被災しても“1人じゃない” 話を聞き 共感し…「伴走型支援」の必要【わたしの防災】

大雨シーズンが近づいてきました。5月8日は静岡県内各地で警報が発表され、川の護岸が崩れたニュースをお伝えしましたが、大雨などで被災すると短時間では元の生活に戻れません。2022年9月の台風15号の浸水では今も苦しむ人たちがいて、長期にわたる心の支援の必要性が見えてきました。

<静岡市清水区の床上浸水した住宅>

「よいしょ。どう?」「あ、ダメだ、これじゃダメでしょ」

タンスの底にびっしりと生えていたのはカビ。台風15号による浸水で床上20cmの被害を受けた住宅に5月1日、ボランティアが訪れました。

「床が全部カビで…」「これ全部カビですか…」

家の人は水が浸かった場所を何度も拭いた上で数十万円かけて業者に点検を頼みましたが、7か月経って初めてカビの被害に気付きました。

<台風15号で自宅が浸水 平岡敏彦さん(75)>

「大丈夫そうだねってみんな言って帰る。俺もはじめ楽観してたんだけど、ちょっと家具動かした時にあんななっててびっくりしちゃった。こういう人に頼まないとできない」

時間が経ってから見えてきた被害。細やかな支援が必要なため、2023年1月、静岡市は社会福祉協議会と連携して地域支え合いセンターを立ち上げました。専門知識を持ったボランティアと被災者をつなぎます。

<静岡市地域支え合いセンター 津野邉 豪さん>

「一人じゃないんだ、仲間がいるよ…きょうもいっぱい来てますけどこの人たちが見守ってくれてるんだったら相談してみようかなと思ってもらえる」

“一人ではない”と知ってもらう見守り支援は支え合いセンターの大きな役割です。

「支え合いセンターです」

この家に住む60代の女性です。時間が経って緑が茂ってきましたが、台風15号の際には裏山が崩れ、家の周りに土砂が堆積。命からがら避難したといいます。

<被災した女性>

「雨が降ると落ち着かないんですよね、車も流されているので」

<支え合いセンターの職員>

「耳で雨の音を聞くと体が震えてくる…」

<被災した女性>

「ほんとね、おかしくなっちゃった私。分からないですね、自分がなってみないと」

<支え合いセンターの職員>

「なんで私ばっかりなんだろうと毎回葛藤しながら半年過ぎてきちゃったね」

支え合いセンターは県営住宅への入居を勧め、大雨シーズンを前に仮住まいが決まりました。

<被災した女性>

「すごい話が広がっていって止まっていた時計が動き出したみたいな。(涙ぐんで)あーすみません。人に頼ればいいんだと思った」

話を聞き、共感すること。その重要性が増す一方、支援を隅々まで届ける難しさもあります。

<支え合いセンターの職員>

「本当にごく一部の人たちは声を上げているけど、声を上げられない人たちはまだまだいる」

「誰が気付くのか、地域で気づけるのか。地域で取り残さないように」

静岡市地域支え合いセンターの職員は5人。被災した高齢者などを中心に120世帯の見守りを実施しています。

<職員同士>

「どうでした?きょう訪問行ってみて」

「行ったけど会えませんでした。外観の様子は変わらずで電気がついたままで」

必要な支援の準備があっても受け入れてもらえるかは被災者の気持ち次第。簡単にはいきません。

<静岡市地域支え合いセンター 津野邉 豪さん>

「最初は『支え合いセンターって何?』って感じ。信頼関係をつくりながらやっていくのは時間もかかるが、そこがすごく大事だと感じながら仕事している」

だからこそ力を入れているのは居場所づくりです。支え合いセンターとボランティアの拠点で定期的にサロンを開き、被災者や地域住民の交流の場をつくっています。

<被災した住民>

「知らないお友達が来るから、そこでみんな輪になってお友達になって集まったりしてやるのが楽しみですよ」

また、被災地域の子どもたちのために、県内の大学生の協力を得て無料の学習支援も行っています。

<支え合いセンターの職員>

「自分一人じゃない。心の手伝いもできれば物資の手伝いもできると改めて認識する場所」

1人も取り残さない災害後のケアの充実が求められています。

孤独死や災害関連死を防ぐことも見守り支援の大きな役割です。静岡市の台風15号による直接的な死亡事例はありませんでしたが、災害関連死の申し出はすでに4件届いているということです。激甚化、広域化する災害。被災後を想定した体制づくりは急務です。

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