のアイルランド共和国を建国した一人でもあるからね。

あの映画は、もう28年前になるかな……アイルランドで撮影したよ。その頃ちょうど長男が生まれて、名前をマイケルにしたということもあって自分にとって特別な時間だったし、<ワーナー・ブラザース>が製作に着手するまでに12~13年くらいかかったんだ。当時、北アイルランドでは戦争(※北アイルランド紛争)が起こっていたし、そもそもコリンズ自身が今なお物議を醸す人物でもあるからね。とにかく、色んな意味で自分の心の中の特別な場所にある作品なんだ。

監督のニール・ジョーダンとは新作『探偵マーロウ』(2023年6月16日[金]日本公開)でも再タッグを組むことができて、それも素晴らしい時間だった。作家レイモンド・チャンドラーの生み出した私立探偵もので、舞台は1938~1939年のL.A.なんだけれど、撮影はバルセロナとダブリンで行ったよ。

『RRR』のスコット総督ことレイ・スティーヴンソンとも共演

本作は、リーアム1人が大暴れするアクション映画ではない。ストイックな刑事ドラマとしても見応えがあり、ガイ・ピアースやモニカ・ベルッチら豪華キャストが演じる個性的なキャラクターたちによるアンサンブルも大きな見どころだ。

モニカもガイも最高だったよ。ガイは『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)の頃から好きだけど、撮影中に“不誠実であることが不可能”なタイプの役者なんだ。まさに“役者が惚れる役者”というタイプだね。

そしてモニカとは今回が初対面だったけれど、もちろん『パッション』(2004年)などで素晴らしい役者ということは知っていた。彼女も周囲の提案にオープンな性格で、本作でもあるシーンで僕の出したアイデアをすぐ受け入れてくれた。本当に共演できて楽しかったよ。

もちろん、レイ・スティーヴンソンもね。かつてピアース・ブロスナンと共演した『セラフィム・フォールズ』(2006年)の撮影中に、ちょうどレイが出演しているドラマシリーズ『ROME[ローマ]』を観ていたんだ。このドラマには友人のキアラン・ハインズも出ているんだけれど、その頃からレイは素晴らしい役者だと思っていたよ。

そしてメキシコ出身のハロルド・トーレス、彼も素晴らしかった。毎朝、撮影現場に行くのが楽しくなるような作品・キャストだったよ。

リーアム・ニーソンが“人生で成し遂げたいこと”とは

経験豊富な俳優として、キャリアの晩成に差し掛かったとも言えるリーアム。そんな彼が、一人の人間として“成し遂げたいこと”とは何なのだろうか?

まず、2人の息子に対して良き父親であり続けたい。これがいちばん大事なことだね。そしてユニセフの親善大使を長年務めているんだけれど、もっと色んなところに足を運んで、自分が参加することによって光をあてられる問題などがあれば、それを進めていきたい。

最近、同じく親善大使で友人のオーランド・ブルームがウクライナで子どもたちと交流している姿を見て、自分ももっとやりたい、やらなければという気持ちになったんだ。彼はいろんな紛争地や災害地など世界中を駆け回っているので、僕が少し罪悪感を感じるくらいでね。もちろん僕だけじゃなく、多くの親善大使にやれることがたくさんあると思うから、それを進めていきたい気持ちがあるよ。

『MEMORY メモリー』は2023年5月12日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

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