ツギハギ行政はもう限界! 総合的な交通政策を提言する新潮新書『交通崩壊』が発売

新潮社は5月17日、新潮新書の一冊として『交通崩壊』を刊行した。都市・交通問題をライフワークとしてきたジャーナリストによる交通政策の問題点の指摘、および交通政策の提言だ。 日本の交通政策の特徴は、「部分最適の集合」になってしまっていること。鉄道は鉄道、クルマはクルマ、歩道は歩道という形で政策が分断されてしまい、「全体最適」の視点が希薄だ。フランスでは、鉄道で二時間半以内の航空路線を禁止にする法案が通ったりしているが、日本ではこうした部門横断的な政策は採用されない。 現在、新幹線網の整備にともなって在来線のネットワークはどんどん寸断されているが、鉄道を「鉄道だけの経済性」で議論している限り、これからもネットワーク寸断・廃線の流れは止まらないだろう。ローカル線は、マーケティングによっては「インバウンドの資産」にも変わりうるものだが、地方鉄道が国土政策や観光政策の視点から論じられることはほとんどない。 「都市の路上」にも深刻な問題がある。電動キックボード、電動三輪車、電動カートなどの新しい交通手段が増え続けて、「歩道・車道のカオス化」がすさまじくなっている。また、コロナ禍で注目が集まった自転車が、事実上「路上の鬼っ子」になっているという現状もある。都心部の自転車道は、ほぼ幹線道路のはじに申し訳程度に表示された矢羽根部分のみ。道路交通法上、自転車は子どもを乗せているなどの事情がなければ歩道走行できないことになっているが、自転車道が未整備の現状では歩道走行も野放しになっており、本来なら取り締まる側のお巡りさん自身が自転車で歩道を走っている光景もよく見かける。 本書では、鉄道ネットワークの寸断、路面電車の導入が進まない現状、CASE時代の自動車の再定義の必要性、「歩道のカオス化」など、日本の交通政策の現状をトータルに概観し、「総合的な交通政策」の必要性を提言している。交通政策や都市政策に興味を持つ方、鉄道ファンなどには、強くお勧めできる本だ。

【書籍内容紹介】

日本の交通行政は「部分最適」の集合体である。新幹線の延伸によって寸断される在来線のネットワーク。欧州で復活続くも日本では広まらない路面電車。自転車に加え電動キックボードも乗り上げカオス化が進む歩道。権限を警察が握り、「まちづくり」の観点での施策が進まない道路行政……。そろそろ全体最適を意識した総合的な交通政策を構想すべきではないか。都市・交通問題に精通したジャーナリストによる提言。

【著者紹介】

一九六〇年埼玉県生まれ。都市・交通ジャーナリスト。一般社団法人立飛総合研究所理事。八四年に早稲田大学を卒業し日本経済新聞社に入社(二〇一八年退職)。埼玉大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。主な著書に『交通まちづくりの時代』などがある。

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