地域を重視する「ローカリズム」がブランドの信頼や顧客ロイヤルティーを高める新たなカギに

Image credit:McDonald’s España

新型コロナウイルス感染症はすべてを変えた。特に変化したのは、自らが属する地域社会「ローカルコミュニティ」に対する考え方だ。ウイルスの拡大を抑えるための規制が敷かれるなか、世界のあらゆる場所で地域の人や企業、コミュニティが一瞬にして非常に重要なものとなった。ロックダウンは人々の帰属意識を育んだ。暮らしている場所との結びつきをより感じるようになり、地域の企業をこれまでよりも支持し、近所の人を気遣い、地域のアイデンティティを促進する傾向が強まった。(翻訳・編集=小松はるか)

ローカリズム(地域主義)はコロナ後にも続くトレンド

多くの国がインフレと生活費危機への対策に追われるなか、人々は政治やビジネス、自然に関する地域の課題・目標に取り組むアイデアや製品、組織に魅力を感じ続けている。経済の不確実性や地政学的な混乱に支配されるなか、自らが暮らす地域の環境に一層の愛着を抱き、帰属意識を求めるようになっている。

こうした潮流に対し、企業・ブランドは自社の目標とローカリズムを結びつけようと取り組んでいる。サステナビリティの取り組みを推進し、透明性を高め、地域コミュニティにどのように恩恵をもたらすかに注力している。

ローカリズムの高まりはいくつかの調査からも明らかだ。米国の消費者の53%は「地元の小規模な企業で買い物をすることは地域に恩恵をもたらし、買い物の習慣にさらなる意義をもたらす」と回答した。マレーシアの消費者の62%は「購入する食品や飲料を製造する人たちについてもっと知りたい」と回答。米国の消費者の63%は「できる限り地域の企業から購入するようにしている」と答えている。

米大手香料メーカーのIFF(インターナショナル・フレーバー・アンド・フレグランス)が開発したトレンドや展望を把握する独自のツール「IFF Panoptic Framework」による最新の調査では、消費者の変化を促す30のトレンドの1つに「ローカル・スピリット(地域への帰属意識・愛着)」を挙げている。その分析によると、人々は唯一無二で本物の製品や体験を好むようになり、大量生産された製品を受け入れなくなっていることが強調されている。さらに、地域社会とより個人的で意義のある交流をしたいと考えており、地域の文化や歴史を理解している製品や企業を評価している。また、製品やブランド、体験の背景にあるストーリーに大きな価値を置いている。

グローバル企業の動きーーマクドナルド、ナイキ、デリベロー

では、グローバル企業はローカリズムを重視する傾向をどのように事業に生かしているのだろうか。例えば、スペインのマクドナルドは2022年、山火事によって大規模な被害を受けた農家のために「存在しないハンバーガー」を3週間の期間限定で販売した。これは何も入っていないチャコールブラック色のバーガーボックスを販売するというもので、価格は1ユーロ(約148円)。農地の喪失によって作物が消滅し、製造されることのなかった多くのハンバーガーの存在を思い出してもらおうという狙いがあった。売上は、マクドナルドからの5万ユーロ(約743万円)の支援と合わせて、スペイン・バレンシアで4万7000エーカー以上の農地を焼失し再建に奮闘する農家の人々に寄付された。

ナイキは、地域の人にとってスポーツがより身近なものになるよう後押しするコンセプトショップ「ナイキ・ユナイト」を世界各地に立ち上げた。各ショップでは、地域住民を雇用し、地元のアスリートや景観を紹介し展示するなど、デザインや売り場づくりに地域の特色を生かしている。

英国発のフードデリバリー企業「Deliveroo(デリベロー)」はシンガポールの赤十字と連携し、自社の配達員に救命救急のトレーニングを行なった。配達員は現在、食品を配達する際に、緊急事態に遭遇しても対応できるスキルと応急処置の知識を備えている。

ビール産業でもローカリズムは重要

近年では、ビール市場でも本格的で地域を重視したブランドづくりが非常に重視されるようになっている。世界で最も人気のアルコール飲料であるビールは、環境負荷の大きな要因であると同時に、変化をもたらす重要なチャンスを生みだす存在でもある。

ほとんどのビールは5000年以上前から続く製法で、大麦を主原料とし、それを発芽させた麦芽を使って造られる。しかしビールメーカーは常々、価格を抑えたり、新しい味を生み出したりするために大麦以外の原料も使用しており、オーツ麦やライ麦、キャッサバやソルガム(モロコシ)などさまざまな原料を使っている。さらに、主原料を補うために、麦芽になっていない穀物や穀物製品などと共に、酵素量を補い、粘度を下げるために酵素を加える。

こうした製造工程はローカリズムを実践する上で最適だ。地域で調達した原料を使うことによって、消費者はお気に入りのビールブランドの製品を飲むことでさらに本質的な体験ができるということになる。例えば、ギネスの親会社「ディアジオ」はケニアで東アフリカブルーワリーを運営している。6万人の零細農家からソルガムを購入し、大麦の代替品として使いビール「セネター」を製造している。

企業・ブランドが「本物」であることと「透明性」がカギに

ローカリズムをうまく取り入れることは、企業・ブランドが地域社会を結び、より多くの人が求める社会のあり方を形成するのに最良の方法だ。しかし、そのためにも企業・ブランドが信頼に値する「本物(オーセンティック)」であること、透明性を確保することが重要になる。例えば、消費者に製品と地域の関わりを説明する情報を伝え、地域で生産された原料や製品がなぜ持続可能で、そうした製品が地域社会に収入源をどう提供しているかといったことまでさらに踏み込む必要があるだろう。

また、企業・ブランドは製品のローカル化にとどまることなく、地域の文化を理解し、どうその文化に適合し、自社の取り組みが地域の人々にどのような恩恵をもたらすかということをはっきり示していく必要がある。

ローカリズムはこれからも浸透し続けるトレンドだ。企業・ブランドは、世界の地域社会に積極的に貢献し続けるために、ローカリズムが意味するものへの理解がますます求められるだろう。

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この記事の原文は www.sustainablebrands.com に掲載されています。

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