川勝知事の“錯乱”ぶりがヤバすぎる!|小林一哉 2022年8月に『知事失格』が出版され、「命の水」の嘘が明らかになってから、川勝平太静岡県知事のリニア妨害はなりふり構わなくなってきている。地元記者が、そのヤバすぎる錯乱ぶりを徹底レポート!

「命の水」という真っ赤な嘘

2022年8月、私はリニア工事を妨害している川勝平太静岡県知事を批判した『知事失格』(小社刊)を上梓しました。

川勝知事は、リニア工事によって「静岡県民62万人の命の水が失われる」と主張。静岡県民の多くが、その「命の水」説を信じています。

しかし、私が関係各所を徹底取材したところ、川勝知事の「命の水」が真っ赤な嘘であることがわかりました。

詳しくは本をお読みいただきたいのですが、簡単に言えば、川勝知事が水不足に陥ると煽っている大井川広域水道を利用しているのは26万人に過ぎず、その26万人も過去、水不足に悩んだことはなかった。

もし万が一、本当にJR東海のリニアトンネル工事の影響があったとしても、下流域には地下水源が豊富にあり、流域の住民たちが水不足に困る心配はないのです。私はそのことを実証的に書きました。

つまり、川勝知事がリニア妨害の「錦の御旗」にしている根拠は崩れ去ったわけです。

本が出ると、全国の読者やメディア関係者から、「リニア問題の全体像がわかった」と反響をいただきました。さっそく、川勝知事の記者会見で追及してくれた記者もいます。

影響は、静岡県議会にも及んでいます。本を読んだ桜井勝郎県議(無所属、島田市・大井川町選出)、野崎正蔵県議(自民党、磐田市選出)が2022年12月の県議会で、川勝知事の「命の水」のについて追及してくれたのです。

桜井県議は、こう追及しました。

「川勝知事が言う“命の水”は十分に足りている。農業用水、工業用水にもしわ寄せがいかない。何の影響もないどころか、使われない水はそのまま大井川に流され、海に捨てられてしまう。その量は、年間に直せば約2838万トンにも上っている。一滴たりとも県外に渡さないという“命の水”が、実際は捨てられている。これについて、知事はどのような所見を持つのか」

川勝知事は、「JR東海が県外流出量を算出した係数の値がひと桁違えば、流出する量は大幅に増える」などとごまかすのが精一杯でした。

沿線知事の足を引っ張る川勝知事

『知事失格』が刊行されてからメディアによる追及も激しくなり、川勝氏のリニア妨害は、なりふり構わなくなってきています。

2022年7月、川勝知事がかねてより希望していた「建設促進期成同盟会」への加入が認められました。

期成同盟会はその名のとおり、沿線の都府県が連携し、リニアの建設を「促進」するための団体です。

8月9日に行われたオンライン総会で、川勝知事はこう表明しました。

「リニアについて、県の基本姿勢は整備の促進。現行ルートの整備を前提に、スピード感をもって県内の課題解決に取り組む」

沿線知事らも、「これで早期全線開業を目指す態勢が整った」と期待をにじませました。が、その期待は見事に裏切られます。

オンライン総会の前日に行われた川勝知事による田代ダム視察では、さらに大幅な時間を要する新たな課題をJR東海に突き付けていたことがわかったのです。

「工事中を含めて県外流出する湧水の全量戻しが必要であり、その約束が果たされなければ、南アルプス工事を認めることはできない」

この発言をした翌日の「スピード感をもって県内の課題解決に取り組む」という言葉は、いったい何だったのでしょうか。のちにこの報道を知った沿線知事たちは、面食らったに違いありません。

期成同盟会に入った川勝知事は、期成同盟会の沿線知事たちの足を引っ張り出します。

2022年9月、川勝知事は神奈川県駅などの建設現場を視察、こう怒りをぶちまけました。

「(整備予定地の)道の両側に数多くの人家があり、地域住民が普通の生活をしていたことから、(関東車両基地)用地取得が滞っている」

「2027年開業が、静岡県の工事拒否によってできないとJR東海が広報しているが、神奈川県の現状を見れば、静岡県がリニア開業を遅らせているというのはJR東海がつくった風評だ」

山梨県工事の中止を要請

神奈川県内の用地取得などが遅れていることをJR東海に公表させて、2027年開業が無理なのは静岡県の責任ではないことを世間に印象付けたかったのでしょう。

しかし、工事が遅れている最大の要因は川勝知事の妨害であり、とんでもない詭弁です。

神奈川県の黒岩祐治知事は、静かな怒気を込めながら、こうコメントしました。

「川勝知事がどういう根拠でそのように発言されたのかよく分かりません。建設予定地にある家の8割が契約済み。2027年(開業)ということから考えれば着実に進んでいる。(JRの)金子社長にも話をしたところ、『スケジュールどおりいっている』という話なので、我々としてはそういうメッセージをお伝えしたい」

翌10月26日、関東地方知事会の定例会前に、川勝知事と黒岩知事はリニア工事の一件について立ち話をし、わだかまりは解消したということですが、政治は「大人の対応」の世界。実際のところはどうかわかりません。

川勝知事は、隣県である山梨県にもいちゃもんをつけ始めました。

10月13日、山梨側になんの相談もなく、山梨県内のトンネル掘削工事をストップするようJR東海に要請したのです。川勝知事がJR東海に送った文書では、山梨県内のトンネル掘削で、距離的に離れていても高圧の力が掛かり、静岡県内にある地下水が山梨側に引っ張られ、静岡県内の湧水に影響する可能性を示唆。それを回避するために、静岡県境へ向けた山梨県内の工事をどの場所で止めるのかを決めろという。

ほとんど言いがかりで、理論上、トンネル掘削をすることで高圧の力が掛かり、地下水を引っ張ることはあるにはありますが、断層帯がない限り極めて微量。現在のような締め固まった地質ではそのような現象は起こらない可能性も高い、というのが専門家の見方です。

JR東海は、川勝知事の要請に困惑。頭越しに工事中止を要請された山梨県の長崎知事は、こう怒りをあらわにしました。

「静岡県がJR東海にそういう申し入れをしたのだとすると、中身の是非を別として、行政のやり方として、私はもう少し山梨県に対して礼を尽くすべきじゃないのかなと思います」

長崎知事が怒るのももっともです。そもそも、山梨県の工事を止める権限も権利も川勝知事にはないのですから。

山梨県の「大人の事情」

この件に関し、川勝知事の記者会見では厳しい質問が飛びましたが、まったく反省の色はありません。

〈川勝 長崎知事は怒ってないと思います。もう我々とは、1回、2回の付き合いではなくて、(中略)信頼関係は盤石です。

――行政の進め方として、山梨県がかかわる部分に対して、山梨県の頭越しにこういうことをやってしまったからこそ、長崎知事はお怒りになっているわけで、なんでそのような根回しができないんですか。

川勝 根回しをするほどのことでもないと私は思っております。長崎知事は、この件についてはもうすでに十分にわかっていらっしゃると思います。

――わかっていないからこそ、この間の長崎知事の定例(会見)でお怒りだったんじゃないでしょうか。

川勝 初めてそのことを知ったときの最初のリアクションだったんじゃないですか?〉

この記者会見の翌日、川勝知事が関東地方知事会議で長崎知事に直接、“あいさつ”したことで、長崎知事は

「(軋轢は)完全解消した」とコメントしていますが、山梨県内の工事ストップを了解したわけではありません。

長崎知事が、一応、今回の件を水に流したのは、大人の事情もあるように思います。

ご存じのように、静岡と山梨は隣り合っていますが、人口は山梨が80万人、静岡が360万で経済規模にかなり差があります。

観光キャンペーンなど、静岡と山梨で一緒になにかやろうとすれば、山梨は静岡に頼る部分が少なくありません。

たとえば、いま静岡と山梨は新型コロナの感染拡大で影響を受けている農畜水産物を互いに購入しあって相互に助け合う「バイ・ふじのくに」というキャンペーンを行っています。

静岡県内で山梨県物産市をやれば大勢のお客さんが買ってくれますから、山梨にとって静岡との連携は経済的なメリットが大きいのです。

長崎知事も頭のいい人だから、「メンツ」よりも「実利」を取ったのでしょう。

破綻している川勝知事の主張

しかし、大人の対応でその場を収めても、川勝知事のいちゃもんは止まりません。

12月に入ると、今度、川勝知事は、山梨のトンネル掘削工事のために先立って行うボーリング調査まで問題にし始めました。

川勝知事は、「水抜きがあり得る高速長尺先進ボーリングが静岡県の地下水圏に近づくことは同意できない」という意見書をJR東海に送付。静岡新聞のインタビューに対しても、「(ボーリング調査は)調査の名を借りた水抜き工事だ」 「強引にするのはおかしい。JR東海の(世間に対する)信頼が厳しくなる」と口を極めて批判。

もし、山梨県内でボーリング調査を行えば「湧水の全量戻し」は“実質破綻”する、とJR東海を恫喝しました。

「ボーリング調査は水抜きだ」と言われると、静岡県民は「静岡県の水が抜かれてしまう」と勘違いするかもしれませんが(川勝知事はそういったミスリードが実にうまいのです)、トンネル掘削に比べればはるかに微量であり、そもそも山梨県内で水抜きすることには何の問題もありません。川勝知事は、山梨県内の地下水の所有権は静岡県にあるとでも言うつもりでしょうか。

「湧水の全量戻し」が“実質破綻”すると川勝知事は言いますが、そもそも「湧水の全量戻し」の定義は、「静岡県内のリニア工事で発生するトンネル湧水全量を恒久的に大井川に流すこと」。

つまり、山梨県内のボーリング調査や工事で発生するトンネル湧水は「全量戻し」とは無関係なのです。川勝知事の「全量戻し」の主張こそ、“破綻”しています。

金子慎社長も定例記者会見で、「大井川の水資源利用に影響を与える可能性は極めて小さいと考えている」 「湧水は少し発生するかもしれないが、だから調査をやめていいのかというのが私たちの考えだ」と川勝知事を牽制しました。

意見書の重大な誤り

今年に入って、もっとも話題になった川勝知事のリニア妨害は、岸田総理への意見書でしょう。

発端は1月4日、岸田総理がリニア開業後に静岡県に停車する東海道新幹線の本数について、今年の夏をめどに調査結果をまとめる方針を示したことでした。

この見え見えの懐柔策に、会見でいつもの「川勝劇場(激情)」が炸裂。

「今頃それを言って静岡県民を喜ばせようというレベルの低さ、これはどなたでしょうか。(国交省の)鉄道局長なのか、鉄道局長を務めた担当審議官なのか、この担当がいかにレベルの低い議論を大臣や、ましてや総理にまでさせているか、私は慨嘆している。反省しなさい」(1月5日)

そして1月24日、岸田総理の事務所に意見書を送付。意見書には「品川―名古屋間」までの部分開業、大阪までの全線開業のそれぞれの段階で、県内に停車する1時間あたりの「ひかり」と「こだま」の本数や、「のぞみ」からリニアへと乗り換える乗客の割合などのデータを示すよう求めました。

1月24日の会見で、川勝知事はこう語ります。

「私の今回の質問の大きなポイントは、東京(品川)―名古屋間。これについてのシミュレーション」

「2027年に開業できたとして、その後、大阪まで開業するのに目下の計画ではさらに10年かかる。単純に計算すれば、14~15年は品川から名古屋しかないわけです。この時にどうなっているかということは、いまここで生活している人たちにとっては、やっぱり知りたいことじゃないでしょうか」

要するに、川勝知事としては、停車駅がない静岡にとって、リニアのメリットなどないと強調、議論をひっかき回し、パフォーマンスに利用したかったのでしょう。

2027年の部分開業について云々といったって、早期に開業したほうがいいに決まっています。

この岸田総理への意見書、静岡県のウェブサイトに公開されているのですが、見過ごすことができない重大な誤りがありました。

「JR東海の長期債務残高『6兆円』問題」という見出しで、こう書かれていたのです。

〈JR東海は、(2010年の)中央新幹線小委員会で「長期債務残高を『5兆円以内』とすることが適切かつ必要」(中略)しかし、現在のJR東海の長期債務残高は健全経営の限度「5兆円以内」を優に超えている。国に提出した事業計画とは明らかに異なる事態で、政府による検証が必要である〉

つまり、現在のJR東海の経営が危機的であると糾弾しているのです。

JR東海は川勝知事を訴えろ!

しかし、これは全くの嘘です。公開されているJR東海の財務諸表を調べてみると、長期債務残高は「4・94兆円」。そのうち、「3兆円」は元本返済30年猶予、超低金利の財政投融資の債務で、コロナ禍にもかかわらず、かなりの健全経営です。

川勝知事は意見書を送る前から、

「6兆円になる債務、長期債務残高ではやっていけない。ところが、(現在)6兆円になっています」
「借金が6兆円ありますからね。長期債務残高が。そういうなかでどうやっていくのか」

と、「JR東海の長期債務残高は六兆円」を連発していました。

意見書を作成していた事務方は川勝発言を鵜みにしたのでしょう。実際、担当部署に「『5兆円以内』を優に超えている」の内訳を教えてほしいと何度も問い合わせましたが、誰ひとり答えられなかった。

川勝知事は、早稲田の大学院で経済学を専攻した経済学者のはずですが、「62万人の命の水」といい、「JR東海の長期債務残高は6兆円」といい、数字の間違いが多い。本当に経済学者かと疑いたくなります。

私が間違いを指摘して、意見書は修正されましたが(岸田総理の事務所にも“こっそり”修正版が届けられました)、それにしても今回のはひどい。県知事が一企業を名指しして、「経営の危機に瀕している」とマスコミで語り、県のウェブサイトにも掲載したのです。

JR東海を本当に経営の危機に陥れる重大な過ちにもかかわらず、川勝知事は現時点で、今回の“風評加害”について謝罪していません。

JR東海は、リニア妨害のことも含めて、業務妨害で川勝知事を訴えたらどうか。

私が危惧しているのは、川勝知事のリニア妨害によって、政府と静岡県の関係が悪化、静岡県が“制裁”を受けることです。

今年のG7サミットは開催国が日本で、1年を通して関係閣僚会合が全国で行われます。閣僚会合が開かれると、地元は盛り上がりますし、さまざまな経済的メリットがある。

静岡は東京からのアクセスもいいし、富士山もよく見えますから、会合するのには絶好の場所。選ばれてもよさそうなものなのに、今回、選ばれませんでした。私には、リニア妨害を続ける川勝知事に対する「制裁」のように見えます。

もし制裁だったとすると、川勝知事のリニア妨害によって、静岡県民全体が割を食っていることになる。今後、そういった「目に見えぬ制裁」が増えてくるかもしれません。

川勝知事は静岡放送「LIVEしずおか」の2023年1月6日放送の新春知事対談に出演し、JR東海の社長が県庁へ来た際のことをこう言いました。
「静岡県を悪者にするという最後の花道をつくるつもりかと思った。2027年の開業を邪魔しているのは、すべて静岡県だと」

JR東海をスケープゴートにしようとしたのかもしれませんが、静岡県を悪者にしているのは、紛れもない川勝知事自身です。

リニアは、一企業の事業ではなく、国家プロジェクト。『知事失格』のなかでも書きましたが、南海トラフ地震、首都直下型地震が来たら、現在の東海道新幹線はひとたまりもありません。その時に首都圏、関西圏を結ぶ基幹インフラとして、中央新幹線が重大な役割を担います。一知事が妨害していい話ではないのです。

川勝知事は口がうまく、多くの静岡県民、いや国民をミスリードしています。

一人でも多くの人に『知事失格』を読んでいただき、「川勝劇場」終幕の「花道」をつくりましょう。

(初出:月刊『Hanada』2023年4月号)

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小林一哉(こばやし・かずや)

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