5月3日夜、神戸市西部を中心に「地震があった」「地鳴りがする」などという通報が警察や消防に20件以上寄せられた。気象庁によると、同じ時間帯に垂水区付近を震源とする地震が2回あったが、震度はいずれも「1未満」。そうだとしたら、人間が揺れを感じないはずなのに、なぜ通報が相次いだのだろう。神戸地方気象台や兵庫県への取材を進めると－。
### ■速報されなかった「不気味な」揺れ
地震が連続発生したのは大型連休後半が始まった5月3日の夜。1回目は午後9時58分だった。同市西部の垂水区付近が震源で、地震の規模を示すマグニチュード（M）は2.3。2回目は半時間後の午後10時29分、同じく垂水区付近を震源とし、M1.9。震源の深さはいずれも9キロだった。
兵庫県警垂水署や神戸市消防局によると、3日午後10時ごろから110番や119番が少なくとも20件以上寄せられた。住民から「大きな音や揺れが2度あった」といった問い合わせもあった。垂水区塩屋町の自宅1階でいすに座り、パソコンに向かっていた男性会社員（36）は2度ともガタガタという揺れに気づき、「地震や」と恐怖を感じたという。
須磨区（垂水区の東隣）に住む男性も揺れを感じたが、テレビをつけても地震速報は流れない。ツイッター上では「今、ドスンって揺れるというか、何かが落ちたような震動があったけど、地震速報がない」「揺れたのに地震速報が出なくて、不気味」などの書き込みが相次いだ。
しかし、地震の震度は2度とも「震度1未満」とされ、速報が流れることはなかった。
### ■震度「格上げ」の真相判明
連休明け。事態は動く。3日夜に起きた1回目の地震が、「震度1」に“格上げ”されたというのだ。どういうことか。
震度を観測するのは「震度計」。現在、兵庫県内には121カ所に設置されている。このうち3日夜の地震で揺れを感知したのは、県が東垂水小学校（垂水区）内に設置する1カ所のみだった。この「1カ所」にからくりがある。
県によると、気象庁にデータを自動送信するのは、震度計が同時に2カ所以上で揺れを観測した場合だけだという。1カ所だけであれば、大型トラックや除雪車が近くを通過したり、工事中だったりした際に局所的な揺れを拾ってしまう恐れがあるためらしい。
もう一つ、震度計とは別に、気象庁や関係機関は各地に「地震計」を張り巡らせている。マグニチュードや震源地、その深さを把握するのはこちらの地震計の方だ。
つまりあの夜、2度の地震は地震計によって観測されたが、震度計による観測は1カ所だけだったため、気象庁に震度情報が入らなかった。そのため、「地震はあったが、揺れは感じなかった（＝震度1未満）」とみなされたという。
しかし今回、多くの通報があったことなどから、兵庫県は神戸地方気象台と協議。気象庁に送られなかった東垂水小の震度計データをみてみると、「震度1」を観測していたため、県は例外的にこの1カ所だけのデータを気象庁に送信することに。それを受けた気象庁が「震度1」として認め、正式に記録に残すことになった。
実は、1カ所だけならデータ送信しないという県の運用は昨年度から。機器の更新に伴って改められた。県災害対策課は「多くの地震は2カ所以上で震度が観測されることから、こうした運用は他県でも使われていると聞く。県民のためには細かに情報を出したいが、誤報も多く悩ましい」と明かす。
### ■極めて局所的な地震か
さて、これで謎が解けたと思いきや、まだ疑問があった。本当に「震度1」なのか、という疑問だ。
気象庁は、震度階級を0から7まで設定している。それによれば、「震度0」では人は揺れを感じない。
有感地震は1からで、「震度1」＝屋内で静かにしている人の中には、揺れをわずかに感じる人がいる▽「震度2」＝屋内で静かにしている人の大半が揺れを感じる▽「震度3」＝屋内にいる人のほとんどが揺れを感じる－と続く。
今回の1回目の地震が震度1だったとしても、通報件数の多さや内容と食い違わないか。震度2や3にはならないのか。神戸市西部の他の震度計はなぜ反応しなかったのか。
神戸地方気象台の担当者は「震度はあくまで震度計のある観測地点での揺れ。その周囲でどれだけ揺れたのかは、正確には分からない」とする。東垂水小の震度計は「1」でも、少し離れた場所では揺れが大きかったのかもしれない。しかも、極めて局所的な地震だったと考えられなくもない。
なるほど…。すとんと胸に落ちたような、落ちないような。
いま、全国で連日のように大きい地震が相次いでいる。これ以上、震度計や地震計が動かないことを願いながら、備えを見直したい。（上田勇紀）
