監督の哲学 「熱く冷静に、燃えながら冷静に」 東九州龍谷高校バレーボール部・相原昇監督 【大分県】

高校バレーボールの指導者として東九州龍谷高校(東龍)を12度の日本一に導き、世代別日本代表の監督に就任し、アジア王者、世界一を経験した相原昇監督。2021年には女子日本代表のコーチとしての東京五輪に出場し、その後は再び、東龍監督として指導する。相原監督に話を聞いた。

Q:指導経験に基づいた指導論や教育論などをまとめた著書を3月に出版されました。このタイミングで出版に至った経緯は?

自国開催のオリンピックを終え、指導者として多くの実績を積み、残りの指導者としての人生を考えた時に、もう一度、高校年代の「育成」をしたいと思いました。日本代表のコーチとして世界と戦い、これまで以上に個人能力で戦える選手を育てなければ世界のトップに立てないと感じたからです。これまでの実績を捨てて、全てをリセットし、東龍でゼロからスタートした時に、これまでの経験をアウトプットしたいと考えました。

Q:指導者としての変化はありますか?

自分の思想やバレーボール観を可視化できるようになりました。日本代表はさまざまなチームから選手が集まります。それぞれの価値観があるので、チームとしてまとめるときは情報共有し、分かりやすくチームの方向性を伝えなければいけません。そのためにパワーポイント(発表資料作成ソフト)を使って可視化しました。東龍に戻ってからも選手と私の間では、スマホやグループラインを活用して課題を共有し、個々の課題を動画で切り取り、文字情報を添えています。今回の本も、そういう意味では私の考えをテキストにして可視化したものだと考えています。

Q:現在、バレーボール界では相次ぐ指導現場での体罰や暴力が問題となっています。この問題について、どのように感じていますか?

怒声と鉄拳で育った指導者は同じ方法で選手を扱おうとしますが、今はそれでは通用しません。今の時代は選手へのリスペクトがなければいけません。子どもたちの意見を尊重することも必要だし、自分を貫く部分を融合しなければいけない。「ちょうど良い」指導ができる人が求められていると思います。

高校年代の「育成」を強化したいと語る相原昇監督

Q:選手と監督との信頼関係があるように、指導者と保護者の関係が重要で、近年は保護者との付き合い方に頭を悩ませている指導者が多いと聞きます。

親は自分の子どもばかりに目が行くものです。それは仕方ないことかもしれませんが、東龍の場合は、入学する前にチームの方針や、その過程で起こり得るさまざまなことを説明します。他にも練習をオープンにして、いつでも保護者が見学できるようにしています。

指導において基本は平等です。選手を個別に監督室に呼ぶことなんてないし、能力が秀でた選手を特別扱いすることもありません。それは今も昔も変わりません。常に全力で熱量を持って全ての選手と向き合っています。

Q:指導への情熱は燃え尽きることはなさそうですね。

多くの選手が私の指導を受けたくて、東龍で日本一になるために全国から来ています。私は日本一を何度も経験しているし、申し訳ないけど負けても次があります。しかし、選手にとって高校バレーボールは人生の中で3年間しかありません。その年その年で全力を注がないと選手に失礼です。だから常に全力なのです。

私のことを知らない人は「勝利への執念がすさまじい熱血監督」などと思うのでしょうが、いつも俯瞰(ふかん)して自分を見ているし、冷静に物事を判断しています。感情を思いのまま爆発させているわけでなく、選手を奮い立たせるパフォーマンスであり、かじ取り役として選手や思案をコントロールしています。「熱く冷静に、燃えながら冷静に」が私のモットーなのです。

Q:今日から大分で全九州バレーボール総合選手権が始まり、6月には九州高校総体、来年は全国高校総体が控えています。

全て地元開催となるので、いいエネルギーにしたいです。優勝はもちろん狙いますが、地元ファンの前で最高のパフォーマンスをコート上で出せるように導きたいです。格好をつけず、がむしゃらに声を出す。ひたむきに、熱く冷静に。強い東龍を見せたいです。

相原昇著「熱く冷静に、燃えながら冷静に」(ベースボール・マガジン社、1760円)

(柚野真也)

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