「高齢者の資産運用は安定資産で」は本当なのか?

高齢になると定期収入が年金に限られるので、なるべくリスクの低い商品を持つようにと言われます。はたして本当でしょうか。


高齢者の資産運用は安定資産で?

投資信託の一種で「ターゲット・イヤー型」というタイプがあります。これは目標年次が複数用意されており、その年次に向かってリスク資産の組入比率を減らすと共に、安全資産の組入比率を高めるアロケーション調整をしてくれる投資信託です。

つまり、「高齢になると定期収入が年金に限られるので、なるべくリスクの低い商品を持つように」という、高齢者に対する資産運用アドバイスでよく言われることを、投資信託として具現化したもの、といっても良いでしょう。

何しろ一度、買ってしまえば、あとは何もせずに放置しておくだけで良いのですから、投資や資産運用に興味のない人や、資産運用なんて面倒だと思っている人にとっては、このうえなく便利な投資信託であると言えます。

ターゲット・イヤー型の問題点については、別の機会に説明するとして、ここで問題したいのは、このような仕組みの投資信託が商品化されてしまうほど、「高齢者は安全資産を中心にした資産運用をしなければならない」と思われていることです。

預貯金にインフレリスクヘッジの機能は期待できない

確かに、昔はそうだったのかも知れません。1990年くらいまでは、預貯金でも普通に年5%程度の利率が得られていましたから、仮に預貯金が3000万円あれば、年間150万円の利息収入が確保できました。1カ月にすれば12万5000円。これに年金収入を加えれば、とびきりの贅沢をしない限り、生活はできたでしょう。

それならば、わざわざ元本を減らす恐れのあるリスク資産に、資金を配分する必要はないと考えるのも、無理はありません。

でも、これからは高齢になったとしても、リスク資産の保有は必要になります。なぜなら物価上昇率に対する預貯金金利の感応度が、かなり悪くなっているように思えるからです。

国内消費者物価指数は、昨年6月くらいから上昇してきました。物価項目のなかでも天候や政情でイレギュラーな値動きをする生鮮食品およびエネルギーを除いた「コアコア」と呼ばれる消費者物価指数の前年同月比を見ると、かつては1%未満、あるいはマイナスだったこともある前年同月比は、2022年6月に1.0%の上昇となった後、同年10月末には2.5%、12月には3%、そして2023年3月には3.8%というように、大きく上伸しています。

しかし、一方で預貯金利率は、普通預金が年0.001%、定期預金が預入期間の長短、預入金額の多寡に関係なく年0.002%で、これが長期間続いています。つまり資産の大半を預貯金にしておくと、実質的に資産価値は目減りしてしまうのです。

物価は持続的に上昇傾向?

問題は、物価上昇と低金利はいつ解消されるのか、ということです。

先ほど、「物価上昇率に対する預貯金利率の感応度が悪くなっている」と言いました。本来であれば預貯金であったとしても、インフレリスクを最低限ヘッジできる程度の利率は付与されるはずです。そうでなければ、いくら預貯金が元本保証だとしても、実質的に元本を割り込んでいるのと同じになってしまいます。

しかし、これからは物価上昇率に対して、預貯金利率が負けることが増えるのではないかと考えます。理由は、構造的に物価が上昇しやすく、同時に預貯金利率が上昇しにくい状態になっていると思われるからです。

まず物価については、国内外で物価上昇圧力が強まりそうです。国内では人手不足によって賃金が上昇するのと同時に、それが製品価格などに転嫁されるようになるでしょう。実際、食品価格はこのところ値上げが続いています。

一方、海外に目を向けると、自由主義経済圏を中心にして、これまで安い製品を世界に向けて輸出してきた中国を、グローバルサプライチェーンから外す動きを見せています。資源価格もロシアの関係悪化により、高止まりこそすれ急激に下がることはないでしょう。

以上の理由から、物価は良くて高止まり、悪ければ持続的に上昇傾向をたどることも、十分に考えられます。

高齢者もリスク資産を持ち続ける必要性が高まる

これに対して、預貯金利率が上がりにくいと考えるのは、日本国内に資金需要がないからです。

東京商工リサーチが定期的に行っている「預貸率調査」によると、2022年3月期における、国内106銀行の預貸率は61.9%でした。預金が100あるとすると、貸し出しは61.9しかないという意味です。銀行は集めた預金を貸し出して、その利ざやを収益としています。銀行にとって貸出先は運用先とイコールなので、預金に比べて貸出が少ないと、そのギャップは銀行にとって収益を減らす要因になります。

とはいえ、人口が減り、国内需要が落ち込みつつある日本国内には、そうそう大きく資金需要は生まれません。

したがって、銀行としてはさらに預金にお金が集まる状況を、出来るだけ避けたいと考えているはずです。だとしたら、銀行にとって預貯金の利率を高めてお金を集めるインセンティブがありません。預貯金利率の感応度が、物価上昇に対して悪くなるのではないかと考える根拠が、これです。そうなると安定資産、とりわけ多くの人に馴染みのある預貯金に大きく偏ったポートフォリオを持った場合、実質的に資産価値を目減りさせる恐れがある、と考えられます。

これは高齢者の資産管理・運用においても、例外ではありません。高齢者のポートフォリオにも、長期で保有できるリスク資産を組み入れ続ける必要性が、これからは高まっていくでしょう。

© 株式会社マネーフォワード