87歳、学び続けて農学博士に 東京農工大大学院から授与 宇都宮の田仲さん

博士の学位記を手にする田仲さん

 農林水産省で長年にわたり干拓事業に携わった田仲喜一郎(たなかきいちろう)さん(87)=栃木県宇都宮市簗瀬1丁目=が今春、東京農工大大学院連合農学研究科から博士(農学)の学位を授与された。東京農工大企画課によると、90歳前後の取得は「学内では例がない」という。同研究科の構成大学の一つ宇都宮大で5年間、研究活動を進めて論文を執筆。指導教官を務めた同大の大澤和敏(おおさわかずとし)教授は「まさに快挙。何歳になっても学びができると身をもって示してくれた」とたたえた。

 田仲さんは同大農学部で土質力学を学び、農林水産省に入局。技術士の国家資格を有し、1986年の退官まで十三湖や河北潟、諫早湾など干拓事業に携わった。退官後は同大の非常勤講師を務め、日本技術士会県技術士会会長などを歴任。現在も自身の技術事務所で所長を務める。

 干拓技術に関する論文を学会誌などに数多く執筆。親交のあった同大教授の薦めもあり、「これまでの論文をまとめ、日本の干拓事業について研究を深めたい」と2018年、同大と茨城大、東京農工大で構成する連合農学研究科農業環境工学専攻に入学した。

 手がけた干拓地のその後の活用状況など、現地調査にも積極的に取り組んだ。だが、新型コロナウイルス感染症の拡大で通学が困難になり、研究は一時停滞。21年に論文審査を残し単位取得退学(満期退学)となった。

 コロナ禍で研究が進まない状況に「あきらめようかと悩んだ」。大澤教授から「ここまできたらあと少し。3年間は論文提出ができるので、やり遂げましょう」と励まされ、121ページの学位論文を完成。今年3月、博士号を取得した。

 大学院生活を振り返り「学生との学びは、若いころの夢や気持ちを思い出し、いい刺激になった」と笑顔を見せ、「今後も自分にできることを実践し、地域に貢献したい」と話す。大澤教授は「高度成長期に第一線で活躍した経験を形に残してくれたことは、学問的にも貴重。実務経験を生かして学び続ける大切さを周囲にも伝えてほしい」とさらなる活躍に期待を寄せた。

 

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