今も救急搬送の困難事例が続出…コロナ5類化でも懸念される「医療崩壊」リスク

ゴールデンウイーク中盤の5月2日、全国のコロナ新規感染者数は2カ月半ぶりに1万5000人を超え1万6972人に。東京都も5月2日、3日と連続で2千人を突破した。

5月3日、国立感染症研究所の所長で専門家会合有志の脇田隆字氏は、日本テレビの取材に対し「“第9波”は、第8波より感染者が多くなる可能性がある」と警鐘を鳴らした。

一方、厚生労働省は、新型コロナの感染症法の位置づけを、現在の2類相当から5類へ移行することを正式決定。5月8日から、新型コロナは季節性インフルエンザと同じ扱いになったが、本誌の取材にこのような声が。

「ゴールデンウイーク直前に子供が40度の高熱に。あちこち電話をしても子供の発熱外来の予約が取れなくて。病院が見つかるまで数時間かかりました」(東京都在住Aさん)

「検査はするけど、陽性ならほかの病院を受診してと言われた」(愛知県在住Bさん)

「高齢の母がデイサービスで大腿骨を骨折してしまって。救急車を呼んでも、『クラスターは発生していませんか?』などと聞かれた挙げ句、『うちでは受け入れられない』と何件も断られ、受け入れ先が見つかるまで2時間かかった」(東京都在住Cさん)

総務省の統計によると4月30日までの1週間に発生した“救急搬送困難件数”は、全国で2610件。第8波のピーク時(8161件、1月9日〜1月15日)よりは大きく改善されたが、2020年の同時期が1650件前後だったことを考えると、いまだ高い水準にある。

■一般病棟での受け入れで懸念されるクラスター

しかし、このような状況にあっても、コロナ受け入れ可能な病床は、増えるどころか“減って”いるという。

「都立駒込病院は、ピーク時で約120床のコロナ病床が運用されていましたが、現在は1病棟で約30床。患者数は増えてきていますが、それに対応して入院患者は増えていません。入院が必要な方が医療につながれていないのではないか、と懸念しています」

そう明かすのは、都立病院労組書記長で看護師の大利英昭さん。大利さんが指摘するように、5類への移行に伴い、東京都は段階的にコロナ病床を10月末までにゼロにすると発表している。

大阪府は最大確保時の約6割にあたる3140床に。神奈川県は2200床を650床に。千葉県は9月末までに1113床から363床に減らしていくという。5類移行後は、一般病棟でもコロナ患者を受け入れるので、病床の不足は起こらないと政府は説明している。

しかし、そのことが「院内クラスターが発生するリスクを高めてしまう」と指摘するのは、立川相互病院(東京都立川市)副院長の山田秀樹さんだ。

「うちも5つある一般病棟のひとつをコロナ病床にして受け入れてきましたが、5類移行後はコロナ病棟を廃止し、一般病棟をパーティションで区切って受け入れることになります」

しかし、感染した認知症などの高齢者が院内で徘徊して感染を広げる恐れもあり、職員の緊張感も増すという。

「そうなると、職員が感染対策に不慣れなうえに老朽化で換気設備が不十分な病院などは院内感染のリスクが高すぎて、受け入れが進まないのではないでしょうか」

前出の大利さんは、5類に伴う自己負担の影響を心配している。

「手術前の入院患者全員に実施していたPCR検査も中止になります。入院後に症状が出るケースが増えることを懸念しています」

院内クラスターが多発すれば、入院患者の命が危険にさらされるだけでなく、医療スタッフの感染も懸念される。感染したスタッフが出勤停止になれば、さらに受け入れが制限されることになる。

■地域の状況に応じた対応策を

高齢者施設でのクラスターは今も続いている。

「5月中に、お亡くなりになるかもしれないコロナの入居者が3人います」

そう明かすのは、名古屋市内のクリニックに勤務する薬剤師の川田秋恵さん(仮名)。川田さんが勤務するクリニックが提携する高齢者施設では、4月下旬に入居者のひとりが発熱。しかし検査はせず、解熱剤のみで様子を見ていたところ感染が拡大したという。

「気の緩みがあるのか、医師が検査を勧めても、施設長の判断で〈検査はしない〉というところも増え始めています。その結果、抗ウイルス薬の処方も遅れ、症状が悪化してしまうのです。5類移行で公費負担がなくなれば、とくに貧困層が多く入居する施設では、検査も治療もしないというケースが増えるのではないでしょうか……」(川田さん)

前出の山田さんは高齢者の感染のリスクを指摘する。

「食事が取れなくなって衰弱したり、発熱に気づかず外出先で歩けなくなって救急搬送されたらコロナだったというケースも少なくありません。若い人にとって、コロナは“ただの風邪”でも、高齢者にとってはそうではないのです」(山田さん)

さまざまな懸念のなか、コロナの5類化は断行される。早稲田大学教授で、医療経済学が専門の兪炳匡(ユウヘイキョウ)さんはこう指摘する。

「本来は、科学的根拠に基づいて病床数を減らしたり、感染対策を変更したりすべきです。日本では、そのような自治体はほんの一部。欧米では現在でも、人口15万人以上の都市では下水内のウイルス量を毎週調査し、ウイルスが増加している地区では、マスク着用やPCR検査を促したり病床を増やすなど対策を変えているのです」

しかし日本では、“日本社会らしく”、常に横並びで感染対策が変更される。そうした政策の先に、何が待っているのだろうか。

© 株式会社光文社