【マレーシア】自然電力、越境サポート強みに[公益] 太陽光発電に挑む日本企業(1)

自然マレーシアはこれまでに地場企業や日系企業と屋根置き型太陽光発電設備を利用した長期電力売買契約(コーポレートPPA)を締結している。写真はトップグローブ・コーポレーションとの契約調印式の様子=22年4月(自然電力提供)

マレーシアでは、環境意識の高まりから再生可能エネルギーが普及しつつある。中でも屋根置き型太陽光発電の需要が拡大しており、日本企業の参入が相次いでいる。マレーシアの太陽光発電市場にいち早く参入した自然電力(福岡市)は、同国を東南アジアの統括拠点と位置付け、日本の質やサービス、東南アジアでのクロスボーダー(越境)サポート体制を強みに、日系を含む企業の需要の取り込みを図る。

自然電力は2019年8月、海外事業子会社の自然・インターナショナル(福岡市)とスランゴール州プタリンジャヤに東南アジアの統括拠点として自然マレーシアを設立。現在、東南アジアではマレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピンの5カ国で太陽光発電や風力発電を手がけている。

自然マレーシアのウリ・ゴルテンボット社長兼最高経営責任者(CEO)は、「東南アジアの統括拠点をシンガポールに置く企業が多いが、賃料や人件費が高く、市場も小さいため再エネ事業の商機がほぼない。一方、マレーシアはシンガポールより市場が大きく、コストが抑えられることに加え、東南アジア諸国の中で再エネ関連の制度が比較的整備されていることから統括拠点とすることに決めた」と話す。

マレーシア政府は、16年に余剰電力買い取り制度「ネット・エナジー・メータリング(NEM)」を導入。発電量が消費量を上回った場合、余剰電力を国営電力テナガ・ナショナル(TNB)に売電できる。隣国タイと異なり、屋根置き型太陽光発電でも余剰電力の売電が可能だ。

また、マレーシアは日照時間と日射量が太陽光発電に適しており、自然電力が事業を展開する東南アジアの中心に位置する地の利も決め手となったという。

電力売買契約(PPA)には、需要家の施設の屋根や隣接地などの発電設備から電力を直接供給・販売する「オンサイトPPA」と、遠隔地の発電設備から電力系統を通じて需要家の施設に電力を供給・販売する「オフサイトPPA」の2種類がある。自然・インターナショナルの牛窪伶氏(事業開発ディレクター)によると、マレーシアでは東南アジアで唯一、オフサイトPPAが認められていることも特徴だという。

自然マレーシアのゴルテンボット社長兼CEO=3月、スランゴール州(NNA撮影)

■外資系と地場大手をターゲットに

自然マレーシアはこれまでに、マレーシアのゴム手袋世界最大手トップグローブ・コーポレーションと屋根置き太陽光発電設備を利用した長期電力売買契約(コーポレートPPA)を2件締結。トップグローブがマレー半島部で操業する工場の屋根に太陽光発電整備を設置し、電力を供給する。

今年3月には、キノコの生産・販売を手がけるホクトのマレーシア法人ホクト・マレーシアと、屋根置き太陽光発電設備を利用したコーポレートPPAを締結したと発表。マレーシアで日系企業とコーポレートPPAを締結するのは初めてで、ホクト・マレーシアがヌグリスンビラン州バンダルエンステックで操業する工場に屋根置き太陽光発電設備(直流の発電容量0.73メガワットピーク)を設置し、余剰電力をテナガに売電する。

ゴルテンボット氏は、「マレーシアの電気料金はタイなど東南アジア諸国と比べて安く、製造業にとって投資先としての魅力となっていた。しかし近年、産業用電気料金引き上げの動きがあり、環境対策だけではなく、コスト削減の観点からも太陽光発電の導入がより加速していくとみている」とコメント。日系や多国籍、トップグローブのようなマレーシアの大手製造業をターゲットに、屋根置き型太陽光発電設備の設置を促進していく方針を示した。

マレーシアには屋根置き型太陽光発電事業を手がける地場企業が数多くあるが、日本語での対応を強みに、今後、日系企業への営業も強化していく。自然電力は事業を展開する東南アジア5カ国で技術者を抱えており、それぞれの国や案件を個別に担当するのではなく、クロスボーダーで支援し合っているため、問題が起きてもすぐに対応できる。「日本語だけではなく、クロスボーダーのサポート体制を強みに他社と差別化を図っていく」(牛窪氏)という。

<メモ>

自然電力

11年6月設立。グループとして太陽光・風力・小水力・バイオマスによる再エネ発電所の開発から建設、保守運用まで一気通貫で手がけている。16年から海外事業にも注力しており、東南アジア・ブラジルを中心に開発・発電事業を展開。マレーシアでは屋根置き型太陽光発電事業のほか、地場企業ヌサ・バイドゥリとコンソーシアム(企業連合)を結成し、マラッカ州で東南アジア最大規模の浮体式太陽光発電所(発電容量150メガワット)の建設に向けた事業化調査も実施している。

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