<社説>安全保障世論調査 「平和国家」路線の堅持を

 共同通信が安全保障に関する全国郵送世論調査の結果をまとめた。安保環境の厳しさから一定の防衛力強化はやむを得ないが、大幅な防衛費増額や増税は望まない、という結果だった。軍拡競争の生活への影響に不安を抱き、軍事より外交を優先すべきという民意が表れた。「平和国家」路線を堅持し、緊張緩和に向けた外交に力を注ぐべきだ。 今後5年間の防衛費を1.5倍超の43兆円に増やすことは「不適切だ」が58%で、「適切だ」の39%を上回った。防衛費増額のための増税は支持19%、不支持80%だった。不支持の理由は最多の48%が「今以上の税負担に国民が耐えられないから」を選んだ。

 矛盾する結果も出ている。敵基地攻撃能力(反撃能力)保有は賛成61%で反対36%を大きく上回った。一方で敵基地攻撃能力保有で専守防衛が形骸化するという意見が多数を占め、59%が軍拡競争につながると考えている。また、外国から武力攻撃を受けた際の住民避難などの国民保護に向けた取り組みを、79%が「急ぐべきだ」と答えた。「平和国家」路線を堅持するのか、軍事力を背景にした外交へと転換するのか、世論は揺らいでいるようだ。

 中国の軍備増強、北朝鮮のミサイル開発、ロシアのウクライナ侵攻に伴う日ロ関係の悪化など安保環境が厳しさを増していることは事実だ。しかし、日本が直接侵攻を受ける事態があるだろうか。3月の参議院外交防衛委員会で安全保障上の脅威について問われた防衛省の増田和夫防衛政策局長が、侵略の意図を確認していないとして「中国、北朝鮮、ロシアそのものを脅威と認識しているのではない」と答弁している。

 懸念すべきは、米国が日本周辺で戦争を始め、自衛隊が巻き込まれたり、在日米軍基地が攻撃されたりすることだ。2017年に米空母3隻が日本海に派遣された朝鮮半島危機では、国家安全保障会議(NSC)で安保関連法に基づき、自衛隊が米軍を後方支援できる「重要影響事態」や、集団的自衛権を行使して米軍への攻撃に自衛隊が反撃できる「存立危機事態」のシミュレーションを行った。今も、いつ戦争が起きてもおかしくない状態にあるのだ。

 今回の世論調査では、軍事費大幅増、敵基地攻撃能力保有を盛り込んだ安全保障関連3文書について「あまり知らない」「全く知らない」が合わせて76%に達した。また、88%が岸田文雄首相の説明を「十分ではない」としたことも、政府の姿勢への不信感の表れだ。

 ただ、政府の説明が不十分でも「知らなかった」ではすまされない。かつての戦争を知っている私たちは「知らないうちに戦争になった」「反対できなかった」と言い訳することは許されない。軍事力ではなく平和の構想と行動によって戦争を起こさせないという決意が必要だ。

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