「負けとれん」日常へ前進 珠洲の地震で救助のママ、カウンターに

夫の一雄さんとカウンターで客を迎える西村さん(右)=10日午後8時半、珠洲市飯田町

 震度6強の地震に見舞われた珠洲市で10日、営業を再開する店舗が増え、日常の生活が徐々に戻ってきた。のれんを掲げる飲食店にサインポールの回る理髪店、夜の明かりも少しずつともり始めた。倒壊した自宅から救出され、九死に一生を得た正院町正院の西村信子さん(77)も経営するスナックを再開。余震が続くことに不安を抱えながらも、「負けとれんね」と前を向いた。

 「ママ、よく無事やったね」「ちゃんと足あるよ」。市中心部の飯田町にある「ラウンジ シャルマン」には午後8時の開店から間もなくして、常連客が訪れ、西村さんと、以前と変わらぬ冗談を交わした。

 店を再開した9日夜には花束やケーキを手に客が集まった。夫と訪れた安用寺千香子さん(58)は「ママの顔を見て安心した。地元の人にとってはこの店は希望の光」と喜んだ。夫一雄さん(80)と35年にわたって店を切り盛りする西村さんは「多くの人に助けてもらった命。1日1日を大切にして、少しでも恩返したい」とカウンターで迎えた。

  ●すし店5日ぶりのれん

 宝立町鵜島のすし店「幸ずし」は10日、5日ぶりに通常営業を再開し、店主の脇田賢さん(53)が「自宅の片付けなどで疲れた人に、地元の海の幸で元気を出してほしい」と腕を振るった。

 震度6強の揺れで、店の食器やグラス、酒瓶が割れ、ガス管2カ所に穴が開いた。ともに店に立つ父勉さん(76)は「50年商売やっとるけど、こんな怖い思いをしたのは初めてや」と振り返る。

 「食べるものがない人が困らないように」と地震後は片付けをしながら店を開けたが、ほとんど来客はなく、いったん休んで10日に再開。40代の男性客は「地震で身も心もくたくた。おいしいものを食べて気を晴らしたかった」と頬張った。脇田さんは「早く地震前のように宴会客や観光客に戻って来てほしい」と期待した。

  ●「気持ち明るく」理容室も再開

 建物の倒壊被害が多かった正院町正院では、理容室の「ヘアーサロンHEISHI」が9日から営業を再開した。店内の被害は少なかったものの、自宅は家具やテレビが倒れ片付けに追われた。3代目店主の瓶子(へいし)正明さん(73)と息子の明人さん(40)が客を迎え、「家は大丈夫だった?」「怖かったな」などと会話を交わした。

 11日からは毎日シャワーを浴びることができない避難者のために、無料で洗髪をすることも決めた。瓶子さんは「大変な時期だが、身だしなみを整えて、気持ちを明るくしてほしい」と話した。

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