NTTが異例の大型株式分割、狙いは新NISA?個人投資家にとってのメリットとデメリット

先週、5月12日(金)のザラ場に驚きの開示がありました。NTT(9432)が2024年3月期の決算と同時に、1株につき25株を割り当てる株式分割を発表しました。時価総額が14兆円を超える同社が25分割とは考えつかず、開示情報をもう一度見返すほどの出来事でした。


NTTが異例の大型株式分割

株式分割とは、1株の株式をいくつかに分割して、発行済みの株式数を増やすことです。仮に1株を2株に分割すると株式数は2倍になり、理論上、1株の価値は2分の1となります。

例えば、1株1,000円の株式を2株に分割すると、1株保有していた人は2株保有することになりますが、権利落ち後は1株が500円になり、資産価値は変わりません。株式の流動性を高めるため使われることが多いです。

前途したように、NTTのような時価総額が14兆円を超える企業が、大型分割を発表した例は過去に記憶がありません。同社が大型分割に至った理由として、「2024年から新しいNISA制度が導入される事も踏まえて、投資単位当たりの金額を引き下げる事で、より投資しやすい環境を整えました」としています。

実際、NTT株を5月12日(金)の引け値を基準に投資金額を計算すると、同日の終値が4,108円の為、4,108円 × 最低単位100株 = 410,800円が必要になります。しかし、分割後は株価が164.3円となる為、164.3円 × 最低単位100株で16,430円で同社の株式を購入する事が出来ます。

2022年10月、東京証券取引所は個人投資家が投資しやすい環境を整備するために、望ましい投資単位として、5万円以上50万円未満という水準を明示し、投資単位が高額の企業に株式分割を促した経緯がありました。

今回のNTTの株式分割は東証が設定した最小投資単位5万円をも大きく下回る規模となります。投資単位が2万弱となり、多くの個人投資家が同社株を購入する事を検討する可能性はありそうです。

大型の株式分割、デメリットは?

しかし、デメリットとして発行済み株式数が現在の約36億株に対し、分割後は約900億株となります。現在、発行済み株式数トップのトヨタ自動車は約163億株です。NTTはトヨタの5.5倍の発行済み株式数となります。

株価は160円となりますが、流動性は乏しくなる可能性があります。心配された株主優待に関しては、7月1日(土)の株主分割以降も変更がないと会社から開示が行われました。株主優待の内容は以下になります。

【対象となる株主】

基準日時点で、100株以上保有し、以下の保有期間の株主

・2年以上3年未満(株主名簿登録日が2020年4月1日~2021年3月31日に該当する株主):1,500ポイント

・5年以上6年未満(株主名簿登録日が2017年4月1日~2018年3月31日に該当する株主):3,000ポイント

但し、株主へ毎年進呈するものではありません

現在、2023年3月31日基準の株主に対し、dポイントを進呈する株主優待があります。しかし今後、分割によって付与ポイントや対象となる条件の変更のほか、発行済み株式数が日本最大の企業となるだけに、今後株主優待の廃止の可能性もありそうです。

昨年、岸田首相は骨太の改革の中で「資産所得倍増プラン」を掲げ、その実現手段としてNISAやiDeCoの拡充・改革を挙げています。しかし、NISAなどで購入する商品が米国のS&P 500や全米株式インデックスなど海外に流入しているとの報道もあり、今回のNTTのような大型分割が他の企業へと波及し、投資単位の引き下げする事で日本企業への投資を促す狙いもありそうです。

ふと思い出したのが、1987年のNTT株上場です。私が証券会社に入社する1年前に上場した同社株が初値160万円を付け、数ヵ月後に318万円まで株価が高騰し、個人の株式投資ブームが広がったと言われています。数年後にはバブル崩壊し、NTT株が塩漬けになった個人投資家も多くいたと聞きました。同じ過ちとならない事を祈るばかりです。

株式分割のメリット、デメリットはありそうですが、NTTの今後の株価には注目したいところです。なお、株式分割のメリット・デメリットなどは2022年6月20日(月)の記事を参照にして頂ければ幸いです。

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