誤情報を信じて検証を避ける傾向も 問われる「ファクトチェックの届け方」 名工大などが論文

誤情報を信じた人は、誤りを指摘する記事をインターネット上で見つけても、検証のためにクリックすることを避ける場合がある。こうした傾向を持つ人は4割を超えるとする論文を、名古屋工業大学大学院工学研究科の田中優子准教授らの研究チームが発表した。真偽不明の情報が事実かどうかを確認する「ファクトチェック」には、SNSを中心に広がる情報汚染を改善する効果が期待されているが、道のりは険しそうだ。

フェイクニュース問題が本格化したのはドナルド・トランプ氏が米大統領選で当選した2016年ごろからだとされる。近年も新型コロナウイルスや露のウクライナ侵攻をめぐる誤情報が飛び交った。冷静に考えれば疑わしいが強烈なインパクトで人の感情を操る“偽スクープ”は世界規模の問題になり、各国政府やウェブサービスを運営する巨大IT企業は対応に追われた。

根拠が不確かな情報について報道機関などがファクトチェックを行い、正確性を検証する記事をインターネットに掲載している。しかし、誤情報を信じる人は自分の考えと反する内容に心理的な抵抗感を抱いて、間違いを正す「訂正記事」を読まない可能性がある。

そこで研究チームは、まず毎日新聞(電子版)、オンラインメディアのバズフィード、NHK公式サイトなどから新型コロナウイルスに関するファクトチェック記事やニュース記事を収集。「ワクチンを接種しても新型コロナウイルス感染予防にはつながらない」などの事実に反する文章と、正確性が担保されている文章を作成した。

その後、オンラインで実験を実施。第1段階では情報の正誤を明かさずに、20の誤情報と23の正しい情報の文章をパソコンやスマートフォンで参加者に読ませて、各情報の正確性を6段階で評価させた。

第2段階では、計43の文章それぞれに内容の正誤を示す「正情報」「誤情報」のラベルをつけたページを見せた。「誤情報」の文章をクリックすると正しい情報を記した「訂正記事」が表示される仕掛けになっており、信じた情報が間違っていたと知ったうえで参加者が「訂正記事」を読むかどうかを調査した。

独自に考案した「訂正記事クリック行動分析指標(Fact Avoidance/Exposure Index)」で参加者らの行動を分析したところ、「信じている誤情報に対する訂正記事」を選択的にクリックするグループ(Fact-Exposure Group、57%)と選択的に避けるグループ(Fact-Avoidance Group、43%)に分かれた。

(提供 名古屋工業大学大学院工学研究科・田中優子准教授)

また、実験の第1段階で本当だと信じた誤情報について検証するために、第2段階で「訂正記事」をクリックした割合について調べると、前者のグループは42%だったが後者のグループはわずか7%だった。

研究チームは「誤った信念の93%は訂正される機会を逃している」と指摘。ファクトチェックの記事をネットで公開して誰でも読めるようにすることと、誤情報を信じている人に正しい情報を届けることの間には大きなギャップがあり、この2つをつなぐ社会的・技術的な取り組みが必要だと訴えている。

【論文情報】

Tanaka, Y., Inuzuka, M., Arai, H., Takahashi, Y., Kukita, M., & Inui, K. (2023). Who Does Not Benefit from Fact-checking Websites?: A Psychological Characteristic Predicts the Selective Avoid- ance of Clicking Uncongenial Facts. In Proceedings ofthe 2023 CHI Con- ference on Human Factors in Computing Systems (CHI ‘23), 664, 1-17, https: //doi.org/10.1145/3544548.3580826

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