公設民営化の宮城・公立刈田総合病院 運営の医療法人が黒字化に向けて改革を

巨額の赤字が続き存続の危機に陥っている宮城県白石市の公立刈田総合病院は、4月に公設民営化し運営を委託された医療法人が新たな体制を築こうと改革を行っています。

4月に公立刈田総合病院の院長に就任した今村豪医師。院長自ら当直医のバックアップに入り、救急体制をサポートしています。この日も、夜間に訪れた2人の患者を診察しました。
「18時半とかは7度4分とか」「8度いった?」「車に乗ったら8度」

刈田病院は、3月まで白石市と蔵王町、七ヶ宿町でつくる組合が運営してきました。毎月、1億円前後の赤字を出し存続の危機にありますが、地域にとっては欠かせない病院です。
公立刈田綜合病院特別管理者伊藤貞嘉医師「ここでは透析の患者が130人から140人ぐらい。この病院が無くなったらその人たちは行く場所が無い。だからどんなことがあっても、この病院を潰すわけにはいかないと」

危機を乗り切るため白石市が提案したのが、自治体が施設を保有したまま運営を民間に委託する公設民営化です。
紆余曲折はありましたが、4月に白石市立の病院に生まれ変わり、指定管理者には今村院長が理事長を務める奈良県の医療法人、仁誠会が選ばれました。

公設民営化で黒字へ

今村院長は、これまで全国21法人46施設の運営や再建に携わってきました。刈田病院の黒字化にも自信を見せています。
医療法人仁誠会今村豪院長「初めての公立病院ですけど、そんなに不安はありません。必ず1年以内に黒字化」

黒字化の柱は、受け入れる患者の数を増やすことです。そのためにもこれまで、2割程しかなかった病床の稼働率アップは欠かせません。
公立刈田綜合病院今村豪院長「ベッドの稼働率を急性期(一般病床)だったら、8割前後まで伸ばした実績がありましたから、自信をもって黒字化できるなと」

患者数を増やすため、24時間365日受け入れ可能な病院を目指しています。その一つが夜間救急の受け入れ強化です。
これまでは当直の医師が、自分の専門から外れる患者の診察を行わないケースもあり、救急で受け入れる患者の数は限られていました。
しかし、幅広い領域の診断ができる総合診療医の今村院長が、当直の医師をバックアップすることで救急患者を断るケースが減りました。

十分な受け入れ体制を

実際、4月は前年に比べ救急患者の受け入れ数が3割近く増えました。
一方で課題もあります。当直の医師によって診療できる幅が異なるため、まだ十分な体制とは言えないということです。
公立刈田綜合病院今村豪院長「理想論と実際に当直する医者の裁量というのがあるので、当直の医師によってはまだまだスペシャリストで『僕(専門外なので)受け入れられないよ』っていう日もある」

今村院長は、今後幅広い領域の診療ができる医師を育成しこうした課題を解消していきたいとしています。
もう一つの取り組みが、業務の効率化です。医療事務について深い知識や技能を持った、メディカルクラークと呼ばれるスペシャリストを起用することで、カルテの入力など、医師が事務作業にかける労力を半分に減らそうとしています。
公立刈田綜合病院腎臓内科伊藤貞利医師「効率が悪いところがどうしても公立の病院であったと思うので、そういうところが改革されていって業務負担を減らしていってくれているような印象はありますね」

医師の負担が減ることは、患者の話をじっくり聞いて診察できるなど医療の質の向上にもつながると言います。
公立刈田綜合病院今村豪院長「カルテの方ばかり見て患者の方を見ないで診察しちゃうなんてことがある。あれ実際に医者にとってもすごくストレスなんですよね。本当は患者と向き合ってやりたいんですけど(カルテの)入力もしなくちゃいけない」
患者「ものすごく優しい先生ですね。一安心しましたよ。もっと早く来ればよかったなと思って」

また、看護師の勤務形態の見直しにも取り組んでいます。夜勤や連続勤務が続きやすかった3交代制から、勤務がより規則的で休息が取りやすい2交代制にシフトしました。
公立刈田綜合病院看護師宍戸はるかさん「緊張感が長く続いているかなとは思うんですけど、夜勤の次の日は休みをもらえているので休みがちゃんと取れてるかなと」

地域の信頼を

今村院長は、まずは体制をつくり地域の人たちに信頼される病院を作っていきたいと話します。
公立刈田綜合病院今村豪院長】「無駄な作業の割り出しだとかまだまだやってる途中なので、半年位しないとしっかりとした受け入れ体制はできないのかなとは思ってます。地元の患者さんたちに本当に来ただけで気分が良くなるような病院を目指してこれから活動していきたいと思ってます」

中野玲那記者
「地域の病院が存続できるかは全国的な課題です。今村院長は白石市周辺は医療を必要としている高齢者が多いので、そうした人たちが来てくれれば経営は成り立つと話していました。病院が存続できるかは、地域の人たちに信頼されるかが鍵になると思います。
公設民営化は4月に始まったばかりなので、半年や1年をかけ改革を軌道に乗せられるか推移を見ていきたいと思っています。

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