2022年度の不動産売却は114社、15年ぶりに100社を上回る

~ 2022年度「上場企業 不動産売却」調査 ~

2022年度に東京証券取引所に上場している3,803社のうち、国内不動産の売却を開示したのは114社(前年度87社)だった。内訳は、プライム49社、スタンダード58社、グロース7社。
2022年4月に東証の市場再編に伴い集計基準が変更(従来、東証1部・2部上場のみを対象)になり、単純比較はできないが、開示社数は前年度(87社)を27社上回り、年度では15年ぶりに100社を超えた。

譲渡損益を公表した110社の総額は4,439億2,000万円(前年度比15.7%減)で、4年ぶりに前年度を下回った。110社のうち譲渡益を計上したのは99社で全体の9割(構成比90.0%)を占めたが、前年度(同96.2%)からは6.2ポイント低下した。
114社のうち、直近の本決算(連結)で最終赤字は33社(構成比28.9%)で、約3割を占めた。業種別では、コロナ禍の影響が大きかった小売業やサービス業などが中心で、財務体質の強化や経営資源の有効活用などを理由に不動産売却を実施している。また、採算が悪化したホテルや商業ビルなどを売却する動きも散見された。
売却土地面積が合計1万平方メートル超の企業は38社(前年度24社)で、前年度より14社増加した。売却土地面積トップは藤田観光(株)(プライム)の41万3,599平方メートルで、2016年9月に営業を終了した三重県鳥羽市安楽島町の「ホテル鳥羽小涌園」跡地を国内法人へ売却した。
コロナ禍で疲弊した財務体質の改善や強化が目的の不動産売却が増加している。こうした動きに加え、経済活動の本格化を見据えた運転資金の確保、事業再構築に向けたスクラップアンドビルドなどで、今後も不動産売却の増加が見込まれる。

※本調査は、東証プライム、スタンダード、グロース上場企業3,803社(2023年3月末時点、不動産投資法人等を除く)を対象に、2022年度(2022年4月~2023年3月)に国内不動産(固定資産)の売却を開示した企業を集計、分析した(契約日基準、各譲渡価額・譲渡損益は見込み額を含む)。
※東証の上場企業に固定資産売却の適時開示が義務付けられているのは、原則として譲渡する固定資産の帳簿価額が純資産額の30%に相当する額以上、または譲渡による損益見込み額が経常利益、または当期純利益の30%に相当する額以上のいずれかに該当する場合とされている。
※東証の市場再編により集計基準を変更したため、2021年度以前(東証1部・2部企業を対象)のデータはすべて参考値。


開示企業の9割が譲渡益計上

不動産売却を開示した114社のうち、譲渡損益を公表したのは110社(前年度81社)だった。
このうち、譲渡益の計上は99社(同78社)で、総額は4,465億9,400万円(前年度比15.3%減)と前年度を下回った。一方、譲渡損の計上は11社(前年度3社)で、総額は▲26億7,400万円(同▲7億9,800万円)と損失が3.3倍に膨らんだ。
譲渡益トップは、新宿中央公園に近接した好立地のツインビルを売却した小田急電鉄(株)(プライム)の855億円。次いで、東京電力ホールディングス(株)(同)の625億6,000万円。

公表売却土地総面積、合計186万平方メートル

2022年度の売却土地総面積は100社が公表し、合計186万2,195平方メートルだった。前年度の合計123万2,158平方メートル(公表77社)から1.5倍(前年度比51.1%増)に拡大した。
売却土地面積が合計1万平方メートル超は38社(前年度24社)で、社数の増加に加え、売却土地面積が10万平方メートル超が3社(同1社)に増えたことで合計面積は大きく拡大した。

公表売却土地面積 トップは藤田観光の41万平方メートル

公表売却土地面積トップは、全国でホテルや旅館事業などを展開する藤田観光(株)(プライム)の41万3,599平方メートル。開示情報には施設名が掲載されていないが、2016年9月に営業を終了した「ホテル鳥羽小涌園」跡地の三重県鳥羽市安楽島町の一帯を売却した。
2位はジェイエフイーホールディングス(株)(プライム)の20万7,913平方メートル。3位はシダックス(株)(スタンダード)の10万4,380平方メートル。

譲渡価額総額 公表24社合計で317億円

譲渡価額を公表した24社(前年度20社)の総額は、317億1,800万円(同1,809億3,100万円)。
トップは、肥料メーカーの片倉コープアグリ(株)(スタンダード)の65億7,100万円。長期的な安定収益と資産価値の最大化を目的に保有不動産を譲渡し、隣地を取得する土地交換での取引を行った。2位は、不動産開発などを手掛ける穴吹興産(株)(スタンダード)の63億8,300万円、3位は衣料品メーカーの(株)ワコールホールディングス(スタンダード)の44億円だった。
譲渡価額100億円以上の開示は前年度と同じくゼロだった。

業種別 サービス業が最多の15社

業種別では、サービス業が15社で最多。経営資源の有効活用や財務体質の強化を目的とする企業がほとんどを占め、ホテル用途の不動産売却が目立つ。最新期の本決算が赤字の企業は5社(構成比33.3%)だった。
2位は、小売業の12社で、このうち最新期の本決算が赤字の企業は4社(同33.3%)。


2023年3月に国土交通省が発表した2023年地価公示では、全用途平均、住宅地、商業地のいずれも2年連続で地価が上昇し、上昇率も拡大した。三大都市圏や国内外観光客が戻りつつある観光地を中心に、地価上昇が続いている。
2022年度に不動産を売却した上場企業のうち、直近の本決算が赤字企業は約3割(構成比28.9%)で、構成比は前年度(17.2%)から11.7ポイント上昇した。コロナ禍で疲弊した財務体質の改善や強化を目的とした不動産売却が増加した。
上場企業の不動産売却件数は増勢に転じた。国内不動産の動向は、ホテルは国内外宿泊者数の増加で稼働率が回復傾向にあるのに対し、オフィスは大型新築ビルの竣工ラッシュなどにより、都心部を中心に空室率が上昇している。所有不動産の立地や売却物件の用途により価格や損益に濃淡はあるが、体質強化への動きは根強く、今後も遊休不動産や工場などを中心に売却の動きが続くとみられる。

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