神戸・新開地の交差点にミカンの木 なぜこんな所に? 実は食べてもいい? 禁断のお味は…

交差点のそばに植えられたミカンの木。高い所にしか実が残っていない=神戸市兵庫区水木通1

 神戸市兵庫区の新開地交差点に、ミカンの木が1本ぽつんと立っている。高さは目測で5メートルほど。交通量が多く、果樹には適していなさそうな環境だが、ざっと50個以上の実をぶら下げている。なぜ、こんな所に果物の木が植わっているのだろう。おいしそうな実だが、食べられるのだろうか。(大田将之)

 木があるのは、同交差点北東側の中央幹線沿い。神戸信用金庫中央支店前で、存在感を放っている。

 写真を撮っていると、通りがかりの高齢女性に話しかけられた。「兄ちゃん、そのミカン、一つくれへんか?」

 脚立に乗っていたので、収穫していると思われたのだろうか。申し訳ないが、勝手に摘み取っていいものか分からないので、お断りした。女性は残念そうに去って行った。

四半世紀

 神戸市に聞くと、木の正体はすぐに分かった。品種はナツミカン。1990年代後半に街路樹として植えたものだ。管理する市中部建設事務所の松下祐美係長は「毎年、大きな実をつけていますよ。街路樹に果物がなっていると、気分が上がりますよね」と話す。

 当時、「市民が自然の恵みを感じられるように」と、果樹が選ばれたという。各区の道路や公園の計十数カ所に、リンゴやカリンなどが植えられた。

 それから四半世紀。道路の拡張や木の衰弱などによる伐採もあり、「今はほとんど残っていないのでは」と市公園部整備課の担当者。リンゴが植えられた北野町(中央区)の異人館・ラインの館前にも、木は見当たらなかった。

「優等生」

 同市は約50年前に「グリーンコウベ作戦」を掲げ、市街地などでの積極的な緑化を進めた。その結果、人口100人当たりの街路樹(高木)の本数で主な政令市のトップを誇る一方、近年は巨木化や老木化への対応が課題になっている。

 また、実をつける街路樹には、市民からの苦情が寄せられやすい。特に多いのが、においを放つイチョウの実。「落ちる前に回収して」との声が頻繁に寄せられており、清掃や早めの剪定、実をつけない雄木への植え替えなどが必要になる。

 その点、新開地のナツミカンは優等生だ。手入れはほぼ不要で、落果への苦情もない。広めの歩道に植えられているため、剪定もほとんどしていないという。新開地にナツミカンが採用された経緯についての記録は残っていなかったが、管理のしやすさや、見栄えの良さなどが考えられる。

もぎ取れば

 一番気になっていたことを松下係長に聞いてみた。「食べてもいいですか?」。すぐに返事が返ってきた。「だめです」

 読者の皆さんに味もお伝えしたかったが、あくまでも「見るため」に植えた木だとのこと。「実を取ってもいいですか」という市民からの問い合わせは、年に1件くらい寄せられるという。

 ただ、少し離れて木を眺めると、気が付くことがある。果実が木の上の方に不自然に偏っている。大人が手をのばして届くような高さには緑の葉だけ。これは、誰かが…。

 「一つなくなったからといって追跡しませんが、大量になくなった、となれば話は別です。本来の観賞価値が損なわれるので」と松下係長。木は市の所有物。果実でも、勝手にもぎ取れば窃盗罪に問われる可能性がある。

 地面に落ちた実を拾って持ち帰るのは問題ないという。観賞用の役目を終え、扱いとしては落ち葉と変わらない-との理屈らしい。ただ、大量の排気ガスを浴びている上、害虫駆除の薬剤を使うこともあり、食用としての安全性は確認されていない。

 つややかで丸々とした実でありながら、味を確かめることは誰にもできない。松下係長がつぶやく。

 「私たちだって、食べたことはありませんよ。食べてみたいですけどね。おいしそうですよね」

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