ダニの托卵を確認 危機的な状況限定で 千葉大・アムステルダム大

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自分で産んだ卵を他の個体に育てさせる生き物の習性、托卵(たくらん)がダニの世界でも起きることを千葉大学とオランダのアムステルダム大学の研究チームが発見した。動物が捕食を免れるために托卵をして、子孫の生存率が高まることを示した研究は世界初だという。

カッコウ科の鳥が他の鳥の巣に卵を産み、子育てを放棄することはよく知られている。自分より小さい種類の鳥の巣を狙うことで、ふ化したカッコウのヒナが“仮親”の卵とヒナを排除しやすくする工夫などがあるという。鳥類だけでなく魚類などでも托卵の習性があり、虫の世界ではシデムシが仲間同士で「種内托卵」をすることがわかっている。

研究チームは農作物を荒らす害虫、ミカンキイロアザミウマと、キイカブリダニとミヤコカブリダニという2種のダニについて調べていた。ミカンキイロアザミウマはダニに食べられてしまうが、ダニの卵を食べることがあるという。ダニにとって餌であると同時に脅威でもあるのだ。

2種のダニの間でも互いの卵や幼虫を食べることが確認されているが、いっしょの環境に置くと同じ場所に産卵する。キイカブリダニには自分の卵を守る習性があり、ミヤコカブリダニにはそうした行動が見られないため、研究チームは「ミヤコカブリダニはミカンキイロアザミウマから自分の卵を守るためにキイカブリダニと同じ場所に産卵する」と仮説を立てて実験を行った。

まず研究チームは、ミヤコカブリダニがキイカブリダニの卵がある場所に好んで産卵する傾向を確認。卵を保護する習性がないチリカブリダニの卵は産卵行動に影響しなかった結果を比較して、ミヤコカブリダニがキイカブリダニの卵を認識して産卵する場所を選んでいるとした。

さらに“外敵“であるミカンキイロアザミウマと、仲間であり敵でもあるキイカブリダニの母親の存在が、ミヤコカブリダニの子孫の生存に与える影響を調査した。ミカンキイロアザミウマとキイカブリダニの母親がいないとき、ミヤコカブリダニの幼虫は4~5匹生存した。ミカンキイロアザミウマはいないがキイカブリダニの母親がいるとき、“仮親”であるキイカブリダニの母親にミヤコカブリダニの幼虫が食べられてしまうため、生存数は約1匹まで減った。托卵することで、かえって不利益をこうむった格好だ。

しかし、ミカンキイロアザミウマがいてキイカブリダニの母親がいないときは2~3匹が生存し、ミカンキイロアザミウマとキイカブリダニの母親の両方がいるときは約4匹が生存した。この結果を受けて研究チームは、キイカブリダニの母親が托卵された卵を「守った」と判断した。

ミカンキイロアザミウマの代わりに卵の捕食者ではないナミハダニがいた場合、ミヤコカブリダニがキイカブリダニの卵のある場所に好んで産卵する傾向がみられなかったことから、研究チームは「ミヤコカブリダニは自身の卵が食べられそうなときだけキイカブリダニに托卵することで卵の生存率を高める」と結論づけた。この研究結果は托卵のメカニズムの解明に役立てられるという。また、天敵を用いて害虫の農作物被害を減らす方法の開発につながる可能性もあるとしている。

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