「LGBT法案」で自民党が「差別」許容の改悪! 政調会長代理が「(LGBT権利は)共産主義思想の延長」と統一教会と同じ主張

自由民主党HPより

今月19日から広島で開催されるG7サミット前の成立が求められていた「LGBT理解増進法案」だが、自民党の極右議員の横やりによってサミット前の成立は困難な見通しとなっている。

そもそも、他のG7各国には性的少数者に対する差別を禁止する法律が設けられていることを考えれば、「理解増進」でお茶を濁そうとしている時点で議長国の資格はないと言える。しかも、この法案は今年2月、荒井勝喜首相秘書官(当時)「見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」などと差別発言をおこなったことが大きな批判を浴び岸田政権の人権意識が内外で問題視されたことから、岸田文雄首相が自民党に法案提出の準備を指示したもの。にもかかわらず、自民党が国会に提出しようとしている法案の文言は、2021年に超党派議員連盟がまとめた法案からさらに後退してしまった。

実際、4月28日に自民党内で開かれた「性的マイノリティに関する特命委員会」などの合同会議では、自民の極右議員たちが「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されない」という文言が入っていることに反発。会合後に西田昌司政調会長代理は「対立を生むような言葉遣いは日本の国柄に合わない」などとコメントし、結局、「性的指向及び性同一性を理由とする不当な差別はあってはならない」に置き換えられた。

差別が許されないのは当たり前の話だというのに、差別には「不当なもの」と「不当ではないもの」があるかのような表現に修正するとは……。2021年当時も「差別は許されない」という文言に対し、自民の極右議員から「訴訟が乱発される」などとの反発が起こったが、ようするに自民の極右議員は、自分たちが連発している性的少数者に対する差別言辞に「不当な差別にはあたらない」という予防線を引いたのだ。

しかも、驚くべきことに、「LGBT理解増進法」に横やりを入れてきた自民の極右議員のひとりである西田政調会長代理が、ここにきて、なんと統一教会とまったく同じ主張を振りかざして見せたのだ。

TBSラジオニュースの公式Twitterアカウントが投稿した動画によると、昨日10日、自民党内の会合後に記者から「自民党としては『正当な差別』はあるという認識か」と問われた西田政調会長代理は、「それは屁理屈」と抗弁。「この問題いちばん困るのは、分断をさせないというのが大事なんでね、日本の国をね。だからそのためには、分断をしないということは寛容な社会(をつくること)。寛容な社会というのはなにかというと、お互いがお互いに自分の、ある程度は我慢をしながら、相手のことを認めると」などと述べた。

これは「差別されても我慢して差別者を認めろ」と言わんばかりの主張であり、閉口するほかないが、さらに記者から「(日本を)分断しようという勢力というのはどういうものを想定している?」と問われると、なんと、西田政調会長代理はこんなことを言い出したのだ。

「あえてここで私は言いませんが、事実として、この種の問題が出てきたのは、ロシア革命以降のマルクスの共産主義の思想の延長線上に出てきているのは、これ事実です」

●「LGBTの権利を認めること=共産主義」のトンデモ主張は統一教会の主張

性的少数者の権利を認め、差別を許さないという先進民主主義国では当然の問題について、西田氏は「問題が出てきたのは共産主義思想の延長線上」などと口にしたのである。

さっぱり意味がわからないが、しかし、性的少数者や性差による差別解消といった問題を「共産主義の思想」だと言い張るのは、まさしく統一教会の主張や姿勢そのものだ。

統一教会は「反LGBT」や「反ジェンダーフリー」の活動を展開してきたことで知られているが、実際、国際勝共連合は2021年の運動方針のひとつに「同性婚合法化や行き過ぎたLGBT人権運動の歯止め」を掲げ、「国内外に浸透する共産主義との闘い」として位置づけている。

統一教会が反共運動と反LGBT運動を結びつけている背景について、宗教社会学者で統一教会問題に詳しい塚田穂高・上越教育大学准教授は、こう語っている。

「私が見るに、政治活動としては「勝共」の「共」の枠が途方もなく拡大され、その中にさまざまなものが入れ込まれることで、「新たな敵」が設定されていったと考えています。家族や「性的」純潔を重視する教えからも、それらの「敵」とされた典型的動向としては、夫婦別姓や性教育、「ジェンダーフリー」、同性婚、LGBTなどの性的マイノリティー理解などが挙げられます」
「彼らが考えるところの「共産主義っぽいもの」「左翼っぽいもの」を一緒くたに「勝共」の「共」に入れ込み、それらと戦うことで自分たちのレーゾンデートル(存在価値)を見いだし活動が続けられる。当事者の悩みや苦しみなどは蚊帳の外で、これらの動向は「文化共産主義」なり「新マルクス主義」なりの策動として捉えられます」
「夫婦別姓や同性婚は家族を破壊すると思い込んでいるし、共産主義勢力による「性の革命」が押し寄せている、これに抗しなければならないというのが現在に至るまでの彼らの行動原理になっていると捉えられます」(「東洋経済オンライン」2022年8月29日付)

●日本会議、安倍元首相も、ジェンダーフリーや夫婦別姓を「共産主義」と攻撃

しかも、「反LGBT」「反ジェンダーフリー」を主張する際に「共産主義」を持ち出すのは、統一教会にかぎらない。たとえば、日本会議系シンクタンクの「日本政策研究センター」が2003年に発行した冊子でも、〈暴力革命は不可能になった代わりに、共産主義者は別の方法で必ず日本解体を目指す〉〈ジェンダー・フリーによる性別秩序の解体という事態とは、まさしくこの『暴力革命』を代替する『別の手段』の一つなのです〉と記されている。

ジェンダーフリー・バッシングの急先鋒だった安倍晋三・元首相は2010年に夫婦別姓について「左翼的かつ共産主義のドグマ(教義)」と批判を展開したが、今回、西田政調会長代理が性的少数者の権利擁護の問題を「共産主義思想の延長線上にある」などと主張したのも、ようするに、統一教会や日本会議といった宗教右派の主張に則ったものでしかないのだ。

安倍元首相の襲撃事件以降、統一教会をはじめとする宗教右派の主張によって政治が歪められ、性的少数者の人権擁護や選択的夫婦別姓制度の導入といった喫緊の課題が先送りにされてきたのではないかという批判がなされてきた。にもかかわらず、いまだに宗教右派の主張そのままに「共産主義の問題」などと言い張り、当たり前の「差別は許されない」という文言さえ消されてしまう──。こんな有様で、国際社会の先頭に立つG7サミットの議長国を務めることなど、できるはずがないだろう。
(編集部)

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