確定拠出年金で「配分変更」と「スイッチング」が必要になるケースは?

確定拠出年金は、原則60歳まで資金の引き出しができませんが、それまでの期間は適時運用商品を売買し資産運用を行います。その際は配分変更、あるいはスイッチングという知識が必要なので、今回は、3つのケーススタディで、具体的にその方法をご紹介します。


定期預金はそのままに、少しずつ投資にチャレンジ

まずは、今まで元本確保型商品のみを選んでいたという方が、少しずつ投資にチャレンジしたいというケースです。

例えば、これまでの積立で定期預金がある程度貯まっていて、これをすべて投資信託にいきなり変えるのは不安だけれど、次月の積立分から少しずつ投資にもチャレンジしたいという時は、「配分変更」を行います。配分変更とは、次月購入する商品を変更するということです。

タナカさんはこれまで、掛金1万円で定期預金Aを購入していましたが、次月からバランス型の投資信託Bの積立を行いたいと考えています。その場合は、まずご自身の確定拠出年金のインターネットマイページにログインし、「配分変更」というタブをクリックします。

すると、現在の商品配分として「定期預金A 100%」という表示を確認することができます。その下には、これから配分変更する運用商品の一覧が表示されています。それぞれの商品名の横には、配分割合を入力する欄があります。

タナカさんは、運用商品の一覧から「バランス型投資信託B」をチェックし、その配分を100%と入力します。その後、配分変更を確認する表示が出て、承認すると次月分から定期預金Aは買い付けせずに、投資信託Bを1万円ずつ買い付けすることになります。

タナカさんが次月から購入する投資信託は、複数あってもかまいません。その場合、投資信託Bを30%、投資信託Cを70%というように、合計100%になるよう割合を指定します。配分変更のポイントは、今ある定期預金の残高は変わらないという点です。タナカさんのように、少し保守的な方が投資にチャレンジする時には適しています。

配分変更の指示は、次の買い付け日時に反映させるために締め切りがあります。締め切りに間に合わない場合は、その次の月に反映が持ち越されます。

ポートフォリオのトリミング、リバランスを実行する

カトウさんは、毎月国内外の株や債券に投資をする投資信託4本を選び、それぞれ25%ずつの配分で買い付けを行っています。定期的に残高をチェックしていたところ、全体に占める日本株の割合が30%に膨らんでいました。一方日本債券が20%と当初の設定からずいぶんとバランスが崩れていることが分かりました。

そこで、ポートフォリオのトリミングであるリバランスを実行することにしました。同時に、これまで選んでいた日本株の投資信託Dより、日本株の投資信託Eの方が同じインデックスでありながら信託報酬が安く、かつパフォーマンスも良かったので入れ替えも実行したいと考えています。

カトウさんはまず、「配分変更」にて次月は投資信託Dの購入を止めて、投資信託Eを購入するという指示を行います。現在の商品配分欄には、日本債券に投資をする投資信託が25%、日本の株式に投資する投資信託Dが25%、外国の債券に投資をする投資信託が25%、外国の株式に投資をする投資信託が25%と表示がされており、その下に変更指示をするための運用商品一覧があります。

そこでカトウさんは、日本債券に投資をする投資信託を25%、日本の株式に投資する投資信託Eを25%、外国の債券に投資をする投資信託を25%、外国の株式に投資をする投資信託を25%と入力をします。これにより、次月から投資信託Dの買い付けは行われず、投資信託Eの買い付けが実行されます。なお、合計4本の投資信託それぞれ25%ずつという配分は変わりません。

次にカトウさんが行うのは「スイッチング」です。30%に膨らんでしまった日本株を5%分売却して、その資金で20%にしぼんでしまった日本債券を5%分購入します。この際の注意点としては、投資信託を売却する際には一定の日数が必要だという点と、商品によっては売却時に「信託財産留保額」という手数料が発生するということです。

では、実際の手順をみていきましょう。「スイッチング(あるいは預け替え)」のタブをクリックすると、現在保有している運用商品一覧とその残高が表示されます。その一覧から日本の株式に投資をする投資信託Dをチェックします。

カトウさんは、先に投資信託Dの買い付けを止めて、投資信託Eの買い付けを行う「配分変更」の手続きを行いましたが、この時点で投資信託Eはまだ残高がありませんから、売却をするのは投資信託Dとなります。そこで「一部売却」にチェックを入れます。

一部売却を指示すると、何口売却したいのかを聞かれますので、その問いに答える形で指示を行います。計算方法はヘルプ機能で確認ができますので参照しましょう。カトウさんの場合、資産全体の5%に相当する口数を計算し、投資信託Dの売却を行います。

次に、売却した資金で何を買いたいのかが問われます。今回は日本の債券に投資をする投資信託を100%と指示をします。ここでいう100%とは、売却資金全額で購入するという意味です。投資信託Dの売却が終了したら、その金額で日本の債券が買われますが、この手続きが完了するまでには一定の日数がかかります。

カトウさんが注意すべき点としては、スイッチングの指示はいつでもできるけれど、配分変更の指示には締め切りがあるという点です。スケジュールを間違うと、投資信託Dを売却したのにまた次月、同じ商品を購入してしまったということになってしまいます。

なお、投資信託Dの残高全部を投資信託Eに入れ替えたいという場合は、スイッチングで投資信託Dを全部売却し、その資金100%で投資信託Eを買い付けするという指示を行います。

ポートフォリオのトリミングは、それほど頻繁に行う必要はありませんが、定期的にご自身の資産状況を確認しながら、必要に応じて行っていただくのが良いと考えます。

現金化に備えて、少しずつ利益確定をしながら元本確保型商品にまとめたい

58歳のサトウさんは、60歳になったら企業型確定拠出年金の加入資格を失うこともあり、いったん全額を老齢給付として受け取ろうと考えています。幸い運用期間が長かったこともあり、資産は増えていますので、利益が出ている投資信託を順番に売却しながら現金化に備えたいと思っています。

サトウさんの現在の資産状況を見ると、投資信託Fが30%のプラス、投資信託Gが5%のプラス、投資信託Hが2%のマイナスとなっています。この状況を見てサトウさんは、積立の部分は今まで通り投資信託F、G、Hで継続したいが、投資信託Fについてはせっかくの利益なので、いったん確定をしておきたいと思われました。

次月以降の買い付けについては変更なしですから、行うべき手続きはスイッチングのみとなります。では、まずはマイページにログインをします。実はサトウさん、IDとパスワードを忘れてしまっていたので、会社に相談をして再発行の手続きしていました。再発行の手続きには日数がかかりますから、ID・パスワードの管理はしっかり行いたいところです。

「スイッチング」のタブを開くと、現在保有中の商品一覧が出てきます。ここでサトウさんは投資信託Fをチェックし、一部売却を選び、売却したい金額の口数を指定します。その後、定期預金を選び購入100%と指定すれば、完了です。

もしサトウさんが、少しずつリスク商品を減らして行きたいということであれば、配分変更で次月から投資信託Fの買い付けをやめ、その分で定期預金の買い付け行う指示をし、かつスイッチングで投資信託Fを全部売却し、その資金100%で定期預金を購入するということもできます。

サトウさんの注意点は、確定拠出年金だけを見るのではなく、定年後のキャッシュフローを見据えた計画も必要という点です。というのも、確定拠出年金は最長75歳まで運用可能です。この期間はNISA同様、運用益は非課税ですから、運用指図者として運用のみを継続するのも有効です。その場合は、公的年金をいつから受け取るのか、定年後は働くのかなども考え、全体として確定拠出年金の資金を60歳で受け取るべきかどうか検討すべきでしょう。

特に企業型確定拠出年金の場合、確定拠出年金の資金は定年時に一括で受け取ると、退職所得控除が使えるのでお得だ、というアナウンスがされることが多いようです。しかし実際には、確定拠出年金以外に退職一時金や確定給付企業年金(DB)があったりして、必ずしも一括受け取りが税制上有利とも言えないケースもあります。

また定年後の働き方によっては、改めて企業型DCに加入したり、iDeCoに加入したりする場合もあり、その際も60歳時点で確定拠出年金の資金を一括で受け取るのがいいのかどうか、判断が分かれます。

実際に手を動かしてみることが重要

配分変更、スイッチングという作業は、確定拠出年金独特のものです。実際、金融機関によって、その手順や名称が異なることがありますので、その場合はコールセンターなどに問い合わせをしてみて下さい。いずれにしても、まずは自分で手を動かしてやってみましょう。

例えばバランスファンドを選んでいる場合、スイッチングはファンドマネージャーが行っているので、ご自身で行う必要はありません。しかし、転職時の移換や老齢給付の受け取りの際など現金化が必要になるタイミングでは、やはりご自身で手続きを行う必要があります。

少し面倒な手続きだと思われがちですが、一度それぞれの作業の目的について、整理し理解することをお勧めします。

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