【韓国】【尹政権1年】アサヒが商品力で苦境越え[食品] 生ジョッキ缶人気、深山代表に聞く

インタビューに応じる深山氏=ソウル市(NNA撮影)

2019年以降の日本ブランドに対する不買運動で最も影響を受けたとされるアサヒビール。現在はその販売も回復傾向にあり、現地合弁会社のロッテアサヒ酒類(アサヒグループホールディングスとロッテ七星飲料の合弁)は22年通期で黒字転換を果たした。5月に発売した「アサヒスーパードライ生ジョッキ缶」は、発売初日から完売する店が続出するなど人気ぶりを見せている。同社の深山清志代表理事に19年以降の経営状況や今後の戦略について聞いた。

——19年以降の不買運動の影響は。

ロッテアサヒ酒類の売上高は、ピークだった18年の1,248億ウォン(約127億円)に比べて、19年はその5割、20年は1割水準まで落ち込んだ。不買運動の影響が販売低迷の要因になったことは事実としてある。

しかし、原因はそれだけではない。20年は新型コロナウイルス禍が広がる中、感染症による営業制限で飲食店向けの酒類提供が大幅に減少した。巣ごもり消費による「家飲み」が浸透する中、ワインやウイスキー人気が高まるなど消費者の嗜好(しこう)が多様化したことも一因に挙げられる。

——3年連続赤字など経営は厳しい状況が続いた。

これまで主力商品に頼り過ぎた結果ともいえる。ロッテアサヒ酒類の売り上げ構成比は「スーパードライ」が9割を占める。「スーパードライ」の販売が落ち込めば、ほかの分野で補うのは難しい構造で、商品ポートフォリオを再考するきっかけにもなった。

ビジネスモデルの脆弱(ぜいじゃく)性も痛感した。韓国で展開する輸入酒類販売会社は、コンビニエンスストアやスーパーなど小売業者への供給に依存している。何らかの要因でその販路が絶たれた場合、消費者に商品を届ける方法がなくなってしまう。直販できる体制の構築など、あらゆる可能性を探っていく上でもいい機会になったと、前向きに捉えている。

——それでも昨年は黒字化を達成した。

自分の中で、本当にいい商品はどの国でも支持されるという思いがある。まだまだこれからではあるが、「スーパードライ」の商品力を信じて、やるべきことをやってきた社員の頑張りのおかげでもある。

——日韓関係が改善に向かいつつあるが、ビジネス環境に変化は。

民間企業として、政治や外交についてどうこう言える立場にはないが、日本と韓国の間で人の往来や文化の交流が活発になることは、事業にとって非常にプラスに働くだろう。

コロナ禍以降、動画投稿サイト「ユーチューブ」では韓国人のインフルエンサーが日本の食文化を紹介する動画が数多くアップされ、韓国で高い関心を集めていた。両国の入国制限の緩和により観光客の行き来も激しくなることで、日本で飲んだビールの味を韓国でも堪能したいという韓国人が増えることを期待している。

——日韓の外交関係に期待することは。

この国に赴任して約5年、厳しい状況に直面することもあったが、それでも自分にとって韓国は外国の中で一番好きな国だ。住みやすくて食べ物もおいしい。マンションの隣人やクリーニング屋のおばさんなど町の人は親切で、この国に対してとてもいい印象を持っている。

日本と韓国でこうした感情を持つ人はかなり多いはずだ。民間レベルで交流の機会がもっと増えれば、企業にとってもビジネスチャンスがさらに広がるのではないかと感じている。

——今後の戦略は。

今月から韓国で新商品「アサヒスーパードライ生ジョッキ缶」を数量限定で発売した。おかげさまで大変な支持を頂き、発売初日で完売した店も多いと聞いている。今夏をめどに韓国専用デザインの商品を再発売し、安定した供給に努めていきたい。

同商品については、約4年ぶりとなるテレビコマーシャルなどを活用して積極的に販促活動を実施していく。「MZ世代」(1980~2000年代生まれ)をターゲットに、定着が進む「家飲み」に加え、キャンプやレジャー地での「外飲み」需要をさらに取り込む考えだ。

飲食店向けのチューハイ市場にも可能性を感じている。韓国人が日本の居酒屋に行けば、多くの人がチューハイを注文している。韓国ではハイボールがブームになっているが、炭酸割りのチューハイも人気になっておかしくない。今年は業務用チューハイ「樽ハイ倶楽部」で、新たな市場を開拓できないか模索していく。(聞き手=中村公)

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