NHK受信料や電気代を「自腹」で支払う自衛隊員の悲哀|小笠原理恵 自衛官候補生採用案内には「入隊後は宿舎での生活となります。居住費はかかりません」と書かれているが、果たして本当なのか。電気ポットや冷蔵庫の電気代だけではなく、テレビがないのにNHKの受信料も徴収されていた――。

任期制自衛官の採用、ついに半分以下に

自衛隊で働きたい人が明らかに減っている。防衛省・自衛隊が2022年度に採用した任期制自衛官候補生は計画人数の半分以下であり、これまでで最も低かった18年度の72%を大幅に下回る40%台後半だった。自衛隊の将来を担う「士」クラスの若年隊員が激減したことになる。

国防は国の提供する最大の福祉である。警察は治安を維持し、自衛隊は国を守る。軍事侵攻やテロから国民の生命と財産を守ることは容易ではない。志願制の自衛隊員は自らの意思で入隊し、その厳しい職務を遂行するかけがえのない存在だ。自衛隊の人材不足は、防衛予算を低く抑えることを重視し、自衛隊員を冷遇してきた国の責任である。

少子高齢化を理由にしているが、今の給料水準では命を懸ける危険な職業は選ばれにくい。ウクライナ戦争の様子は日本でも報道され、戦争の惨状はイメージしやすい。また、スマホで調べればいくらでも職場情報を検索できる時代だ。自衛隊員の職場待遇の悲惨さを隠すことなどできない。

たとえば自衛隊は国民と違い居住について制限を受けている。日本人は日本国憲法第22条で居住の自由を保障されており、公共の福祉に反しない限り、好きな場所に住み、引っ越しする自由がある。

しかし、幹部自衛官は営外での居住を許可されているが、下士官にあたる自衛官は自衛隊法(第55条)で「防衛省令で定めるところに従い、防衛大臣が指定する場所に居住しなければならない」。自衛隊員は国の都合によりその権利を歪められているのだ。

実際には2曹以上または、結婚した隊員は営外居住許可を出す柔軟な対応もある。しかし、それ以外の隊員が営内居住であることは変わらない。営内の生活では警衛や当直といった業務も加算され、募集説明時に聞いていた年休や有休、代休取得にも上司の許可や行動計画の提出が必要だ。一般社会ではカレンダー通りにとれる休日や、仕事時間以外の外出にもいちいち許可が必要なのである。

「居住費はかからない」は本当か?

自衛官候補生採用案内(公式なパンフレット)で「入隊後は宿舎での生活となります。居住費はかかりません。(※平日の勤務時間終了後及び休養日、祝休日は、許可により外出することができます)」と広報している。

休日の外出にも許可が必要だと明記したことは誠実だが、「居住費はかかりません」という記述には首を傾げざるを得ない。自衛隊の宿舎(=営内)では家賃は取られないが、生活に関わるこまごまとした経費が隊員の自腹負担だ。

たとえば、電気代は細部にわたって隊員に請求されているのだ。電気ポットやテレビ、冷蔵庫などわずかな電気代の請求書がこちらだ。

職場で社員が携帯の充電や冷蔵庫を利用していたら、その分の電気代を社員に請求する会社があるだろうか。一般社会では当たり前の福利厚生の概念が自衛隊にないのかと調べると、この請求開始の根源は防衛省ではなかった。守銭奴は会計検査院なのである――。

電気代の問題を和田政宗議員が質問

平成18年の決算検査報告において、会計検査院は防衛省に対して「営舎内に居住する自衛官が居室内で使用する電気器具の電気料金を当該自衛官に負担させるなど、基地等における電気料金の支払を適切なものとするよう是正改善の処置」を求めた。

4月24日、参議院決算委員会で「自衛隊の営舎における電気代の問題」について、自民党の和田政宗参議院議員が質問したところ、会計検査院側はこう説明した。

「航空自衛隊において、各基地における私物の電気機器の使用の実態を調査するとともに、これらの使用及び電気料金の負担に関する規程を定め、使用実態に即した電気料金を当該使用者に負担させるなどの処置を求めたものであります」

和田政宗議員は「自衛隊において、営内居住自衛官の私用電気代は何が対象で、どういうふうに算出しているのでしょうか」と質問。これに対して政府参考人は以下のように答弁した。

「営舎内に居住する自衛官の私物品については陸海空各自衛隊においてそれぞれ規則を定めており、生活を営む上で必要最小限のものとされています。その私物品に係る電気代については、電気アイロンやズボンプレッサーなど服務指導上必要なものや定格容量50ワット未満の電気機器については無償としていますが、定格容量50ワットを超える私物の冷蔵庫や電気ポットなどについては所属部隊において電気代を徴収しています。電気代の算出については、事前に機器ごとに定めているひと月当たりの標準使用時間数と個々の電気機器の定格容量から電気使用量を算出し、月々の電気代を算定しております」

筆者はこの金額にも疑問がある。この算定方法では個人使用の電気代が正確に計算できるはずがない。正確とはいえない算定方法で国は個人に請求していいのか。また、他の省庁でも同様に電気ポットを職員が使う場合は請求しているのか。公平性にも疑問が生じる。防衛省だけのルールならば職業差別といってもいいだろう。

さらに和田政宗議員は問題の根幹にあたる質問を防衛大臣にした。

「営舎内に居住する自衛官は、法令によって営舎内に居住することが定められています。ポットや冷蔵庫、私、これは生活必需品と思いますが、こうしたポットや冷蔵庫の電気代、防衛省で負担するべきではないかと考えますが、大臣、いかがでしょうか」

浜田靖一防衛大臣は 「私用電気機器の実態を踏まえた定格容量の見直しなどの検討をこれからしてみたいと考えております」と答弁した。

見直しの検討という言葉は一歩前進だが、ここで自腹負担させないと明言していただきたかった。

テレビがないのにNHK受信料を支払う?

電気代以外にもNHK受信料も営内の隊員は自腹請求されている。自衛隊内では食堂や幹部の居室などにテレビが置いてある。許可をもらって自分専用のテレビを持つ隊員もいる。隊員個人が契約した分だけ支払えばよいとする誠実な拠点もあるだろうが、杜撰な拠点では営内で自衛隊が設置したテレビや個人所有分を合算して、隊員全員でその契約料を支払うという。

若い人たちはYouTubeや動画のストリーミングを利用し、テレビなどみない。ある自衛官はこう憤る。

「テレビを持ってないしテレビがあってもオレは見ない。なんで嫌いなNHK受信料を請求されなきゃならないのかわからない。支払いたくないと文句をいったら、逆切れされた」

テレビ受信契約の意思もなく、テレビをみる装置もないのに受信料を取られるのは苦痛だ。自衛隊では理不尽な命令に従わないといけないが、契約もしていないNHK受信料を隊員に負担させる理不尽に従わせる根拠はどこにあるのだろう。

考えてみてほしい。会社の食堂にテレビがあったとして、そのNHK受信料が社員に請求されたらどう思うだろうか。

隊員の自腹負担は装備品、NHK受信料、電気代と際限がない。こんな自衛隊員を搾取するやり方がなくならないうちは、自衛隊員に採用されて自衛隊に入隊した隊員もすぐに辞めてしまうだろう。一般社会にある最低限の福利厚生という概念。経費は会社持ちという常識を自衛隊が身につけるまで採用難は続くはずだ。

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小笠原理恵

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