社説:マイナ保険証 国民の信頼を損なう漏えい

 多くの国民が不安に感じていた個人情報漏えいが現実となった。マイナンバー制度に対する信頼が大きく損なわれたと言わざるを得ない。

 健康保険証がマイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」を利用した際、別人の医療情報を閲覧されたケースが5件あったことが厚生労働省の調査で分かった。

 健康保険組合などによる誤登録が原因で、別人の情報がひも付けされた例は全国で約7300件にも上るという。

 これ以外にも、マイナカードを使って住民票の写しなどがコンビニで受け取れるサービスについて、別人の証明書が誤交付されたケースを延べ14件確認したと総務省が明らかにした。

 政府はかねて強い国民の懸念を置き去りにし、「セキュリティー対策は十分」とカードの普及を強引に推し進めてきた。続発するトラブルを重く受け止めなくてはならない。

 表面化したのは氷山の一角ではないのか。それなのに加藤勝信厚労相は会見で「ミスが起こらないよう、これからも注意していく」と人ごとのように述べた。まったく危機感が伝わらないのはどうしたことか。

 たとえ人為的なミスがあっても、情報流出という最悪の事態が起こらないようにするのがシステム構築の基本のはずだ。それが入力者の注意頼みというのはお粗末過ぎる。

 政府は、健康保険証を廃止してマイナカードに一本化するマイナンバー法など関連法改正案を今国会に提出している。

 国民の不安を払拭(ふっしょく)するのが先ではないか。まずは立ち止まり、徹底した点検と再発防止策が欠かせない。

 カードの交付は2016年の開始以降、長らく低迷した。政府は買い物などに使えるポイント付与や、オンラインでの行政手続き拡大など「利便性向上」を訴え、自治体の地方交付税の算定に差をつけるなど、なりふり構わない普及策を進めた。

 交付率は70%を超えたが、肝心の安全対策のずさんさが浮き彫りとなった形である。

 そもそもカードの取得は法律上任意なのに、政府は実質的に義務化しようとしている。しかも医療サービスを「人質」に取得を迫る乱暴なやり方だ。一方で、医療機関のカード読み取り機の設置は進んでいない。

 改正案ではマイナンバーに行政が把握している住民の口座をひも付けし、公金受取口座として登録する制度も設けるとした。

 このまま、なし崩し的に用途が拡大すれば、個人情報の漏えい、流用のリスクはいや応なく高まる。

 行政事務を効率よくするためにデジタル化をごり押ししても、国民の警戒心は募るばかりである。それこそがデジタル化の足かせになっていると政府は改めて肝に銘じるべきだ。

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