ル・マン前に“プラットフォームBoP”の変更を期待するポルシェ「LMDh内での性能は接近している」と主張

 WEC世界耐久選手権に今季より新型LMDh車両『ポルシェ963』で参戦しているポルシェのモータースポーツ担当副社長、トーマス・ローデンバッハは、第4戦ル・マン24時間レースの前に『プラットフォームBoP』が変更されることを「期待している」と語った。

 今季からのWECにおける新しいBoP(性能調整)のアプローチでは、ハイパーカークラスに参戦する『ル・マン・ハイパーカー(LMH)規定』の車両群と、『LMDh規定』の車両群において、その規則プラットフォームに属する全車が、シミュレーションに基づいて2レースごとに調整されるという選択肢が用意されている。

 つまり、第1戦セブリング、第2戦ポルティマオを経て行われた4月末の第3戦スパ・フランコルシャン6時間レースでは、この『プラットフォームBoP』が変更される可能性があった。

 スパに向けては、LMHの最低重量の増加が提案されているとの情報もあったが、レースウイークが始まる時点で、そのような変更は行われないことが確認されていた。

 現在のハイパーカークラスにはLMH規定でトヨタ、プジョー、フェラーリ、グリッケンハウス、ヴァンウォールが、LMDh規定でキャデラック、ポルシェが参戦している。今季ここまで、LMHのトヨタGR010ハイブリッドが3連勝中である一方、LMDh車両の最高位は第2戦ポルティマオでのポルシェ・ペンスキー・モータースポーツの3位に留まっている。

 スパにおいてローデンバッハは、6月のル・マンまでの間にプラットフォームBoPが見直されることを期待している、と記者団に語った。

 スパではトヨタ、フェラーリに続き、ポルシェ963は4位でフィニッシュしたが、そのレース後、「(BoPに)変化があるかどうか、は問題ではないと思う」とローデンバッハはコメントした。

「大きな問題は、何が変わるのか、ということだ。彼ら(シリーズ)はそれを明言していたし、私は彼らがそれを行うものと確信している」

「より興味深いのは、それが可能なのか、あるいはみんなに約束したとおりにうまく実行できるのか、ということだ。これは『仮に』ではなく、『どのように』という問題だ」

2023年WEC第3戦スパでは、トラブルに見舞われた6号車ポルシェ963

 ローデンバッハは、スパ戦の前にプラットフォームBoPが変更されることを想定していた、という。

 一方、3月のセブリングでの開幕戦で、FIAのサーキットスポーツ担当ディレクターであるマレク・ナワレッキは、プラットフォームBoPの変更は「必要な場合のみ」行われるだろう、と語っていた。

 ハイパーカークラスのBoPは、予選やレースのラップタイムをそのまま使うのではなく、シミュレーションされた車両データを使って計算される。これは、チームがいわゆる“三味線を弾く”のを防ぐためだ。

「ポルティマオの後、プラットフォームBoPが変更されると思っていた」とローデンバッハは言う。「だが、ル・マンの後にやると言われたんだ」。

「率直に言うと、我々は(スパでの変更を)期待していた。だが、それを決定するのは間違いなくFIAとACOだ。我々は、 ル・マン前に調整が行われることを明確に期待している」

 ローデンバッハはさらに付け加えて言う。

「明確に言えることは──判断したり理由を言うわけではなく──事実として、LMDhの車両を見ると、非常に(性能が)接近している、ということだと思う。WECではふたつの(LMDh)ブランドがあるが、4メーカーが争うアメリカ(IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権)に目を向けることもできる」

「それらは100%比較が可能であり、すべての車種はかなり近いところにいるように見える。セットアップがうまくいけば、ある部分ではこの車種が、また別の部分では別の車種が、アドバンテージを手にすることができるだろう。だが、それは言ってみればかなり狭い範囲での話だ」

「同様にWECでは、我々はキャデラックには非常に近いところにいると思う。しかし他のハイパーカー勢全体を見れば、明らかに(勢力の開きは)もっと広い範囲またがっている」

「これは、よりやっかいなことだと思うね。少なくとも、すべての人にフェアなチャンスを与えるという仕事は、非常に難しくなっている」

ポルシェのモータースポーツ担当副社長、トーマス・ローデンバッハ

 一方のトヨタは、スパとル・マンの間でプラットフォームBoPが変更されることはない、と考えている。

 トヨタのWECテクニカルディレクターであるパスカル・バセロンは、「このレギュレーションは公表され、合意されたものだ」と語った。

「それは公開されているし、議事録も残っている。ルールがどのようなものであるかを示す文書もある」

「これは、正確なスケジュールをもって合意されたものだ。全員に説明するためのプレスリリースはないがね。そこには、(規則を)調整する余地はない」

 ル・マン前のプラットフォームBoP変更の提案に対してトヨタは争うつもりかとの質問に対し、バセロンは「ルールの適用を争うべきではないはずだ」と答えた。

 今シーズンの開幕にあたり、FIAはル・マン後に行われるBoP調整は「シーズンを通じて1回のみ」とする文書を発表したが、これはプラットフォーム内の全車両ではなく、個々の車両に対して起こりうるBoPのアップデートを指している。

 また、そこには24時間レースの前にシリーズがLMHとLMDhを相対的に調整する「可能性がある」とも書かれている。

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