PTAを解散したら…「楽しい」と笑って活動する親が増えた 保護者にのしかかる負担を減らし、義務・強制をやめる方法とは

「はなぞの会」の集まりで意見を交わすメンバー=4月15日、大津市

 「PTAを解散した」。そんな学校があると知って驚いた。改革さえ難しいと言われているのに。PTA活動はもともと、専業主婦が担うことを前提としていた。共働き家庭が増加した現在では、時代遅れ感が否めない。なり手不足も深刻だ。
 毎年春が近づくと新年度の役員決めが始まり、多くのしこりを残す。義務感だけで引き受けたり、半ば強制的に役を割り当てられたりする人も多い。やらされ感もつきまとい、「1年の我慢」と言い聞かせながら活動するのは非常につらい―。そんな現状を打破し、新しいPTAの在り方を求め、保護者が無理なく参加できる組織を目指し改革を進めた二つの小学校を訪ねると、“常識”が覆されるような運営がなされていた。(共同通信=小林磨由子)

PTAを解散した大津市立志賀小=4月15日、大津市

 ▽LINEで済む用事なのに、わざわざ集まっていた
 まず訪ねたのは、PTAを解散した滋賀県の大津市立志賀小。古くから住む世帯と、京都方面に通う新しい世帯が混在する地域にあり、児童数は700人ちょっとだ。解散は2020年度だという。
 元会長の谷祐治さん(49)が経緯を教えてくれた。かつては平日昼間の活動が多く、仕事を休まざるを得ない人もいたり、LINE(ライン)でのやりとりで済むような事務連絡のためにわざわざ集まったりしていたという。「違和感を抱いた。時代に合っていなかった」。谷さんたちが改革に着手した。
 保護者にアンケートを取り、広報など当時の委員会をすべて廃止に。一方、図書部など児童と保護者の交流の場となるサークル活動は残した。過去のPTA役員たちには理解を求めた。「組織をアップデートしたい。地域とも連携したい」

 

「はなぞの会」現会長の木戸地泰孝さん=4月15日、大津市

 ▽イメージが変化、男性が増えた
 PTAをなくす代わりに結成したのが、保護者会「はなぞの会」。地域にゆかりの言葉を冠した。会則で掲げたのは「運営は自主的な意思の下で行う」「誰もが参加しやすい会を目指す」。地域の文化祭にも参加し、地域密着を目指す。
 現在の運営メンバーは立候補で集まった女性6人、男性5人。人数に規定はない。イメージが変わったことで男性が増えたという。
 会のモットーは「できる範囲で工夫を凝らして活動する」だ。2022年度の運動会では、これまで役員がやっていた撮影係のボランティアを募集。「運動場のトラックの中に入れます!」と呼びかけたところたくさんの手が挙がり、充実した広報誌ができあがった。
 「仕事や趣味で培ったスキルを少しずつ持ち寄り、子どもたちのために楽しみながらやっている」。現会長の木戸地泰孝さん(41)が語る。最近では学校を「はなぞの」にしようと企画。登校する児童を迎えるように色とりどりの花が並ぶようになった。
 副会長の佐野友哉さん(44)は「仕事やプライベートの時間が許す限り、はなぞの会に関わっていきたい」。役員の喜多村玄太郎さん(48)は「義務感ではなく、いいなと思ってやっているので楽しい」と笑った。

「はなぞの会」の集まり。参加できないメンバーもいたが、終了後にLINEで情報共有するという=4月15日、大津市

 ▽役員を拒否するには「診断書」と「保護者に事情説明」
 次に向かったのは、京都駅から地下鉄とバスで北へ30分余りの場所にある京都市立岩倉北小。PTA組織を維持したまま運営方法を大きく変えた学校だ。その影響で、ほぼ100%だった加入率は約65%まで落ち込んだが、それで構わないという。「明るい表情で活動してくれる保護者が増えたから」
 取材に応じてくれたのは2021年度の会長で現顧問の千本文さん(44)。以前はなり手不足が深刻化していた。当時は家庭の数が230ほどなのに、毎年50人以上が何らかの役に就く状況だったためだ。役を引き受けられない場合は「できない理由」が求められ、役を決める日には病院の診断書を持参した上で、他の保護者の前で事情を説明する必要まであった。

京都市立岩倉北小PTA顧問の千本文さん=3月、京都市

 「こんなことをするためにPTAが存在しているわけではない」―。不満が少しずつ役員から出始めた。改革の必要性を強く感じながらも、2017年度は賛同を得られず何もできなかった。そこで2018年度は保護者に現状の負担感の大きさを説明し、共有してもらうことから始めた。
 その後、PTAについて考える保護者座談会を開いたり、アンケートを取ったりしながら、業務の見直しを開始。2020年度には委員会をすべて休止し、役員も半数に減らした。そして2021年度には、行事ごとにボランティアを募集する制度を本格導入した。
 毎年恒例のハイキングの運営や、児童のサツマイモ栽培の手伝いなど、ボランティアを募れば必ず手が挙がる。もしも集まらない場合は柔軟に対応する方針で、中止もあり得るとしている。

岩倉北小では、PTAボランティアが児童のサツマイモ栽培を手伝う(岩倉北小PTA提供)

 ▽役員の集まりが「オンライン」に。ビール片手に参加もOK
 2020年度からは退会できる規定を設け、1年ごとにPTA加入の意思確認を始めた。導入前はほぼ100%だった加入率は、2022年度は約65%と大幅減となった。しかし、無理な加入が減り、主体的に関わる保護者が増えたという。
 千本さんは手応えを口にする。「強制的な活動はなくなり、本来あるべき姿のPTAに変わってきている。本部役員もみんな立候補。役のなり手不足に悩む必要もなくなった」
 月1回の役員の集まりもほぼオンライン。画面に子どもが映り込んでも、ビール片手に参加しても構わない。千本さんは「気楽さが大事」と繰り返した。

 ▽LINEで情報発信、2種類の広報誌
 両校の保護者たちの活動に共通するのは、「見える化」だ。岩倉北小は広報誌を廃止し、LINEで情報を発信してきた。PTAの公式アカウントがあり、加入している人もしていない人も登録は自由だ。イベント時はリアルタイムで写真やメッセージを配信。送る方も受け取る方も手軽で、PTAを身近に感じる人が増えたという。
 はなぞの会の広報誌は2種類になった。子どもの学校での様子をたくさんの写真で紹介するものと、会の活動を知ってもらうものがある。オンラインでも見られるよう、現在、会員限定のホームページを作成中だ。

 

専修大の岡田憲治教授(本人提供)

 ▽敬遠される組織から脱却するヒント
 公立小でPTA会長を3年間務め、運営の見直しを進めた経験のある専修大の岡田憲治教授(政治学)に話を聞いた。
―PTA活動を苦しいと思う保護者が多いように感じます。どこに無理が生じているのでしょうか。
 「保護者の勤務形態が以前とは変わっています。オフィスで働く女性が増えているのに、PTAは専業主婦が多かったころのやり方で運営されていて、現状に見合っていません」
―一方で、PTA活動を見直す動きもでてきているように思います。
 「統計を取っているわけではないですが、全国的にも改革の機運は高まっていると感じています。PTAを解散したという話も聞きますし、僕の経験を話してほしいとトークイベントに呼ばれることも増えました」
―新型コロナウイルス禍を機に、PTA活動を縮小した学校も多いと聞きます。
 「コロナ禍で本当に必要な活動を選別せざるを得ないようになりました。コロナ禍でPTA改革が進んだと思います」
―どのような組織になれば、負担を感じずに済むでしょうか。
 「任意団体として自由に運営して、義務にしばられず楽しそうにやっていたら、人は集まってきます。できないことはやらなければいいだけです。他のママやパパとつながりたいと思っている保護者はたくさんいますよ」
 敬遠される組織から脱却するヒントがありそうだ。

岩倉北小で3月に開かれたPTAのイベント。ボランティアに手を挙げた保護者が運営した(岩倉北小PTA提供)

【取材後記】
 私は子どもの通う小学校で副会長を務めた。会長の方針は「持続可能なPTAにしていきましょう」。デジタルツールを活用しながら、これまでなんとなく続いてきた業務を可能な範囲で見直した。が、それでも仕事をしながらこなすのはきつかった。
 中でも疲弊したのは、次の役員を決めることだった。立候補制だが、自ら手を挙げてくれるのはわずか。役ごとに定められた人数を満たすため、引き受けてくれそうな人に必死に声をかける。お願いする方もつらいが、される方もつらかったと思う。どの学校でも同じようなことが起きているのだろうと想像した。
 取材を終えた今、「やらなければならない」という概念を取り払った志賀小と岩倉北小のように、自由度の高い組織が増えるといいなと感じている。

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