「拷問ポルノ」を継承した超問題作が14年を経て日本上陸『クロムスカル』はハマったら逃れられない底なし沼

『クロムスカル』© 2009 DRY COUNTY FILMS,LLC.

「殺して撮る!」

なんてかっこいい売り文句なのだろう!

世のスラッシャー映画好きが映画を評価する際、もっとも重要になるのは「殺害シーン」のインパクトだろう。どれだけリアルなのか? どのくらい血が出るのか? どのくらい痛そうなのか?

“その趣味”がなければ「ただの変態じゃないか!」と思われるだろうが、この世界は一度ハマったら帰ってこられない底なし沼だ。

とにかく残虐、身体も丈夫

『クロムスカル』に登場する殺人鬼クロムスカル。その名の通り銀色の骸骨マスクを医療用の糊で顔面に貼り付けたスキンヘッド野郎。肩には型落ちのDVカセット方式デジカムを装着し、自ら凶行を録画し続ける彼はスラッシャー映画ファンの夢を叶えてくれる変態である。

とにかく彼は、目についた人間を殺して殺して殺しまくる。当然、録画しているのでインパクト重視。愛用の指通し付き巨大サバイバルナイフをカウボーイよろしくクルクル回しながら、余裕しゃくしゃくで腹を切り裂き、顎を砕き、頭を割る。

しかも体が丈夫。目を金属棒で突き刺されたり、2~3発弾丸をくらったりしても全く問題ない(痛がりはするし、ちゃんと自分で治療する)のだ。

そんな頼もしい変態殺人鬼に立ち向かうのは、記憶を失った女性シンディ。彼女は葬儀場の棺桶に閉じ込められた状態で覚醒。なんとか棺桶を脱出したところにクロムスカルが現れ、理由もなく追われ続ける恐怖の夜を味わうことになる。

シンディは助けを求めてコンビニや隣家を訪ねてまわるのだが、出会う人はかたっぱしから殺されてしまう。歩く死神と化すシンディ。しかし、妻をクロムスカルに狩られた男とパソコン大好き男と3人でクロムスカルに立ち向かうのだ。

シンディを演じるのは、『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011年~2019年)でサーセイ・ラニスターを演じたレナ・ヘディ。場面スチールを見ると気が付くかもしれないが、かなり若く見える。実は『クロムスカル』2009年制作の映画なのだ。

「拷問ポルノ」というジャンル

本作がやたらと“殺し”を“見せる”ことにこだわっているのは、当時流行していた拷問ポルノフォーマットを踏襲したからである。

拷問ポルノ(Torture Porn)とは2000年~2010年にかけて制作された、いわゆる“スプラッター映画”と“スラッシャー映画”をハイブリッドし、暴力、流血、ヌード、拷問、人体破壊、サディズムの描写がブーストされたホラー映画群を指す。

この呼称はアメリカの大御所映画評論家デヴィッド・エデルスタインが批判的な意味で使ったとされている。しかし、収益性の高さが注目され一時代を築いたのだ。

当時は様々な議論を呼んだサブジャンルであったが、現在は『マーターズ』(2007年)をはじめとするネオフレンチスプラッターの足がかりとなったことや、人体破壊描写の汎化を促したことから、一定の評価を得ている。

14年を経て日本上陸

『クロムスカル』は公開当時、スラッシャー映画マニア界隈で非常に話題となった作品だ。筆者も含め、多くの好事家がこぞって輸入盤DVDを購入。クロムスカル師匠の活躍に舌鼓を打ち、

「なぜ、この名作が日本公開されないんだ?」

と疑問に思っていたのである。

あれから14年、ようやくの劇場公開だ。いま改めて観ると演出自体は10年前のそれであるが、残酷描写は色あせていない。中でも巨大ナイフで顎をゴリっと砕くシーンは魅力十分だ。

残酷描写だけでなく、主人公シンディと男2名のキャラの深さもしっかりと描いており、「残酷であればそれでいい」といった当時のメインスタイルとは一味違った作品に仕上がっている。特に、妻を殺された男タッカーが漂わせる哀愁はシンディも霞む勢いだ。

本作には、なぜ「殺して撮る」のかが描かれた続編がある。そちらの公開も楽しみだ。続く3作目も企画されていたが、監督ロバート・ホールが2021年に亡くなってしまったため立ち消えとなった。

ちなみにロバート・ホールは、特殊メイク畑出身。彼の最後の仕事は、ベストセラー小説を映画化した『ザリガニの鳴くところ』(2022年)の特殊メイクアップデザイナー補である。

映画、特殊メイクに生涯をささげたロブを想いながら、14年間にわたって失われていた名作を楽しんでほしい。

文:氏家譲寿(ナマニク)

『クロムスカル』は2023年5月12日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

「特集:24時間 最恐のサイコスリラー」はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年5~6月放送

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