埼玉スタクリテリウム開催へ 自転車とサッカースタジアムがコラボ 別府史之氏、川島永嗣氏が語る期待

2012年のリエージュ~バストーニュ~リエージュにて、別府史之氏(左)と川島永嗣選手

 サッカーの聖地、埼玉スタジアム2002で5月20日に開催される「埼玉スタジアムクリテリウム2023」は、自転車競技とサッカースタジアムのコラボレーションとなる。埼玉県出身のプロサッカー選手として埼玉スタジアムに並々ならぬ思い入れを持つ川島永嗣選手と、川島選手が敬愛し、日本人初のUCIプロツアー(現ワールドツアー)選手となった別府史之氏が、今回のイベントに対する思いや期待を語り合った。(文中敬称略)

■着工から完成まで

―今回のイベントについてどんな感想をお持ちですか。

 川島 僕は埼玉スタジアムのすぐ近くの浦和東高校出身で、2002年ワールドカップに向けて建設が始まって完成するまでを校舎の窓から見ていました。だからスタジアムへの思いは青春時代と重なるし、日本代表も含めてJリーグ時代までサッカーの思い出が詰まっているんです。  ヨーロッパで根強い人気のロードレースというスポーツがサッカーとコラボする大会が日本で実現し、地域を活性化し、人々に感動を与えるのは素晴らしいと思います。

―このイベントでは浦和レッズの試合のパブリックビューイングも行われます。

 川島 そうなんですか。素晴らしいですね。

 別府 ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム*1には自分も出場経験がありますが、それとは違う埼玉スタジアムで、浦和レッズの試合のパブリックビューイングも行われ、サッカーと自転車の見事なコラボになっていると思います。ロードレースは公道を走りますが、スタジアムの中で安全に観戦しやすいレースが行われるのは良いことです。選手たちとの距離が近く、走る時に巻き起こる風や呼吸、掛け声を間近に感じられるのも魅力ですね。

―レース前のオープンな感じもサッカーと違います。

 別府 川島選手と出会ったのはリエージュ~バストーニュ~リエージュと言われる1892年から続く最古参のレース。歴史があるから自転車競技が文化としてなじんでいるし、選手たちとの距離感に現れているのでは。

―自転車レースはヨーロッパでどれくらい人気があるのでしょう。

 別府 ツール・ド・フランスは190カ国以上でテレビ放送され、35億人の視聴者がいます。フランス国内で自転車は日本と同様に移動ツールですが、自転車で楽しむアクティビティーは日本より多いですね。レジャーや大きな都市などでは至るところにレンタルサイクルが設置されていて家族で楽しめるし、健康を意識する人はランニングより自転車。自転車で走ると自分が住む街がもっと好きになりますね。  自転車レースは、競技者や観客だけが楽しむイベントではなく、地域の企業さんや、住民の協力によって成り立っています。町おこし的なお祭り感覚で行われるので地域密着の文化として根付いています。   ■レース風景は日常

―サッカーの地域リーグのようなレースもありますか。

 別府 もちろんあります。先週末も我が家の目の前でハンディキャップの世界大会が行われました。これは自分も知らなかった(笑)。自転車を軸にしたまちづくり、人づくりに取り組んでいるところは多いです。

 川島 こっちでは天気が良ければロードレースのように走っている人がたくさんいます。それが日常という感じ。ベルギーに最初行った時に驚いたんですが、日曜日はお店が休みで、やることないんですよ。チームメートに聞くと家族でゆっくり過ごしたり、自転車に乗りに行ったり。こっちではそれが普通ですね。

―川島選手は普段けっこう乗られるんですか。

 川島 別府さんに教えてもらってロードレーサーを買ってからは、1時間乗るだけで良いエクササイズになるので休みの日に乗ったり、子どもと一緒に乗ったりしてかなり活用していますね。

―自転車に対する市民の熱量はどんな感じでしょう。

 別府 普段から自転車レースを追ってなくても、街でレースがあれば面白そうだからと行く。大きなレースはレース前にキャラバンが来て応援グッズが配られる。箱根駅伝で皆さん、新聞社の旗を振って応援しますよね。あんな感じで盛り上がります。

―トップ選手の認知度は。

 別府 フランスで自転車選手のステータスはすごく高いんです。大衆紙に連日、自転車選手が載ったり、文化レベルが違いますね。

 川島 サッカー選手の間でもよく自転車選手の話題が出ますよ。

 別府 レキップ紙(フランスのスポーツ新聞)も時々、1面に自転車の記事が載ります。地域から自転車選手が出ると語り継がれる。選手がリスペクトされていますね。

―別府さんがお住まいのフランスでは草レースと言うかジュニアのレースもお宅の近くで開催されるんですか。

 別府 もちろん。大きな街にはクラブチームがあり、ジュニアのチームを持っています。今年7月にはジュニアのワールドカップ的なレースもあるし、草レースも頻繁に行われています。加えてUCIで定められたレースは規模も大きくなり、フランス国内だけでなく、ヨーロッパを中心に世界中でジュニア(U19)やアンダー23(U23)、プロといったカテゴリーのレースが頻繁に行われています。

■街の裏もリアルに

―川島選手も身近なレースを見に行かれますか。

 川島 身近なレースはベルギーが多かったかな。テレビでもよくやっていました。報道を見てもロードレースに対する関心はかなり高いしレースは常に取り上げられます。こちらではサッカーのイメージが強いけど自転車のニュースが先に来ることも…。

 別府 いや、フランス人が活躍しないと1面で取り上げてくれないんですよ(笑)。

 川島 でもそのくらいのレベルですね。僕も日本にいた時はあまり(レースを)見る機会もなかったけど、こっちではチームメートやスタッフがロードレースをやってて、この前は山に走りに行ったと話したりしています。

―日常が自転車の話題と切り離せない感じですね。

 川島 そうですね。自転車で長い距離を走ると見える景色も違いますよね。先日2時間くらい、遠い町まで行き、通ったことのない所を帰ってきたんですが、車で通る時の景色と全然違うんですね。

 別府 そうですね。自転車競技もそうですが自分が普段は走らない場所、街の裏の裏までリアルに見て楽しめる。地元の人しか知らないような場所にも行けるし、いろんな可能性があると思います。

 川島 (スペインの)マヨルカに行った時は、みんな山を自転車で登っててすごかったですよ。なんでこんなに追い込むのかなと。

 別府 マヨルカは「サイクリングアイランド」とも呼ばれ、サイクリストにも愛されています。

 私もトレーニングキャンプで何度も行ったことはありますが、ロケーションも良く海や山もあり、日本の方には想像しにくいけど、一日中サイクリングを楽しむピクニック感覚で自転車を活用する人も多いです。

 川島 後ろに自転車を積んでる車をよく見かけるよね。

 別府 そうそう。最近驚いたのはコロナの後で、自転車を使ったアクティビティーを促そうとフランス政府がE-バイクに補助金を出しているんです。平らな河川沿いをたくさんの方がE-バイクで走っているのを先日見ましたが、それが今のフランスのムーブメントなのかな。選手をやめてから、山も楽に登れるE-バイクのアクティビティーもいいなと思い始めました。

■実際に見て感じて

―今回のイベントを通して初めて自転車レースに触れる方も多いと思います。お二人から日本の方々にメッセージをお願いできますか。

 川島 僕も日本にいた時は自転車の魅力を知る機会がなかったのですが、ヨーロッパに来て実際レースを見たり生活したりする中でロードレースの魅力を感じられるようになりました。埼玉はサッカーのまちですが、今回のイベントを通して自転車のまちも根付いてくれれば。サッカーとは違った魅力、間近で見られる臨場感や選手の呼吸を感じられるレースだし、それを感じることが刺激になり、日常の中でロードレースを楽しめる。そんなきっかけが増えればいいし、それが文化になればうれしいですね。

 別府 サッカーだけでなくスポーツが盛んな埼玉でいろんな国際大会が行われ、スポーツが楽しめることは本当に素晴らしい。今回のイベントでは普段は触れないものを目で見て感じてもらうことが一番。実際に自分の目で見て確かめて、埼玉スタジアムを自転車やサッカーで共有してもらえれば良いですね。

 川島 (今度のレースは)何キロ走るんですか。

―1周1キロを30周するので30キロですね。非常に短くてスピーディーなレースになります。

 川島 それじゃ僕、引退したら出場を目指します。

―今回が第1回ですが、これから長く、この大会を守っていき、胸を張ってお二人をお招きできるような良い大会にしたいと思います。ぜひ遊びに来ていただければ。

 川島 別府選手と一緒には出られないけど(笑)。

 別府 でもまだ川島選手と一緒に自転車に乗ったことないんですよ。自転車を買わせちゃったのに。いつか一緒に乗りに行きましょう。

 川島 いやいやいや。ゆっくりならいいけど。

 別府 いまなら大丈夫です(笑)。

 川島 じゃトレーニングしておきます(笑)。

 別府 実現を楽しみにしています。

―ぜひ、お二人で走ってください。本日はありがとうございました。

■別府史之氏(べっぷ・ふみゆき)

 神奈川県茅ケ崎市出身、40歳。2008年北京オリンピック、12年ロンドンオリンピック日本代表。高校卒業後に渡仏、05年に日本人として初のUCIプロツアー(現ワールドツアー)選手に。モニュメント、グランツール、世界選手権、オリンピックの世界10大レースを完走。21年シーズンでの引退を表明した。

■川島永嗣氏(かわしま・えいじ)

 さいたま市出身、40歳。プロサッカー選手。フランスリーグ1部リーグRCストラスブール所属。県立浦和東高校卒業後、大宮アルディージャ入団。名古屋グランパスエイト、川崎フロンターレを経て2010年にベルギー1部リーグ・リールセSK。日本代表として10年W杯南ア大会、11年アジア杯などに出場。

*1 毎年秋にさいたま市のさいたま新都心で行われる世界最高峰の自転車レースの名を冠した国内唯一の大会。

日本人初のUCIプロツアー(現ワールドツアー)選手となった別府史之氏
現在、サッカーフランス1部リーグ、RCストラスブールに所属する川島永嗣選手

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