プロライダーに転向を決断した亀井雄大。YOSHIMURA SUZUKI RIDEWIN移籍での実感と初勝利に向けて

 2023年シーズンの全日本ロードレース選手権で、最高峰JSB1000クラスは24台が年間エントリーしているが、そのなかでも誰も予測できず、衝撃的だったのは亀井雄大のYOSHIMURA SUZUKI RIDEWINへの電撃移籍だろう。

 亀井は、JSB1000クラス参戦5年目を迎える27歳のライダーだ。2022年までは本田技研鈴鹿製作所に勤めながら、『鈴レー』でもお馴染みのHonda Suzuka Racing TeamよりホンダCBR1000RR-Rを駆って、JSB1000クラスを戦っていた。プライベーターながらもポールポジションや表彰台を獲得するなど度々の活躍を見せていた。

 ところが、2023年からは本田技研を退職してYOSHIMURA SUZUKI RIDEWINに移籍。プライベーターからプロライダーへと転向することを決めた。遡ること昨年の12月、加賀山就臣監督から亀井に移籍を持ちかける連絡が届くが、ふたつ返事で「はい」とは言えなかったという。

加賀山就臣監督と亀井雄大(YOSHIMURA SUZUKI RIDEWIN)/2023全日本ロード第1戦もてぎ JSB1000

「さすがに結婚したばかりだし、本田技研を辞めてプロライダーという響きはいいですけど、レーサーというのは継続性がなくていつクビになるかわからない危ない仕事ですよね」と語った。

 チームの進め方や普段のレース以外での働き方など、不安や迷いなど様々な心情を抱えていた亀井。しかし、その旨を加賀山監督に相談したところ、チームと加賀山監督が亀井の不安と取り除ける様に早々に対応し、迷いなく決断できるように全面協力があったという。

 さらにHonda Suzuka Racing Team側でも部長後任や移籍に際しての問題をクリアし、両チームからの配慮と後押しもあって、最後は迷いなく決断できたそうだ。

「今年で27歳になったのですが、何かするならラストチャンスの年齢なのかなと、チャレンジしたいなと思いました。全部投げ出して頑張ったことがなく、せっかく話を頂いたので、年齢的にラストチャンスというので決めました」と亀井。

亀井雄大(YOSHIMURA SUZUKI RIDEWIN)/2023全日本ロード第1戦もてぎ JSB1000

 プロライダーとして戦っていくと決心した亀井は、チームや監督のサポートを受けながら、今シーズンはJSB1000クラスを戦っているが、もちろんプレッシャーも抱えているようだ。

「結構いろいろな方々からサポートや、応援をして頂く数も鈴レー時代よりも増えました。ヨシムラが好きで、チームについて頂いている企業さんも倍以上増えたので、そこはすごくプレッシャーに感じるし、潰されそうになりますけど、心地良いプレッシャーです」

 そんな『心地良いプレッシャー』を抱えながら、開幕戦と第2戦鈴鹿の4レースを戦った亀井は、「毎戦手が震えて好きなパスタが喉通らないほどの食欲不信になるほどの緊張も感じている」と続けていた。

亀井雄大(YOSHIMURA SUZUKI RIDEWIN)/2023全日本ロード第1戦もてぎ JSB1000

 そんな亀井は、スズキGSX-R1000Rで自身初の実践レースとなった第1戦もてぎでセカンドベストタイムで1分48秒650をマークして3番手を獲得。しかし、初めての新燃料の導入や、慣れていないマシンということもあってレース1は8位、レース2では12位と少々苦戦気味のデビュー戦となった。

 第2戦鈴鹿では8耐トライアウトも実施され、スポット参戦が多いことを考慮して従来のハイオクガソリンの使用も認められており、亀井はハイオクガソリンを使用。さらに自分に合わせたセッティングに一から組み直して挑み、ベストラップで2分06秒566で7番手、セカンドラップタイムでは8番手を獲得した。

 レース1、2ともに11位で終え、「60点で合格点。赤点ではないかなという感じです」と振り返った。開幕から2戦で異なる燃料を試したことで、亀井はマシンの新たな発見やGSX-R1000Rのマシンのポテンシャルの高さや驚きを実感することが多くあったという。

亀井雄大(YOSHIMURA SUZUKI RIDEWIN)/2023全日本ロード第2戦鈴鹿2&4 JSB1000

「プライベーターと違っていじれる箇所がたくさんあり、細かい要望と細かいアジャストができるのでこの先の伸び代はあると思います。同じくらいのデータで1周だと、100通りの中からひとつ選ぶみたいに、1000通りくらいとか変幻自在にいじれるので、良いと思います」

「逆に自分がこういうバイクに乗りたいというのを人に伝えるのが上手きません。乗る時間も少ないので、自分がこうしたいと言っている事が上手く伝わっていないのか、はたまたGSX-R1000Rだとそれができないのか……」

 今までホンダでの経験が長かったため、スズキのマシン経験が少ないからこその悩みだ。また、今年からJSB1000クラスでは新燃料のカーボンニュートラル・フューエルが導入されたため、亀井にとって新マシンに加えて頭を抱えさせる問題となっているのだろう。

亀井雄大(YOSHIMURA SUZUKI RIDEWIN)/2023全日本ロード第2戦鈴鹿2&4 JSB1000

「開幕戦に限っては燃料も違うから、燃料のせいでできないのか、開幕戦は事前テストのタイムを越せないという最悪なスパイラルに陥ってしまいました」

 ここまでの2戦はマシンの理解度を深めたり、セッティングの幅など様々なことを探っている段階と印象を受けるが、亀井は「自分的にはスズキの方が合ってるのかなと思います」と語った。

「クセがなくて旋回も性能も良いですが、荷重というか、バイクの特性でどっちに重心が行ってるかで使うタイヤが変わってくるのに、上手く今回は合わせられませんでした。ホンダだったらこうだというのが当てはまらないです」

 亀井は、スズキGSX-R1000Rの乗りやすさと扱いやすさを感じつつも、現時点ではまだ少しマシンに翻弄されているようだが、勝利への鍵は掴んでいるという。「リヤタイヤのグリップ」の改善と、さらに自身がマシンの認知度を深めていくことが重要だと語った。

亀井雄大(YOSHIMURA SUZUKI RIDEWIN)/2023全日本ロード第2戦鈴鹿2&4 JSB1000

「まだGSX-R1000Rを3〜4割くらいしか知れていないので、コツコツそれをひとつずつ潰せていけると、後半戦はトップ争いに絡めるのかなと思っています。少しずつ進んで、どこかで一気に進む場所があると思うので、そこに到達できれば次戦のSUGOでも絡めるのかなと思っています」

 プロライダーとして生きていく道を決断した亀井は、プライベーターの頃とは意識の変化や、苦悩も多くあるなかで、様々な思いやプレッシャーを感じながら戦っている。しかし、手探りで着実に一歩ずつ前進させていき、スズキのヨシムラ色に染まった姿で、活躍を見せてくれるだろう。

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