羽生結弦 プロ引退直前の“最愛スケーター”と最後の共演 幼い心に衝撃受けた過去

(写真:AP/アフロ)

「今度のショーが、ジョニー・ウィアーとの“最後の共演”になるでしょう。羽生さんにとって、小学生のころから憧れてきたスケーターだけあって、特別な感慨を持って臨むのは間違いないと思います」(スポーツライター)

5月26日から全国4カ所を巡るアイスショー『ファンタジー・オン・アイス』に出演する羽生結弦(28)。国内外のトップスケーターが集結し、羽生も毎年の常連であるこのショー。同じく常連で今回も参加するのがアメリカ人スケーター、ジョニー・ウィアー(38)だ。

「羽生さんには昔から憧れとして名前を挙げ続けてきたスケーターが2人います。1人はトリノ五輪の金メダリストであるロシアのエフゲニー・プルシェンコ(40)。もう1人が、ジョニー・ウィアーです」(前出・スポーツライター)

’13年に競技を引退したウィアーは、以降プロとしてショーなどで活躍してきたが、今年でプロとしても完全引退するという。

「もともとは数年前から、’22年でのプロ引退を公言していましたが、コロナ禍の影響で今年まで延期したようです。引退後は、アメリカ国内でスケートアカデミーを設立する予定だといいます」(前出・スポーツライター)

ウィアーは現役時代、トップ選手の1人ではあったものの、プルシェンコに比べれば、その戦績はやや見劣りする(’06年トリノ五輪では5位、’10年バンクーバー五輪では6位)。それでも、羽生がウィアーに引かれた理由を、フィギュアスケート評論家の佐野稔さんはこう分析する。

「表現力の繊細さでしょう。ジョニー・ウィアーは、フィギュアスケートの“美しさ”を魅せてくれるスケーターです。それが羽生くんとの共通点でもあると思います」

羽生自身、’12年に出版した自叙伝『蒼い炎』でウィアーをこんな言葉で絶賛している。

《流れるようなスケーティングや、やわらかい表現がずっと好きで憧れていたジョニー》
《最近のジョニーはアスリートというより、完全に芸術家。(中略)ジョニーにはジョニーだけの世界があって、それを彼は完全に極めているんです》

羽生は’18年のショートプログラムで『秋によせて』という曲を使ったことがあるが、これはかつてウィアーが使用していた曲で、リスペクトを込めた選曲だった。

ウィアーがこのプログラムを演じていた時期、羽生は小学生だったが、幼い心に受けた衝撃をのちに次のように明かしている。

《僕のスケート人生の中では非常に印象に残っているプログラムの一つです。衝撃的だったのは、男性だからこそ出せる中性的な美しさ。それが彼の一番の魅力だなと思いましたし、ジャンプを降りたあとの流れだったり、姿勢の美しさだったり。音に合わせて一つ一つの丁寧さとか、自分もこういう風に跳びたい、滑りたいなと思った記憶があります》(’23年出版『蒼い炎III』より)

■10年後には、羽生もウィアー引退と同じ年齢に

2人が初めて対面し、共演したのは’08年のアイスショー。羽生は中学生になっていた。

「羽生さんは、初めて大好きなウィアーの演技を生で見ることができて感激したそうです。その後、羽生さんが選手として頭角を現すにつれて、ショーでの共演なども回数を重ね、2人の交流も生まれるようになりました。共演するショーの練習中には、ウィアーに演技を見てもらい助言してもらったこともあったようです」(前出・スポーツライター)

ウィアーも、自分を慕う羽生をかわいがってきた。

「羽生さんのことを『ユヅクン』と呼んでいるみたいです。彼は衣装デザイナーとしての顔も持つため、羽生さんのコスチュームをデザインしたことも。ソチ五輪のフリー『ロミオとジュリエット』の衣装も彼がデザインしたものでした」(フィギュア関係者)

ウィアーは震災のあとや五輪のときなど、たびたびSNSなどで︎羽生へ励ましや称賛の言葉を送り、昨年7月、羽生がプロ転向を発表した際にもエールを投稿。

今回の共演は、羽生のプロ転向以来初めてで、プロスケーター同士として向き合う最初で最後のショーになる。佐野さんは、ウィアーの気持ちをこう推察する。

「ウィアーが今回のショーに出るのを決めたのには、最後に一度、プロになった羽生くんと一緒に滑りたいという気持ちもあったんじゃないかと想像します」

最後の共演で、羽生の胸に去来するものとはーー。

「羽生さんは、この5月に『徹子の部屋』(テレビ朝日系)の特番に出演。その際、“10年後も現役のプロスケーターとして活躍したい”という思いを明かしています。10年後は38歳。いまのウィアーさんの年齢です。追いかけ続けた人であるだけに、引退目前のその姿は、羽生さんがキャリアを考えるうえでの指標にもなるでしょう」(前出・フィギュア関係者)

佐野さんによると、

「個人差はありますが、38歳にもなると、体力が落ちているのを感じるところはあるかもしれません。40歳前後でキャリアを終えるプロスケーターは少なくありません。ただ、羽生結弦という人はちょっと別格ですから、前例にあてはめることはできませんが……」

前出のスポーツライターは、羽生が「プロとしての姿勢も影響を受けていると感じる」とも話す。

「ウィアーはユニークなスケーターで、ショーでの選曲や衣装も奇抜。見る人を驚かせることが多いんです。観客を感動させたいという精神にあふれた人です。羽生さんが、東京ドーム単独公演など世間が驚くようなことを成し遂げていることと通じるものがあります」(前出・スポーツライター)

最愛のスケーターと、感謝とリスペクトを込めた涙の“ラストダンス”を舞う日はもうすぐ。その姿を目に焼き付けて、羽生はさらに高みを目指すに違いない。

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