各国の「死刑」の現場を丹念に取材したルポ、宮下洋一『死刑のある国で生きる』が山本美香記念国際ジャーナリスト賞受賞!

ジャーナリスト・宮下洋一のルポ『死刑のある国で生きる』(2022年12月15日、新潮社刊)が、このたび山本美香記念国際ジャーナリスト賞を受賞した。 本賞は、2012年にシリア内戦の取材中に銃撃されて亡くなったビデオジャーナリスト山本美香の名前を冠した賞で、山本さんの精神を受け継ぎ、果敢で誠実な国際報道に努めた個人に対して贈られる。 書籍『死刑のある国で生きる』は安楽死や生殖医療など、長年、「生と死」をテーマに取材してきた宮下洋一が、日米欧の「死刑」の現場を丹念に取材したルポルタージュ。 いま、死刑を行なっているのは独裁国家や一部の後進国だけであり、世界は死刑廃止へ向かっている。そうした風潮のなか、先進国の中で死刑制度を維持する二つの国である日本とアメリカは、ずっと批判にさらされてきました。なぜ今、世界中で死刑が廃止に向かいつつあるのか。そのなかで死刑を維持し続ける国には、どんな理由があるのか。一方、実際に死刑を廃止した国では、いま何が起きているのか。アメリカ、フランス、スペイン、日本を訪れ、死刑囚や未決囚、仮釈放中の殺人犯、被害者遺族、加害者家族などに丹念に取材を重ね、死刑の意味に迫っていく。

アメリカと日本の死刑の違い

同じ死刑のある国でも、死刑をめぐる状況はそれぞれ異なる。日本では、死刑が確定すると、親族や弁護士、支援者以外は死刑囚に会えなくなる。死刑がいつ執行されるかも、どのように執行されたかも、知ることはできない。しかしアメリカのテキサス州では、死刑囚の顔写真や生年月日だけでなく、死刑執行予定日までがネットに公開される。死刑囚がOKすれば面会は自由で、死刑執行の瞬間を死刑囚の家族と被害者遺族、そしてメディアが見守ることができる。 宮下さんはアメリカに渡り、一人の死刑囚と面会。そして、死刑囚は死刑を前に何を考えるのか、死刑判決によってどう変わっていくのかを対話の中から探っていく。

死刑を廃止した欧州で何が起きているのか

ヨーロッパでは死刑が廃止されている。しかし全員がそれを歓迎しているわけではない。たとえばスペインでは殺人罪の刑期が10年~15年。早ければ7年ほどで仮釈放される。小さな村であれば、出所した加害者と被害者家族が目と鼻の先に住むこともありえる。宮下は、実際にそういう事態が発生した村を訪れ、死刑廃止という理想の裏でもがき苦しむ遺族たちに取材する。

フランスで起きている「新たな死刑」

「人権大国」というイメージのあるフランスだが、実は死刑を廃止したのは西ヨーロッパの中では遅く、40年ほど前までギロチンによる死刑が行なわれていた。またフランスでは死刑廃止に至った40年前も今も、死刑を支持する世論は強く存在する。それでも死刑を廃止できたのはなぜなのか。そして、廃止から40年を経て、いま注目されている「新しい死刑」とは一体何なのか。理想と現実の乖離に迫る。

死刑廃止は唯一の答えなのか

世界が死刑廃止へ向かう風潮のなか、アメリカと日本は批判にさらされてきた。しかしそれは本当に正しいことなのだろうか。宮下はアメリカ、ヨーロッパでの取材体験を元に、いよいよ日本取材に挑む。日本人にとって死刑とは一体何なのか。今後どうなっていくのか。いくつかの事件を取り上げ、死刑の意味に迫っていく。

【著者紹介:宮下洋一(ミヤシタ ヨウイチ)】

©︎新潮社

1976年長野県生まれ。幼少期から語学が好きで、高校卒業後に単身アメリカへ渡り、米ウエスト・バージニア州立大学卒。その後、渡欧してバルセロナ大学大学院で国際論修士、ジャーナリズム修士。フランス語、スペイン語、英語、ポルトガル語、カタラン語を話し、フランスとスペインを拠点としながら世界各地を取材している。著書に、講談社ノンフィクション賞を受賞した『安楽死を遂げるまで』、Yahoo!ノンフィクション本大賞にノミネートされた『安楽死を遂げた日本人』、小学館ノンフィクション大賞優秀賞の『卵子探しています 世界の不妊・生殖医療現場を訪ねて』、『ルポ 外国人ぎらい』などがある。

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