【社説】銀座の仮面強盗 衝撃の犯行、背景の解明急げ

 道行く人も多い時間帯に仮面姿の男たちが店のショーケースを壊し高級腕時計をバッグへ。通行人の目を気にしない犯行は容疑者像も衝撃的だった。

 東京・銀座の高級腕時計店で男3人組が商品100点以上を奪った強盗事件は、一部始終を通りにいた人が撮影していた。直後に東京・赤坂の建物への侵入容疑で現行犯逮捕され、強盗への関与も疑われる4人は、高校生を含む16~19歳だった。

 いわゆる「闇バイト」で集められて犯行に及んだ可能性が指摘されている。警察もスマートフォンの解析を進めているとみられる。背後に指示役・犯罪組織が存在するならば、割り出して摘発を急いでもらいたい。

 同時に、このような犯罪を生んでいる私たちの社会のゆがみに目を向け、対策を取ることも重要だろう。

 闇バイトに応募し、強盗や特殊詐欺などに加担してしまうのは、若い世代が目立つようだ。交流サイト(SNS)で高収入をうたうバイトから人生を狂わせる若者たち。応募しないよう注意喚起せねばならない。

 逮捕された同世代の4人はいずれも横浜市に住んでいたが、互いを「知らない」と供述している。闇バイトで集められたと考えられるのは、そのためだ。

 荒っぽいが稚拙な印象のある犯行形態からもうかがえる。時刻や場所、逃走方法を入念に準備した様子はない。深く考えず指示されるまま実行したのかもしれない。

 背後で操る者にとって、末端の実行犯が捕まることは織り込み済みに違いない。金品さえ手に入れば、すぐ切り捨てる―。そんな首謀者像が浮かぶ。

 渋谷、上野、表参道…。3月半ばから貴金属店を狙った強盗事件が5件発生している。逮捕された実行犯や転売役は金欲しさから、SNSで高収入をうたう闇バイトに応募していた。

 甘い言葉で誘い、特殊詐欺の受け子や強盗の実行犯といった手先として利用する。犯罪組織が主導しているとみられる。

 闇バイトに応募した際、組織に身元を把握されて脅され、犯行を拒めず、抜け出せなくなるケースもあるようだ。

 特殊詐欺の実態に迫る本紙の連載「仮面の罠(わな)」でも、末端の男が報復を恐れ、指示されるまま犯行を繰り返しながら葛藤した姿が浮き彫りになっている。

 「ルフィ」などと名乗る詐欺グループのリーダー格らが指示した広域強盗事件と、構図が似ているようだ。特殊詐欺から住宅強盗や貴金属店を狙った強盗まで、裏で操っている犯罪グループが幾つもあるとみられる。その末端で利用されて、切り捨てられた者を待つのは、刑事罰と多額の損害賠償である。

 楽をして大金を稼げる仕事などあるはずもない。闇バイトは「ハイリスク、ノーリターン」であり、一生を台無しにする恐れがある。にもかかわらず若い世代が軽い気持ちで闇バイトに応募し、犯罪に手を染めるのはなぜか。さまざまな角度からの分析、対策が求められる。

 今回の事件は高校生や16歳が加担していた。若者にとって身近なSNSの落とし穴であり、低年齢化が進む恐れもある。学校現場や家庭でもその危険性を教える必要がありそうだ。その実態を、若い世代は肝に銘じ、自らを守ってもらいたい。

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