インディカー第5戦GMRグランプリ:セッティングもストラテジーも見事に決まったパロウが大差で今季初勝利

 インディアナポリス・モータースピードウェイのロードコースで開催されたNTTインディカー・シリーズ第5戦GMRグランプリ。13日に行われた決勝レースは、3番手スタートのアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ)が今シーズン初勝利を挙げた。

 インディアナポリス・モータースピードウェイでの決勝レース、空は晴れ上がり、スタート時の気温は摂氏28度まで上がっていた。ソフトタイヤ(レッドタイヤ)の寿命が心配されるコンディションと思われた。

 スタートタイヤの申告は、ファイナルプラクティスが終了してから30分以内。今回のレースでは決勝日の朝11時15分から45分にそのセッションは行われ、レースは午後3時45分スタート。気温や路面温度が高くなる可能性は、予報からも十分に想像ができた。

 ソフトとハード、どちらのタイヤも2周以上走らなくてはいけないのがインディーカーのルール。レースではソフトでのロングランは難しいと見られた中、なぜだかハードタイヤ(ブラックタイヤ)でのスタートを選択するものが今回は多かった。

 通常であれば、グリッド上位陣は、予選で得た優位を手放したくないからソフトタイヤでポジション維持に努め、中団グループ以降でスタートするドライバーたちがその逆を突いてハードタイヤでスタートする。ところが、今回はグリッド前方のドライバーたちの大半がハードタイヤをチョイス。

 予選のトップ10でソフトでスタートを切ることとしたのは予選3番手のアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)、予選8、9、10番手のグラハム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン)、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)、アレクサンダー・ロッシ(アロウ・マクラーレン)だけだった。
 

初ポールのルンガーを先頭に85周のレースがスタート

 
 周りがハードタイヤばかりと知ったパロウは、スタート直後から猛プッシュしてトップを奪いにいく。後続を突き放して1回目のピットストップを迎えたい、との意向からだった。グリーンフラッグを受けた直後に予選2番手のフェリックス・ローゼンクヴィスト(アロウ・マクラーレン)をかわしたパロウは、その勢いでポールスタートだったクリスチャン・ルンガー(レイホール・レターマン・ラニガン)にもアタックしたが退けられた。

 しかし、1周目後半のテクニカルなセクションでトップを奪い、逃げにかかった。
 

レッドタイヤでリードを広げるアレックス・パロウ

 
 短時間で温まるソフトタイヤのメリットをフルに使い、パロウはリードを広げていった。しかし、一時は5秒近くまで広げた差が徐々に縮まり始めたため、18周でピットイン。パロウはハードにスイッチする。その2周後にピットしたルンガーはソフトタイヤを装着し、31周目にトップを奪い返した。

 グリップが持続しないレッドでルンガーはトップを保ったまま42周目まで走行。2度目のピットに向かった。パロウはその次の周にピットに向かい、給油とタイヤ交換の作業を終えるとルンガーの前へとピットアウトした。

 ピットタイミングの異なる面々が短時間トップを走ったが、48周目に再びパロウがトップに立った。彼とルンガー、トップを争うふたりはどちらもハードタイヤを装着。同条件の戦いではパロウが優位にあり、両者の差はジリジリと広がっていく。48周目に1秒7だった差は、55周目には4秒以上に広がっていた。終盤戦に入ったレースは、完全にパロウのコントロール下に入っていた。

 3回目、そしてこの日最後のピットストップ、先手を打ったのは不利な状況に置かれていたルンガーの方。59周目にピットへ滑り込むと、彼はタイヤを装着した。逆転を狙ったピットタイミング、そしてタイヤ選択だった。

 リードをしていたパロウの方はというと、フルコースコーションの出るタイミングで不利に陥ることがないよう、ルンガーの入った直後の60周目にピットイン。ここでの彼は、セカンドスティントから使い続けて安定感に自信を感じていたハードタイヤをチョイス。

 プッシュ・トゥ・パスの残り時間でも優位にあった彼は、それも少しずつ使いながらルンガーとの差をキープ。最終的に2番手に上がってきたパト・オワード(アロウ・マクラーレン)に16秒8006もの大差をつけて今季初優勝を飾った。

 上位スタート者のセオリーであるソフトタイヤでスタートしたパロウは、その後の3スティントで安定感で勝るハードタイヤを使い続け、85周のレースで最多となる52周をリードして優勝してみせた。

 ソフトとハード、両タイヤで安定した走りを実現していたのがパロウ陣営で、ルンガーはソフトタイヤでのマシンバランスの悪さが敗因となった。パロウはチップ・ガナッシ・レーシングのチームメイトたちに対してすらアドバンテージを持っていたようで、ディクソンとエリクソンをもってしても6位と8位でのゴールが精一杯だった。

 レース終盤にペースアップしたのはマクラーレン勢で、オワードが2位、アレクサンダー・ロッシが3位、ローゼンクヴィストが5位でゴール。彼らとは逆に、ルンガーとコルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート)は最後のスティントでのスピードダウンが激しく、ルンガーは表彰台も逃す4位、ハータは9位でのゴールとなった。
 

ラストスティントでレッドタイヤを履き逆転を狙うも2位に終わったオワード
移籍後初表彰台を獲得したアレクサンダー・ロッシ(アロウ・マクラーレン)

  
 パロウは開幕戦セント・ピーターズバーグが8位で、第2戦テキサスが3位。第3戦のロングビーチと第4戦バーバーで5位フィニッシュをしており、4戦終了時点でポイントスタンディングのトップに立った。今日のレースで2位フィニッシュしたオワードがランキング2位。ポイントトップで今日のレースを迎えていたエリクソンはランキング3位に後退した。

「スタートで自分の周りを見たら、みんなハードタイヤ。“これはうまく行けば勝てるぞ”と思った。今日は作戦もタイヤ選択も何もかもが今シーズン初めてうまくいった。マシンの仕上がり具合がとても良く、スピードがあった。終盤戦ではトラフィックの中を走ることもあったが、問題なくハイペースを保って逃げ続けることができた」と彼は喜んでいた。
 
 今シーズン早くも3回目の2位だが、オワードはマクラーレンのパフォーマンスに強い手応えを感じていた。

「僕たちは2、3、5位だった。これはめちゃくちゃ凄い結果だ。今日もチームの用意してくれたマシンは素晴らしかった。スタートからゴールまで自分たちのペースを守って走り切った」

「その結果、ポールスタートだったルンガーを取り囲むように3人のチームメイトたちがトップ5でゴールした。2番手に浮上してからはトップを行くパロウとの差をできる限り縮めようと頑張ったが、今日の彼は強力だった」とコメントした。

 ルンガーは4位でも喜んでいた。「レース中にはトップ10フィニッシュも危ういと思えた時間帯があったので……」と彼はコメントし、「最初に履いたソフトタイヤは超絶アンダーステア。2回目に履いたソフトタイヤはリヤのグリップがまるで持たなかった」と戸惑いも見せていた。

 これで全17戦のうちの5戦が終了。チップ・ガナッシ・レーシングは宿敵チーム・ペンスキーに並ぶ2勝目を挙げた。残る1勝はアンドレッティ・オートスポートが確保している。エンジン別で見るとホンダが今回3勝目を挙げ、2勝のシボレーをリードしている。

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