60歳年上妻、夫の扶養内でパート勤務「年金の手続きは必要ですか?」

会社員など厚生年金に加入している夫に扶養されている妻は、国民年金の第3号被保険者に該当するため、国民年金保険料を納める必要はありません。ただし、国民年金の加入が義務付けられているのは60歳になるまで。では、60歳になったらどうしたら良いのでしょうか。


60歳になると第3号被保険者の資格を喪失する

結論から述べると、60歳の誕生日の前日で国民年金の加入資格は無くなるため、特別な手続きは必要ありません。60歳前に扶養を外れて第3号被保険者でなくなった場合は、第1号被保険者への変更届が必要になりますから、手続きが必要と思うのも当然かもしれません。

ご質問をいただいたのは小規模な会社でパート勤務をしているAさん(60歳)になります。Aさんは、前述の通り、すでに国民年金の加入者ではありません。年金の納付状況を確認いただくと20歳からの2年半が未納状態であることが判明しました。というのもAさんが大学生の頃は国民年金の加入は任意であり、加入していませんでした。

具体的に加入義務が生じるようになったのが昭和61年(1986年)4月になってからです。国民年金への加入が任意だった期間を、合算対象期間、いわゆる「カラ期間」と言い、年金の受給資格期間にはカウントされますが、老後受け取る年金額には反映されません。老後に受け取る国民年金のことを老齢基礎年金と言いますが、満額で年額78万円ほどになります。Aさんのねんきん定期便に書かれている受給見込額は満額より5万円ほど少ない73万円ほどです。

60歳以降は国民年金の任意加入で満額に近づけることができる

Aさんに今の状況をお伝えしたところ「年金額をなるべく増やしたい」とのことでした。そこでお伝えしたのが国民年金の「任意加入制度」についてです。未納分がある、つまり、40年の納付済期間がない場合は60歳以降でも国民年金に任意で加入することができるのです。加入するには原則として次に挙げる条件があります。

・国内に住所があり60歳以上65歳未満であること

・老齢基礎年金の繰上げ支給を受けていない

・20歳以上60歳未満までの納付月数が480月未満である

・厚生年金などに加入していない

これら4つの条件を満たす必要があります。Aさんは4つの条件を満たしており、かつ、30月(2年半)任意加入することで満額78万円ほどを受給できることがわかり安堵されました。任意加入の手続きは申出をした月からの加入となり、遡っての加入はできないため、早めの手続きが得策です。

なお、付け加えておくとAさんが今後厚生年金に加入する可能性があれば、厚生年金の経過加算が増えることで老齢基礎年金の満額受給と同様の効果が見込めます。Aさんに確認したところ、現在のパート先に満足しており、今後、職場を変える予定はないとのことでしたので詳細についてはここでは割愛いたします。

任意加入する時に押さえておきたい2つのポイント

任意加入する時に押さえておきたいポイントが2つあります。家計全体で節税できたり、さらに年金額を増やしたりできる可能性があるからです。

・所得が高い夫の社会保険料控除で節税を

国民年金保険料を納めて、年末調整の申告書で申請を行うと税金が還付されます。例えば、Aさんの年収は130万円以下で所得税率は5%、所得税額は1万1,000円ほどです。仮に1年分の保険料19万8,240円(令和5年度の月額16,520円の12ヶ月分)を支払った場合、税金の還付は9,912円(19万8,240円x5%)になります。

いっぽうで、Aさんの夫が保険料を支払った場合、所得税率23%で算出すると、税金の還付は4万5,595円(19万8,240円x23%)です。所得の高い夫が保険料を納めることで節税メリットを大きくすることができます。また、国民年金保険料をまとめて納め割引になる前納制度を合わせて利用することで、更にお得になるので検討されるとよろしいでしょう。

・老齢基礎年金の上乗せ「付加年金制度」で年金額を増やす

付加年金制度とは、任意加入時の保険料に上乗せして月額400円の付加保険料支払い、老齢基礎年金額を増やす制度です。受け取る付加年金額は、年額で「200円x付加保険料を納めた月数」になります。ちなみにAさんが加入できるのは最大30月で、付加年金額は6,000円(200円x30月)です。僅かな金額ではありますが、付加年金額を2年以上受け取ると元は取れますから、増やせることは何でも検討された方が良いでしょう。ただし、iDeCoをしている場合は注意が必要です。なぜなら、付加年金制度を利用する場合、iDeCoとの併用は可能ですが、iDeCoの拠出限度額から付加保険料を差し引くことになります。また、iDeCoの掛金月額は千円単位ですから、上限まで拠出している場合は掛金を1,000円減額する必要があるので、どちらが良いか検討が必要です。

年上妻は振替加算の申告を

最後になりますが、夫婦で一定の条件を満たす場合、妻の老齢基礎年金に「振替加算」が支給される可能性があります。ただし、妻の生年月日が昭和41年(1966年)4月1日までに生まれた人に限定されます。Aさんは、昭和38年生まれで、その他の条件を満たすので振替加算を年額1万5,323円(令和5年度)受け取れます。その際、年上妻の場合、自身で申告する必要があります。具体的には夫が65歳になった時点で手続きを行います。申請しないと受け取れませんので留意しておきましょう。

以上、扶養妻が60歳になった時点で扶養を抜ける手続きは不要ですが、国民年金の納付状況を確認して適切に対応することをお勧めします。

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