<社説>日韓首脳会談 歴史問題は放置できない

 岸田文雄首相は韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領と会談し、両国の関係を「未来志向」で深化させる方針を確認した。3月の会談で合意していた関係正常化をより進めるもので、「シャトル外交」の本格再開は一定の成果と言えよう。 ただ、首脳同士の相互訪問の再開からさらなる関係の深化へと前進させることができるかはまだ不透明だ。両国間に横たわる歴史問題にどのように向き合うかが問われよう。日本政府はこの問題を放置してはならない。

 岸田首相は元徴用工問題を含む歴史認識について「心が痛む思い」と述べた。この言葉自体は2015年に安倍晋三首相も用いており、与野党も容認姿勢だ。

 一方、尹大統領は「歴史問題が完全に整理できなければ未来の協力へ一歩も進めないとの認識から脱却しなければならない」と述べた。会談で確認した「未来志向」の方針に沿った見解であろう。韓国世論の受け取り方は複雑だ。

 両国関係は悪化の一途をたどっていた。それが改善へと向かったのは、元徴用工訴訟で日本企業に賠償を命じた韓国最高裁の確定判決を受け、尹大統領が肩代わり策を決断したことによる。

 韓国内ではこの決断について「屈辱外交」との批判が渦巻く。3月の韓国の世論調査結果でも「日本に好感を持っていない」が70%に達した。岸田首相の「心が痛む」発言についても、韓国各紙は「まだ不十分だ」と評した。停滞ムードを拭い去り、歩調を合わせるような両首脳の姿勢には依然として厳しい目線が向けられている。

 日本政府は元徴用工を含む請求権問題は「1965年の日韓請求権協定で解決した」との立場だ。ただ、専門家の間には人権尊重の観点から、個人の賠償請求権は消滅していないとの指摘もある。

 岸田首相は植民地支配への反省と心からのおわびを明記した98年の日韓共同宣言に触れ、「政府の立場は今後も揺るがない」と明言した。韓国政府の肩代わり策には元徴用工の原告の一部が反対している。両国の関係を深めるためには歴史問題に向き合い続けるべきだ。日韓共同宣言を堅持すると表明した以上、政府は原告らの理解を得る努力を継続する必要がある。

 日韓共通の懸案として北朝鮮の核・ミサイル開発がある。解決に向けて日韓が北朝鮮との対話を促進させることは、東アジアの安定、平和の維持に貢献するだけではなく、両国関係の新時代を象徴するものともなるだろう。

 19日開幕の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の際には日米韓首脳会談が開催される。日本政府は北朝鮮のミサイル発射などを受けて軍事力増強にひた走るが、いたずらに緊張を高めかねない。日韓首脳の信頼関係を基に北朝鮮との対話の道筋を付けることにリーダーシップを発揮してもらいたい。

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