紙にナイフで切り込む「彫画」考案、新聞連載400回に 伊藤太一さん87歳 「欠かせないのはぶらぶら」

スケッチブックには看板の説明書きなどもメモされる

 彫画家の伊藤太一さん(87)=兵庫県明石市=が神戸新聞の明石版で連載している「あかしの歴史風景」が400回を迎えた。2007年のスタートから16年。「こんな回数を迎えるとは。自分でもよくやったと思う」と笑顔を浮かべ、さらなる創作に意欲を見せる。(領五菜月)

 伊藤さんは約50年前、ケント紙にナイフで切り込む彫画というスタイルを編み出した。以来、自然や神社仏閣、街の風景などを切り取った作品を生み出し続けている。連載では明石を中心に兵庫県内各地の表情をどこかほっとする温かみのある作風で表現してきた。

 制作方法は50年前から変わらない。伊藤さんは「欠かせないのは、ぶらぶら」と話す。スケッチをする際は自分の足で明石や神戸などの地を歩き回って場所を決めるという。

 場所が決まれば、スケッチブックとペンを取り出し、すらすらと景色を描いていく。加えて、説明書きがある看板の文字や感じたことをびっしりとメモする。そしてスケッチを基にケント紙を彫り、絵の具やインクで色づける。締め切り前には作業部屋で1人深夜ラジオを聞きながら、必死に作業する事もあるという。

 3月には、市立文化博物館(上ノ丸2)で「あかしの歴史風景」の作品を中心に個展を開いた。同館を訪れた際、「いつも見てます」「先生の彫画が大好きなんです」とファンに話しかけられたそう。以来、制作中に読者の顔が浮かぶという。「期待に応えなければと気持ちが引き締まるようになった」と語る。

 400回目は、県立フラワーセンター(同県加西市)のチューリップ畑を描いた。「まだまだ描きたい場所がある」と話す伊藤さん。意欲は尽きない。

© 株式会社神戸新聞社