~想像の創造~ 植物園の大工さん とちぎ花センター 福島昭さん

栃木市の植物園「とちぎ花センター」では季節ごとに企画展が開かれ訪れる人に毎回異なる癒しや楽しみを提供しています。そんな企画展を影で支える立役者に密着しました。

栃木市にある植物園、とちぎ花センター。3万株の花が咲き誇る大きな花壇や日本ではめずらしい植物を展示した温室など植物の息遣いを全身で感じられる安らぎの空間です。

温室の一角にある展示室、その時期ならではの植物を紹介する企画展が開かれています。神社で手や口を清める手水舎に花を浮かべた花手水の展示や洋ランの上品な香りに着目した展示など訪れる人に植物の新たな楽しみ方を提案します。

そんな展示室内で植物と一緒に目を引くのがテーマに沿った装飾の数々。植物をより生き生きとそして魅力的に引き立てます。

そう、今回の主役は植物ではなくこの大がかりな装飾、「大道具」です。

春の足音が日に日に大きくなってきた3月下旬。この日、花センターでは5月から始まる次回の企画展に向けた会議が開かれていました。毎年行う一足早いアジサイの企画展、ことしはファッションショーがテーマです。意見が飛び交う会議室で静かにやりとりを聞いているこちらの男性、とちぎ花センターの職員福島昭さん(68)です。実は福島さん、企画展の植物を彩る大道具の大半を一人で手がけています。今回の企画展の目玉はアジサイのドレス、これをどう作るかが今後の課題になりそうです。2時間に及ぶ会議を終えた福島さん少しお疲れ気味のようです。企画展のスタートまであと42日です。

それからおよそ2週間後の4月中旬、花センターの一角にある福島さんの作業場にお邪魔しました。展示室を仕切るつい立作り、金属の切断と溶接も自ら行います。メジャーとノギスを使い材料を何度も測ります。今度はファッションショーに欠かせないステージの製作。手伝いに来た職員には作業の工程を丁寧に教えて仕事を任せます。

どうして植物園で大道具の製作という仕事をするようになったのでしょうか。以前は外部の会社に製作を任せていましたが納期とコストの問題が重なり、普段、園内の修理を担当していた福島さんに声がかかったのです。実は福島さん花センターに就職する前は、栃木市内の金型工場で1000分の1ミリ単位の製品を作っていたということで手先の器用さには定評があります。しかし、この時はまだアジサイのドレスをどうするか考えはまとまっていませんでした。目の前の課題を一つひとつクリアしていく日々、福島さんの創造は続きます。

時は少し流れ大型連休の真っ最中。春の日差しのもと花センターには多くの人が訪れました。園のにぎわいを横目に製作現場を訪ねると必要な大道具は完成間近でした。製作していたつい立とステージも白く塗られています。そして頭を悩ませていたアジサイのドレスもイメージが固まってきたようです。園内のビニールハウスには今回の主役、アジサイが準備されていました。ステージに上がるその時まで息をひそめます。

5月8日、企画展の前日。いよいよ展示室への運び込みです。朝から雨が降る中職員総出で福島さんが作った大道具を運びます。
アジサイのドレスも土台が組みあがってきました。今回の展示を企画した南有咲さん。実は、企画展が始まるのを待たずに花センターの管理と運営をする公社に異動になっていました。この日は特別に許可をもらって手伝いに来ました。南さんが思い描くアジサイのドレス、色の配置にこだわります。福島さんも発案者である南さんの存在が心強いようです。その後も、ファッションショーのステージなど職員が一丸となり準備は進みました。

そして企画展初日の日。アジサイに囲まれたランウェイを進み「アジサイコレクション」いよいよ開演です。ファッション雑誌をモチーフにしたゲートをくぐると、メルヘンなものから日本風なものなど80種類のアジサイがステージのテーマに沿って並びます。そして気になるアジサイのドレスはというと…紫、青、そして白、美しいグラデーションのドレスになりました。訪れた人の評判も上々です。大盛況のアジサイコレクション、福島さんもほっとした様子です。

イメージを形にすることへの飽くなき探求。福島さんの創造がきょうも花センターのどこかで光ります。

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