「ハロー・ゴースト」 幽霊の引き起こす騒ぎと謎解きに笑って泣いて。韓国映画のリメイク 【インドネシア映画倶楽部】第54回

Hello Ghost

自殺志願の青年が、4人の幽霊に振り回されるうちに孤独感を忘れていき……韓国映画のインドネシア版リメイク。笑って泣ける完成度の高いコメディ映画で、インドネシアらしさも楽しめる。

文と写真・横山裕一

2010年韓国作品で日本でも2012年に公開された、同タイトル映画のインドネシア・リメイク版。オリジナル版では「猟奇的な彼女」の主役で日本でも有名なチャ・テヒョンが主役だが、インドネシア版では元人気バンド(Lyon、Killing Me Inside)のボーカリストで俳優でもあるオナディオ・レオナルドが主役を演じる。

物語の主人公は天涯孤独な青年クリスナで、寂しさが高じて自殺を何度も試みるが失敗を繰り返し、挙句の果てには病院へ運び込まれる。さらにクリスナは入院先の病室で、妙な4人の幽霊に付きまとわれてしまう。幽霊は女性好きな老人男性と常にタバコを吸い続ける中年男性、それにハンカチを片手に泣き続ける女性と大量のお菓子を食べる女の子だった。4人の幽霊に振り回されてうんざりするクリスナは幽霊たちがこの世に残した未練を取り除くことで成仏してもらおうと、4人の望みを叶えるべく奔走するが……。

幽霊たちは時にクリスナの身体に乗り移って行動するためクリスナは辟易とするが、いつしか自殺するほど耐えきれなかった孤独感を忘れていて、これが本作品のテーマのひとつであり、謎解きの布石でもある。また入院先の病院で知り合った看護士が偶然にもクリスナと同じ集合団地に住んでいて、幽霊たちの引き起こす騒ぎが幸いにもクリスナと看護士の仲をとりもつきっかけにもなっている。

ストーリーはほぼ韓国オリジナルに忠実だが、各所にインドネシアならではの設定やアイテムが使用されている。タバコが好きな中年男性の幽霊はオリジナル版では生前タクシードライバーだったが、インドネシア版ではアンコット(ワンボックスカーの乗り合いミニバス)運転手の設定だ。中年男性幽霊の望みでアンコット車両を借りてクリスナは海まで同行するが、実社会でも時に目にするアンコット運転手が車両を借りて家族を乗せレバラン帰省する光景を思い起こさせる。

韓国オリジナル版と比べると、前半の観客の掴みとなる幽霊達が引き起こすドタバタの笑いのシーンは若干大人しく上品に描かれているようにも見受けられる。おそらくドタバタシーンで韓国版で用いられている飲酒や泥酔、怒りで怒鳴りつけるシーンがインドネシア版では採用されていないためかと思われるが、それがなくても十分に笑うことができ、インドネシア文化に即した作り替えが成功しているようだ。オリジナルよりもシンプルな設定に作り替えられ、韓国版より観やすくなっている部分もある。さらに終盤では韓流映画特有でもある謎解きも用意されていて涙を誘う。

本作品をより魅力的にしているのが、「ワルコップ」シリーズでも有名な喜劇俳優、インドロ・ワルコップ(老人男性幽霊役)とトラ・スディロ(中年男性幽霊役)の2人で、アクが強く愉快な演技の2人が脇を固めて登場しているだけでインドネシアくさい作品に仕上がってしまうのは興味深いところであり、彼らの面目躍如といったところでもある。

韓国オリジナルのリメイク映画作品は本稿でもすでに4作目の紹介に及ぶようにインドネシア映画界でも韓国映画のリメイクは既におなじみで、この背景にインドネシアでも韓流映画、ドラマ人気が根強く浸透していることが窺われる。動画配信ネットサイトであるNetflixでもインドネシア版では圧倒的に日本作品より韓国作品が数多くラインナップされていることも裏付けている。日本人にとっては若干寂しいことではあるが。

純粋に楽しく笑えて、ホロっと泣ける完成度の高いコメディ映画であり、これを機に韓国発のインドネシアくさい本作品を楽しんでいただきたい。(英語字幕あり)

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