贈り物いろいろ

 古い映画「お熱いのがお好き」(1959年)や「アパートの鍵貸します」(60年)などの名作で知られるビリー・ワイルダー監督の自伝に、20歳の頃のほろ苦い話がある。フリーの記者だったが大した仕事もなく、とても食べていけない▲やせた身で久しぶりに母と会うことになった。息も苦しいほど首回りの細いシャツをわざと着て、顔を赤くし、血色がいいように見せたという。元気を装う赤い顔は、貧しい青年なりの贈り物だろう▲今はそんな“細工”があるはずもないが、心配させまいとあえて元気に振る舞うことならば、おそらく今も少なくない。あさっては「母の日」。贈り物にもいろいろある▲コロナ禍の前は食事券が人気だった。みんなで食事に行こうね、と「思い出づくり」に誘うことに新味があったという▲イベント中止で花の注文が落ち込んだコロナの間は、花を贈ろうと呼びかけられた。外出やマスクを外すことが多くなる今年は、化粧品や暑さ対策の品が人気らしい。「母の日グッズ」は時流を映す▲五行歌の秀歌集に心に残る一作があった。〈おかあさん/おかあさん/撫(な)でてさすって汗を拭いて呼びかけて/一緒に過ごす最期の夜/おかあさん おかあさん〉。5月の空に「おかあさん」とささやいてみる。そんな贈り物もあるのだろう。(徹)

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