大漁で故郷に希望届け 小木の中型船アカイカ漁へ

家族らの見送りを受けて出漁する中型イカ釣り船=12日午前9時、能登町小木港

  ●珠洲の乗組員2人出港、笑顔で送り出す家族に感謝

 石川県漁協所属の中型イカ釣り船では今年度最初の出漁となる「第58金剛丸」が12日、能登町小木港を出発し、北太平洋でのアカイカ漁に向かった。乗組員10人のうち2人が地震で被災した珠洲市の住民で、自宅で家具や電化製品が壊れるなどした。2人は不安を抱えながらも「大漁で被災地に希望を届けたい」と声をそろえ、日本から3千キロ以上離れた漁場へと急いだ。

 2人は甲板長の小木正幸さん(59)と料理人の板村伸雄さん(58)=いずれも珠洲市飯田町=。ともに5日の震度6強の地震発生時は長丁場となる漁に備え、自宅でくつろいでいた。

 小木さん方は地震で壁が崩れ落ち、床もはがれた。小木さんは「復興を信じながらイカをたくさん捕るしかない。少しでも珠洲に元気を届けたい」と決意を示した。

 板村さんは片付けに追われる家族に負担がかからないようにと、8日に災害ごみの仮置き場が設けられると、壊れたテレビなどを運び込んだ。これほど不安な気持ちで出漁するの初めてとし「笑顔で送り出してくれた家族に感謝するしかない」と前を向いた。

 小木港へ見送りに来た妻敦子さん(53)は「海も決して安全ではないので不安だが、その分頑張ってきてほしい」と手を振った。

 インドネシア人技能実習生4人も船に乗り込んだ。来日6年目のブディ・イヤンシャさん(25)によると、同国でも地震はよく起こるが、ここまで大きな揺れを体験したのは初めてという。イヤンシャさんは「地震で漁に出られるか心配だったが、出る以上はたくさんイカを釣りたい」と話した。

 金剛丸は午前8時55分ごろ、家族や友人、知人約50人に見送られて出港した。北海道函館港に立ち寄った後、約3千~5千キロ離れた漁場に向かい、8月上旬ごろまでアカイカ漁を行う。県漁協所属の残る9隻は6月上旬から日本海にスルメイカ漁に出る。漁が可能であれば金剛丸も合流する。

 日本海ではイカの資源量が減少傾向にある上、昨年度はウクライナ侵攻の影響でロシア側の排他的経済水域(EEZ)で操業できず水揚げ量は大きく減った。

 金剛丸の山下浩弥船長(63)は、今年度はロシア側のEEZで操業する可能性があるとし「能登の安全を祈りながら、イカの町・小木の存続に向けて大漁を目指す」と力を込めた。

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