ふるさと納税返礼品も標的 「値引き」のわな、詐欺サイト乱立 提供農家に“迷惑”

コロナ禍のライフスタイルの変化で電子商取引(EC)市場が拡大する中、代金や個人情報をだまし取る詐欺サイトが乱立している。和牛やブドウ「シャインマスカット」など、ふるさと納税の人気返礼品や品薄商品の販売を偽装して「大幅値引き」をうたい、短期で荒稼ぎするヒット・アンド・アウェーの手口。多くが外国のサーバーを経由しており、警察庁は注意を呼びかける。

「うちらの写真を勝手に使ったサイトがある」。鳥取県南部町のブドウ農家が気付いたのは、出荷繁忙期の昨年9月だった。

農家は町のふるさと納税の返礼品に「ピオーネ」やシャインを提供しており、町の公式サイト用に載せた果物の写真と同じ写真が「町の返礼品」として使われていたという。「寄付額1万円」の表示に線が引かれ、横に6500円と値引き価格が記されていた。

総務省によると、ふるさと納税は寄付行為に当たるため、金額は返礼品の価格ではなく、値引きはあり得ない。農家から通報を受けた町は県に連絡、県警が捜査を始めた。町の担当者は「自治体の信用が損われる。返礼品を提供する農家にも迷惑が及ぶ」と憤った。

人気の返礼品や品薄の陸上競技用シューズなどが悪用されている。ふるさと納税ではこれまで、メロンで有名な北海道上富良野町や蜂蜜で人気の岐阜県大垣市などが詐欺サイトを確認した。京都府南丹市は返礼品のTシャツ、パン、ようかん、サツマイモ、それぞれの偽サイトを見つけた。府警が調べたところ、外国のサーバーを経由していた。

写真や記述を無断転用

捜査関係者によると詐欺サイトは5年ほど前から目立ち始めた。共通する手口はこうだ。商品の正規サイトから写真や記述を勝手に転用した偽サイトを作成。海外のサーバーを経由して正規のECサイトなどから誘導させる。特定商取引法が義務付ける販売者の住所や名前、連絡先が記されており、まっとうな業者を装っている。

だが、偽サイトのドメインは、日本で見られる「.com」「.jp」と異なり、「.top」「.xyz」「.bid」などと見慣れないものが多い。

本紙記者が三つの偽サイトに記されていた静岡、大阪、和歌山の電話番号にかけたところ、全てでたらめだった。

多くが代金を都市銀行の口座に振り込ませる。口座は名義人と販売者名が違うため、特殊詐欺などで使われる密売口座とみられる。振り込み後、「商品送付」のメールが来ても商品は届かず、被害に気付いた時はサイトも口座も閉鎖。クレジットカード決済の場合、カード情報も盗まれている可能性が高い。

偽サイトは数年前まで不自然な日本語が多かったが、最近は自然なものが増えている。警察庁は、ドメインに違和感がある、価格が極端に安い、購入を急がせる場合は詐欺を疑うよう促す。(栗田慎一)

ネット通販巡る相談急増

国民生活センター(東京)によると、インターネット通販を巡る全国の相談件数はコロナ禍で急増した。2020年度は過去10年間で最多の28万919件となり、21年度23万5421件、22年度は26万7196件。年間相談総数の3割を占めるまでになった。同センターは「詐欺」に注意を呼びかけている。

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