地球の携帯電話基地局からの電波漏れは最大40億W 地球外文明は受信できる?

生命が誕生し、進化した知的生命体が文明を発展させていることが確認されている天体は、今のところ地球だけです。この宇宙には、私たち以外にも文明を発展させた生命体は存在するのでしょうか?

地球外文明を見つける手段の1つとして使われているのは「電波」です。私たちが現代社会で使用しているように、地球外文明も電波による無線通信を積極的に用いている可能性は十分にあります。そのため、宇宙からやってくる電波に自然由来ではない信号が含まれていないかを探る「SETI (地球外知的生命体探査)」というプロジェクトもありますが、これまでに地球外文明のものだと特定された電波は見つかっていません。

ただし、仮に電波を取り扱えるほど技術の進んだ地球外文明が存在したとしても、その文明由来の電波を捉えられるかどうかは別の問題です。地球外文明の電波を探索するプロジェクトが焦点としているのは、狭い範囲に強力な電波を送信するタイプの信号であり、これは自分たちの星の外へと意図的に電波を送る行為であることを意味します。他の知的生命体に向けて信号を送るこのような「アクティブSETI」は私たち自身も断続的にしか行っていないため、他の文明も行っているという保証はありません。

その一方で、強い電波を積極的に送信していなくても、人類が放送や通信のために送信している電波は宇宙空間へと漏れています。このような電波の漏れはアクティブSETIと比べて非常に微弱であるため、太陽系から数光年以内のかなり近い場所でなければ、ノイズと区別して捉えることはできないと考えられます。

では、“漏れていく電波”には主にどのような電波が含まれているのでしょうか?この疑問を最初に検討した1978年の研究では、主に軍用レーダーとテレビ放送の電波だとされていました。

それから半世紀近くが経った現在では、電波の使用状況は様変わりしています。ケーブルテレビとインターネットの発達によって、テレビ放送用の電波は以前ほどには送信されなくなりました。代わりに増大したのは、1990年代から世界的に普及した携帯電話の基地局からの電波です。

現時点でも最も強力な電波の漏洩源は半世紀前から変わらず軍用レーダーですが、他の電波源の変化がもたらす影響を検討した研究はありませんでした。私たちが調査できるのは今のところ私たち自身の文明のみであるため、「地球外文明が地球を観測した」と仮定して想像することしかできませんが、電波天文学で重要な波長である21cm線 (※) に近い電波を放射する携帯電話基地局から漏れた電波は、地球外文明が偶然捉えてもおかしくありません。

※…21cm線: 水素分子のエネルギー状態が変化した時に放出される電波。星雲や銀河の分布・構造を調べたり、ドップラー効果による波長の変化を利用して天体までの距離を測定したりするために観測される、宇宙を知るために重要な波長の電波の1つである。水素は宇宙に広く分布し豊富に存在するため、地球外文明もこの波長で天文学的観測を行うことは十分に考えられる。

【▲ 図1: 携帯電話基地局は通信効率をよくするために、水平方向へと電波を放出している。この様子を宇宙から見れば、基地局から水平方向の延長線上にある星に向かって電波が照射されていることになる。このような性質があるため、基地局からの電波強度は地球外の観測者から見て基地局が現れた直後か沈む直前に最も強くなるため、電波強度は地球の自転にともなって変化する(Credit: Ramiro C. Saide, et.al.)】

モーリシャス大学のRamiro C. Saide氏などの研究チームは、基地局の地理的分布と分布密度を考慮した上で、携帯電話基地局からの電波漏洩の強さを検討しました。

携帯電話基地局からは水平方向に電波が送信されているため、電波は基地局から見て水平線の方向に強く漏れることになります。個々の基地局の電波強度は、基地局同士の距離が遠く、密度がまばらなほど強くなります。一方で、全体の電波強度は基地局の密度が高いほど強くなるはずです。

基地局の電波強度と漏洩の度合いを1か所ずつ検討するのは余りにも時間がかかりすぎるため、研究では地球の表面をいくつかの格子に分けて、その中の基地局の密度を元に計算することで、必要な手間を減らしました。その結果、世界全体でも携帯電話基地局からの電波漏れの出力が特に高い地域は、西ヨーロッパ、東アジア(特に日本と中国沿岸部)、北アメリカ西部であると推定されました。

ただし、電波の出力には地域差があるため、地球の自転にともなって見える面が変化することで、基地局から漏れていく電波の強度も変化します。また、地球の北半球側と南半球側のどちらを観ているのかも、観測される電波の強度を左右するはずです。

【▲ 図2: HD 95735で観測されると推定される地球の電波の強さの変化。中国東部の沿岸地域が地球の表側に来るタイミング (China East Coast rises) で最も強い電波のピークを迎えていることが分かる(Credit: Ramiro C. Saide, et.al.)】

そこで、研究チームは地球を観測する観測者の位置について、北半球側を観測する「ケンタウルス座α星A」 (地球からの距離は約4.3光年) 、南半球側を観測する「HD 95735」 (同・約8.3光年) 、そして赤道方向を観測する「バーナード星」 (同・約6.0光年) を選び、地球からの電波漏れの出力規模を計算しました。

その結果、観測される電波の強度が最も高いのはHD 95735で、最大約40億W(4GW)であると推定されました。地球の南半球側にあるHD 95735からは基地局の多い北半球を水平方向から観測することになるため、このような結果となります。ただし、この出力レベルは数光年先から観測するには弱すぎるため、仮に地球外文明が私たちと同等の技術レベルしか有していない場合、地球から漏洩した携帯電話基地局の電波を観測することはできないと推定されます。

ただし、半世紀で電波の送信源が様変わりしたように、今後の変化も考慮する必要があります。携帯電話の需要はこの先も増え続けると予測されているため、基地局から送信される電波も増えるでしょう。今後は地球から漏れた電波を数光年先で観測するのに十分な強度になる可能性があります。

また、今回の研究ではアフリカ地域からの電波の放出がかなり多いことや、1978年の研究と比べて地域的な偏りが少なくなっていることが分かりました。特に地域的な偏りについては、衛星通信が発達して基地局が地上から上空にシフトする将来において、ますます少なくなる可能性があります。

今回の結果は、仮に地球外文明に由来すると思われる電波を受信した際に、文明のレベルや地域差まで知る手がかりが得られる可能性も示したことになります。

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文/彩恵りり

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