チャスティンvsラーソンは遺恨のクラッシュ決着。漁夫の利バイロンが今季3勝目/NASCAR第13戦

 決勝を通じ、その個性を遺憾無く発揮してひさびさの“大暴れ”を演じたロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)と、終盤に優勝争いを繰り広げたカイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が遺恨のクラッシュに散った2023年NASCARカップシリーズ第13戦『グッドイヤー400』は、リードを引き継いだウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が今季3勝目1番乗りを飾る結末に。レースウイークに祖父を亡くした男が、24号車の通算100勝目を刻んでいる。

 シリーズ開催トラック中でも伝説的地位を保ち、通称『Lady in Black』の異名を取るサウスカロライナ州のダーリントン・レースウェイ。その独特な形状を有する古参トラックで開催された5月12~14日の1戦は、前週とは立場が逆転し予選からトヨタ勢が好調を維持し、ダレル“バッバ”ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)を従えたマーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が同地初、キャリア通算21回目のポールポジションを獲得した。

「ターン4でうまくバランスが取れるようセットを調整してくれて、それが助けになった」と最速タイムの要因を振り返ったトゥルーエクスJr.。「どのくらいのラップタイムで走る必要があるのか、タイヤがどう影響を与えるのかはよく分からなかったが、バランスはとても良かったから間違いなく満足している」

 そう語ったトゥルーエクスJr.は宣言どおり日曜決勝のステージ1を支配し、都合145周をリードする展開に。しかし背後のウォレスJr.がピットの作業ミスで後方へと下がり、自身もハイラインに張り付きウォールをブラッシュするかのようにハンドリングが厳しくなり始めた151周目に、ついに5番手スタートだったチャスティンに首位を奪われてしまう。

 しかしここで喰い下がった19号車のトヨタ・カムリは、ステージ2の最終周に向け首位の1号車シボレー・カマロZL1を猛追。背後に急接近してボトムへ移ろうかという瞬間に、不運なアクシデントが発生する。

 バックマーカーに詰まって速度を落としたチャスティンが壁に接触し、跳ね返された弾みでトゥルーエクスJr.のフロントに接触。たまらずスピンを喫したカムリはエプロンまで飛ばされ10位でステージを終え、そのままチャスティンが今季5度目のステージ制覇を手にした。

今季創設75周年を迎えたNASCARは、現地で75 Greatest Driversの集合撮影も実施。グッドイヤーも特別なホワイトレターを施した
予選では、マーティン・トゥルーエクスJr.(Joe Gibbs Racing/トヨタ・カムリ)が同地初、キャリア通算21回目のポールポジションを獲得した
ダレル”バッバ”ウォレスJr.(23XI Racing/トヨタ・カムリ)を従え、ステージ1はそのトゥルーエクスJr.が制する
前線勝者デニー・ハムリン(Joe Gibbs Racing/トヨタ・カムリ)も壁にブラッシュするなど、序盤から苦戦を強いられる

「もちろん、ステージ2の終わりに勝利を目指してチャステインに近づいたが、つま先(フロント)をぶつけられてしまった。そこからは本当にタイトだった」と、最終的には31位に終わったトゥルーエクスJr.。

「ただ残念な駆け引きだった。そこには充分なスペースがあったが、彼はちょうど壁から落ちてきて僕にぶつかった。右前方をヒットされ、そこからはかなりヒドい状態で、その後のリスタート(281周目)でもかなりキツくなったよ……」

 ステージ3の再開となった194周目にも、バッストレッチで9台が絡む最初の“ビッグワン”が発生した終盤戦は、そのトゥルーエクスJr.がピットロードで4つ順位を取り戻す奮闘を見せる。しかし厳しくなったハンドリングが戻ることはなく、281周目に3番手で迎えたリスタートでは、今度は自身が“ビッグワン”の引き金となり、ここで8台のクルマが道連れとなってしまう。

「とにかくルーズになり、誰を壁に押し込んだのかさえわからないが、彼らに謝罪したい。おそらく僕のせいでとてもタイトになってしまい、トラックに留まることはできなかったんだ」

通称”Lady in Black”の異名を取るサウスカロライナ州のダーリントン・レースウェイ。その独特な形状ゆえラインも交錯し、壁際でギリギリのバランスを保つ必要も生じる
ステージ2の最終周に向け首位の1号車シボレー・カマロZL1を猛追していたトゥルーエクスJr.は、不運なアクシデントに
優勝争いで残り7周に臨んだロス・チャスティン(Trackhouse Racing Team/シボレー・カマロ)とカイル・ラーソン(Hendrick Motorsports/シボレー・カマロ)は、遺恨のクラッシュに散る
レースウイークに祖父を亡くしたウイリアム・バイロン(Hendrick Motorsports/シボレー・カマロ)が、24号車の通算100勝目を刻んでいる

■道連れにするなんて、何の意味があるんだ!

 これで最後の勝負はステージ3を通じて先頭を牽引してきたチャスティンとラーソンに絞られ、残り7周のリスタートへ。ここでインサイドを選択していたチャスティンはターン1に猛然と飛び込むと、ダーリントン特有のバンクはシボレーを上段へと押し流し、ラーソンの進路を塞ぐ形でクラッシュ。

 そのままバックストレッチまでスロットルを緩めず1号車を押し続けたラーソンを含め「ここでフェンスに道連れにするなんて、何の意味があるんだ!」と激怒するHMS陣営に対し、チャスティンは「ターン1にフルコミットした」と語り、自身のアグレッシブさを擁護する言葉を残した。

「本当にタイトだったし、僕は僕自身に集中していた」と続けたチャスティン。

「彼のラインを絞りたかったし、押し上げたかった。そして僕もターンとラインに神経を注いでいたんだ。僕らは1日中、こうして行ったり来たりしながら競争を繰り広げている。だからこそ、絶対にあそこで引くことはできなかったんだ」

 残り2周のオーバータイム・リスタートで首位を譲り受けたバイロンに対し、その手前281周目でフロントエンドにダメージを負っていたケビン・ハーヴィック(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)に追撃の余力はなく。そのままバイロンが今季カップシリーズ初の3回目のウイナーとなった。

「そうだね、本当にすごいことだよ」と予想外の結末を喜んだバイロン。

「僕の祖父は木曜日に亡くなったんだ。家族がここにいてくれたらいいのにと思うよ。正直なところ物事にはうまくいく方法があって、今日はそのとおりになった。確かにこれは予想していなかったし、最高のステージ3ではなかったけれど、僕たちはただ戦い続けただけで、状況は少しずつ好転していったんだ」

 土曜に開催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズ第11戦『Shriners Children’s 200』は、ターン4出口で壁に跳ね返り、ゴールライン手前100ヤードのところでジョン-ハンター・ネメチェク(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタGRスープラ)を逆転したカイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が、文字どおりの“ダーリントン・ストライプ”を引っ提げて勝利。

 同じく併催のNASCARクラフツマン・トラック・シリーズ第9戦『バックルアップ・サウスカロライナ200』は、クリスチャン・エッケス(マカナリー・-ヒルゲマン・レーシング/シボレー・シルバラードRST)が待望の今季2勝目をマーク。服部茂章率いるハットリ・レーシング・エンタープライズ(HRE)、16号車タイラー・アンクラム(トヨタ・タンドラTRD-Pro)は終盤タイヤダメージを抱え14位に終わっている。

今季限りで勇退表明のケビン・ハーヴィック(Stewart-Haas Racing/フォード・マスタング)は2位。「フロントが破損していて最後は追えなかったが、今日は良いクルマに乗れた」
4月末にスプリントカーで脊椎骨折を負ったアレックス・ボウマンの分も奮闘したチェイス・エリオット(Hendrick Motorsports/シボレー・カマロ)が3位に
NASCAR Xfinity Series第11戦は、ワイルドなフィニッシュを制したカイル・ラーソン(Hendrick Motorsports/シボレー・カマロ)が勝利
NASCAR Craftsman Truck Series第9戦は、クリスチャン・エッケス(McAnally-Hilgemann Racing/シボレー・シルバラードRST)が待望の今季2勝目をマークしている

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