重さ8キロの巨大ダイコンも!伝統作物、普及目指す 鹿児島で学校拠点に保存の取り組み、子どもたちも一緒に

指宿市立開聞小学校に種取り用として植栽された松原田ダイコン=3月2日、鹿児島県指宿市

 生産者が減って流通に乗らず、消滅の危機にある伝統作物を、学校を拠点にして保存し、地域に「里帰り」させようという動きが鹿児島で活発化している。子どもたちが校庭で育てて給食で食べたり、特徴や歴史を調べたりするなど、貴重な教育資源にもなっている。「伝統作物は地域の文化。次世代につなげたい」。試行錯誤しながら継承に取り組む保存団体や学校の活動を追った。(共同通信=高槻義隆)
 ▽先祖が命をつないだ食材
 伊敷長ナス、松原田ダイコン、佐仁ニンジン…。2019年に発足した「鹿児島伝統作物保存研究会」会長で、鹿児島大農学部教授の志水勝好さん(56)によると、「鹿児島は伝統作物の宝庫」。研究会がこれまでに集めた伝統作物は約130種に上る。離島が多く、交配種が伝わりにくかったことに加え、地域で行事食の食材として継承されていたことなどが理由とみられる。
 研究会の事務局幹事で、鹿児島大の技術職員中野八伯さん(43)は、県内の小学校から短期大まで約10校を回り、栽培を指導している。「先祖が命をつないできた大事な食材。発信しないと消えてしまう」と危機感を抱く。

鹿児島市立玉江小学校で伊敷長ナスなどの伝統作物について説明する中野八伯さん(奥)=2021年4月(玉江小提供)

 ▽そぼろ煮にして「おいしい」を連発
 鹿児島市伊敷地区で1960年ごろまで育てられていた強い甘みが特徴の「伊敷長ナス」。成長に時間がかかり、生産者が減っていたが、市立玉江小の5年生が2021年、校庭で育てる「里帰りプロジェクト」を始めた。中野さんの指導を受け、種まきから始めて100本余りを収穫し市場で販売した。有川武教頭は「子どもたちは達成感を得て自信を持つようになった」と話し、成長にもつながったと明かす。
 全校児童生徒10人の鹿児島県瀬戸内町立篠川小中学校でも、中野さんの提案を受け町内の古志集落に伝わる「古志大根」を育てた。今年2月に約60キロを収穫して給食に使い「そぼろ煮」で食べた子どもたちは「おいしい」を連発したという。
 指宿市立開聞小で子どもたちが昨年から育てているのは、開聞岳山麓の集落で栽培されてきた「松原田ダイコン」だ。長さが60センチ、重さが8キロにもなる。PTA会長の迫中誠一さんは「学校から発信し、生産者が町の特産として作れば、伝統野菜も残る」と話す。種子の採集までめどが立ち、今年はさらに本格的な栽培に取り組む予定だ。

鹿児島市内で伊敷長ナスの苗を販売する市立玉江小学校の児童たち=2022年5月(玉江小提供)

 ▽ブランド化も目指す
 伝統作物を継承していく上で、子どもたちの活躍に期待する中野さんは、栽培指導に当たる前、話題作りに余念がない。心をつかみたいと、子どもたちが好きそうなマンガ本を読みあさったこともある。「活動の大半は子どもたちとの遊びです」と笑う。今後、それぞれの学校が、種を保存する「シードバンク(種子銀行)」の役割を担い、地域にも広げていってほしいと願う。
 志水会長は伝統作物をいかに普及させ、消費者に結びつけるかが課題だと指摘する。伝統作物のブランド化を目指しているといい「保存した種子をデータベース化して公開し、興味のある農家に種子の分譲を進めたい」と意気込む。
 ▽「島の味」を守りたい
 鹿児島市から南西約380キロに位置する奄美大島。太平洋戦争後、奄美大島を含めた八つの有人島から成る奄美群島は米軍に占領され、1953年12月に日本に復帰した。奄美群島振興開発特別措置法により急速に社会基盤の整備が進んだが、生活様式の変化とともに伝統作物も市販の種に置き換わっていった。

 そうした中で、代々伝わる「島の味」を守ろうと2017年末に発足したのが「奄美伝統作物研究会」だ。メンバーは料理研究家や農家など約20人。新型コロナウイルス禍の間は活動を休止していたが、今年1月22日の旧正月行事で3年ぶりに再開した。
 島ダイコンや紫色の山芋、島豚など伝統食材を使って、儀礼食「三献(さんごん)」や、豚骨と野菜の煮物を昔ながらに調理。県立大島北高(奄美市笠利町)の生徒ら数人も加わり、みんなで味わった。

奄美伝統作物研究会の旧正月イベントで出された行事食=1月22日、鹿児島県奄美市

 ▽食物繊維が豊富
 大島北高では2年前から、生徒たちが探究学習の時間を使って、町内の佐仁集落に伝わる「佐仁ニンジン」について調べ、普及させる活動をしている。佐仁ニンジンは一般的なものより細く、子どものおやつになったほど甘みが強いのが特徴。大島北高が鹿児島県薬剤師会試験センターに成分分析を依頼したところ、食物繊維などが豊富なことが分かった。
 探究学習担当の齋藤孝誠教諭は「地域に引き継いでいこうとする生徒たちの活動を応援したい」と希望を抱く。

校区内の住民に佐仁ニンジンの種子付きリーフレットを配る大島北高生=2022年7月3日、鹿児島県奄美市(大島北高提供)

 全国の在来作物のデータベースを作っている山形大の江頭宏昌教授は3月下旬、奄美大島を訪れ、伝統作物を調査した。「何とか手を打たないと、伝統作物と一緒に伝わってきた食文化も消えてしまう」と懸念するが、学校の役割に期待し「栽培、流通、宣伝などそれぞれの役割に関心を持つ人が増えれば地域の活力も高まると思う」と話した。

大島北高で育てられている佐仁ニンジン=2022年12月23日、鹿児島県奄美市(大島北高提供)

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