朝乃山「もう裏切らない」 決意の黒締め込みで躍動

 幕内の土俵に戻ってきた元大関が快進撃を続けている。新型コロナウイルス感染対策ガイドライン違反による出場停止から2年。朝乃山は得意の右四つを武器に、久しぶりの幕内で抜群の存在感を放つ。「もう二度と応援してくださる方を裏切らない」。どん底を味わい、こう誓う真摯(しんし)な姿に、連日大きな歓声が集まっている。

 先場所で屈辱を味わった相手を問題なく圧倒すると、会場から大きな拍手が沸き起こった。前日の琴恵光とは際どい勝負となったが、ここまでの4番では、常に攻め手の相撲を貫き、元大関の地力を存分に発揮している。

 2年前。2021年夏場所中、相撲協会の外出禁止期間に何度も飲食店に通ったことが発覚した。虚偽報告も重なって6場所出場停止の厳罰を受け、看板力士から三段目まで転落した。失意の中、同6月に祖父、8月には父靖さんも亡くなった。誰より応援してくれた家族だった。

 「何のためにこの世界に入ったのか」。自らに問い、初心に戻った。黒まわしで泥にまみれ、ちゃんこ場にも立った。復帰した22年名古屋場所から順調に番付を上げても、早朝から若い衆と四股を踏む。当時を忘れないとの戒めは黒い締め込みに込めた。師匠の高砂親方(元関脇朝赤龍)は「ずっと頑張っている。本人が一番分かっているから」と自覚を感じ取る。

 コロナ禍の苦境も「あのときの僕はどうかしていた。自業自得なんですよ」との言葉はよどみない。「再起」を期す背中は、日常を取り戻そうとしている土俵で、すがすがしく映る。

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