日経平均3万円超えも市場では降格ラッシュ?上場している企業が降格するとどうなるのか

2023年5月17日(水)、日経平均株価は3万93円59銭となり2021年9月以来、約1年8ヵ月ぶりに3万円台を回復しました。

要因として4月から、海外投資家の買いが継続していると見込まれいます。日本株への先高期待感や為替市場での円安進行、5月17日(水)に内閣府が発表した2023年1-3月期GDP速報値が前期比0.4%増、年率換算で1.6%増と3四半期ぶりのプラス成長で、先進国では遅れてのコロナ禍からの経済回復で個人消費も伸びていることに加えて、インバウンド期待もある……と、理由はいくつか考えられますが、東証のPBR1倍割れ企業に対しての取り組みもその一因となっているのではないかと感じています。

今回は東証のPBR1倍割れの企業に対しての取り組みを、投資家はどう捉えるべきなのか−−仮に上場維持基準を満たせず、プライム市場からスタンダード市場に降格した場合、どのような影響があるのかを考えていきましょう。


東証の市場再編

まず前提として、市場再編について改めて知っておく必要があります。東京証券取引所(東証)はこれまでの市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQの市場区分を、2022年4月4日(月)からプライム市場・スタンダード市場・グロース市場の3つの市場区分に再編しました。

新区分で最上位とされるプライム市場は、グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業で構成することをコンセプトとしています。新規上場および上場を維持するための基準は、株主数 800名以上、流通株式数2万単位以上、流通株式時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上、時価総額 250億円以上、収益が最近2年の利益合計25億円もしくは売上高100億円かつ時価総額1,000億円以上ある、とされています。

ただし実際は、東証1部からそのままプライムに、という企業も多く、東証1部企業は改善に向けた報告書を開示すればプライム市場に残れるなど、条件に合うよう努める猶予期間が設けられていました。

そして2023年1月の上場規則改正時にプライムの条件を満たしていない企業に対して、2026年3月末時点で上場維持基準に適合しなければ上場廃止予備軍である監理銘柄に指定されることに加えて、最短で2026年9月に上場廃止となる可能性を示唆しました。

適合できず、プライムからスタンダードに移る場合、上場廃止してから再度審査を受けることとなります。そして3月31日(金)にプライムとスタンダードに上場する約3,300社を対象に、株価水準を分析して改善するための具体策を公表するよう要請しています。加えて2023年4月から9月末の間にプライムの上場維持を断念する場合、申請書の提出だけでスタンダード市場に移れるという措置も設けています。

つまり、いまプライム市場の上場維持基準を満たしていない企業は監理銘柄に指定されながらもプライム維持を目指していくか、スタンダードに移るかの判断を迫られているわけです。

東証フォローアップ会議の影響

こうした議論がなされるのが、東証の諮問機関である「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」です。2023年2月15日(水)に開催された第8回の会議では、「特にPBRが1倍を割れている場合には、市況の悪化など一時的な影響によるものである場合を除き、十分な 対応が求められる旨を通知に明記」するとしており、PBR1倍割れ企業への投資家の関心も高まっています。

それでは、昇格や降格の意味を見ていきましょう。

昇格が起きた場合、投資家はより流動性の高い市場での売買が可能となり、取引の便益を享受できるでしょう。対象はプライムのみとする、というルールを定めているような投資信託の運用会社など、機関投資家の買いも見込めるので、実需の買いから株価が上がることも期待できます。

また昇格は、企業の知名度の上昇や信頼性、成長性の向上を示すものとして、投資家の関心を引く可能性があります。さらに、資金調達がよりスムーズになるというメリットも。このようなポジティブなイメージは、株式の評価にも影響を与える可能性があります。

その逆に降格が発生すると、企業の株式は上場廃止となり、取引所での売買ができなくなります。これにより、株主は株式を売却する手段を失い、資産が評価を受けることなくなる可能性があります。また、降格は企業の信頼性や財務状態に対するマイナスの印象を与えるため、投資家の信頼を損なう可能性もあります。

過去の事例を振り返ると、研修コンテンツを提供するインソース(6200)は2016年7月21日(木)にマザーズに上場し、翌年2017年7月21日(金)に東証1部に昇格しました。

宅配野菜などのオイシックスで有名なオイシックス・ラ・大地(3182)は2020年3月19日(木)に東証マザーズから東証1部へ昇格することが発表されました。そして2020年4月9日(木)に東証1部に昇格したわけですが、株価はその後大きく上昇しました。

このように、昇格は株価の支援材料や、ビジネスの追い風になりやすいようです。

しかし、2023年4月から9月末の間にプライム市場の上場維持を断念する場合は、申請書の提出だけでスタンダード市場に移れるという措置も設けてることで、足元ではプライム市場から「降格ラッシュ」といえるような動きもあります。

プライムで3月期決算企業かつ上場維持基準に達しなかった企業は、6月末までに改善計画を提出ないし更新する必要があります。そのため、9月末までスタンダード移行の判断の期限はありますが、6月末までに移行を決断しようとしている企業が増えているのではないでしょうか。

スマホゲーム開発企業のマイネット(3928)が、2023年3月14日(火)のリリースでスタンダード市場への移行を公表したことが、その動きの先駆けに見えます。同社は4月14日(金)のリリースで「昨期の業績悪化や経営体制及び 戦略の変更を受け、当社が優先すべきは収益性の改善や業績の安定化へ向けた取り組みであると再定義し、これに集中する事を目的として、2023 年3月 14 日に開示しましたとおり本日スタンダード市場上場の選択申請をいたしました」と発表しています。

また教育関連事業が柱で、受験ポータルサイト「UCARO」が国内の総受験生の約半数が利用するサービスに急成長している株式会社ODKソリューションズ(3839)は、3月29日(水)のリリースでスタンダードへの移行を発表。地盤固めの期間と位置付け、専門性の強化に取組むこと、コスト削減のためというのが理由のようです。

このようにプライム基準を満たしていなくて降格を選ぶ企業については、それぞれ理由があるかため、その理由や今後の成長性などを見極める必要がありそうです。東証フォローアップ会議による取り組みは、市場の健全性を保つための重要な取り組みであり、投資家の保護に寄与するものと言えます。

プライム基準を満たす銘柄は、より厳しい要件をクリアし、投資家にとっては安定感のある銘柄とされていますが、そう投資家が思える取り組みがやっと始まったと言えるかもしれません。プライム基準を満たしていないがスタンダード基準を満たしている銘柄は、企業の規模や業績、財務状況に一定の不安要素が存在する可能性があり、このような銘柄に投資する際には、事前に企業の財務分析や将来の成長見通しを検討し、リスクとリターンのバランスを考慮する必要があります。

さらに、プライムの基準を現状満たしていなくてもプライムに残ると言う判断をした銘柄に関しては、条件に当てはまるよう努力をしていくと言う事ですので、株価上昇が見込める可能性があります。

いずれにせよ東証の取り組みによって、企業はよりシビアに今後について考え、施策をすることとなり、そのことも日経平均の上昇に寄与したのではないでしょうか。プライムからスタンダードに降格しても、突き詰めた末の降格、というのがあるので影響は限定的かもしれません。

投資家は企業の上場基準や、財務状況を注意深く分析し、投資先を選択する必要があります。降格や昇格が起きた場合には、その企業の株価や投資家の信頼に影響が生じる可能性があることをおさえておきつつ、企業の基準適合状況や財務状況、将来の成長見通しを考慮し、リスクとリターンのバランスを慎重に判断することが重要です。

最後に日経平均は3万円台をつけても、日経平均のPERは14.2倍程度となっており、割高とはいえませんが、大台で利確売りを意識される水準です。3万円ほどで横ばいに推移していくのか、それともまだ動くのか、注目です。

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