チェッカーズのサイドボーカル《鶴久政治》ソロアーティストとしての魅力を徹底解剖!  チェッカーズ、マサハルのソロデビュー曲「貴女次第」もサブスクで!

鶴久政治ソロ作品、全81曲がストリーミング配信スタート

ザ・チェッカーズ(以下チェッカーズ)のサイドボーカルとしてデビュー、バンド解散後もソロアーティストとして、またソングライターとして常に第一線を走りつづけた鶴久政治のソロ作品、デュエット企画作品を含む全81曲のストリーミング配信がスタートされた。

チェッカーズではサイドボーカルというポジションで楽曲に彩を添え、楽曲制作においてもバンドに大きく貢献。メンバーがソングライティングを担うようになった1986年以降、解散する1992年まで鶴久が手がけたシングル曲は全19曲のうち8曲(Cute Beat Club Band名義「7つの海の地球儀」における作曲クレジットはSpecial Tsuruku)。

特筆すべきは、1989年にリリースされた3曲、「ROOM」、「Cherie」、「Friends and Dream」はすべて鶴久の楽曲ということだ。この年の2月、シングル「貴女次第」とアルバム『Lovin’ Spoonful』(どちらもMASAHARU名義)でソロデビューを果たしている。

ソロデビューを果たした年にチェッカーズで3曲連続シングルの作曲を手がけたという状況はとても興味深い。当時鶴久は25歳。若きクリエイターはほとばしる才能をバンドフィールド以外でも遺憾無く発揮していたのだ。

藤井尚之、鶴久、高杢がチェッカーズから続々とソロデビュー

チェッカーズの中で一番ソロデビューが早かったのは、サックス担当の藤井尚之だった。1987年10月21日にリリースされたアルバム『NATURALLY』はオリコンチャート1位を獲得、同時リリースされた同名シングルも同チャート2位という快挙を果たす。

当時のチェッカーズの状況を考えてみても、前年にリリースされたバンド初のオリジナルシングル「NANA」も彼が手がけた楽曲であったし、当時はTHE MODSのステージに飛び入りするなど、純粋にサックスプレイヤーとしての活動の幅を広げたい時期でもあったと思う。

同時にセカンドアルバム『もっと!チェッカーズ』に収録されボーカルを担った「Lonely Soldier」以降、彼が発するキャラクターの色合いもチェッカーズという華やいだイメージとは一線を画していたので、順当なソロデビューだったのではないだろうか。

それから2年、1989年にはサイドボーカルの2人が続々とソロデビューを果たす。2月の鶴久に続き、9月には高杢禎彦。高杢のデビュー曲「酒なんかいらねえ」(MOKU名義)は萩原健一の一連のヒット曲を思わせるような、どこか武骨で、マッチョイズムを感じさせる高杢のキャラクターを全開にさせたものだった。

同時期、果敢に新たな音楽にチャレンジするチェッカーズのスタンスからすると、そのドメスティックな印象は意外ではあったが、後にタレントや俳優を軸に活躍する高杢にとっては、相応しいデビュー曲になったと思う。

ポップ・ミュージックの職人、鶴久政治

鶴久のソロデビューはバンド内でソングライターとしてその才能が遺憾無く発揮された時期である。

ただ、メンバーのうち4人が主に作曲を手掛けるチェッカーズでは、シングル曲を誰が手掛けるかという経緯の中にコンベンションがあったことは想像に難くない。

藤井尚之は、フックが効いたバンドのグルーヴを存分に活かすことができる曲調が持ち味だった。大土井裕二の手掛ける楽曲は、普遍的でありながら、心の奥に聴き手それぞれの心象風景を描かせる旋律が魅力的だ。武内享のソングライターとしての特徴は、玄人好みのマニアックさを兼ね備えながらもルーツへの敬愛を忘れないロックフリークらしいメロディだ。それぞれのオリジナリティは顕著だった。

そして鶴久が描く楽曲は、従来のヒットソングにはない独自性が高く、時代に即したギミックを施しながらも浮遊感と透明感を併せ持つ、まさにポップ・ミュージックの職人であるかのイメージがある。

そんな4人の楽曲がシングル曲を競い合う中、鶴久楽曲の中には、チェッカーズナンバーとして実現できなかった曲も多数あったと思うし、バンドサウンドの枠でははまりきれない曲もあったと思う。そんな才能が溢れていた時期のソロデビューは、その後音楽家として多くの曲を手掛ける鶴久の大きな転換期になったと思う。

水彩画のように色をつけたカラフルな印象を持つアルバム『Lovin’ Spoonful』

ファーストシングル「貴女次第」は、痛快なロックンロールナンバーだ。ロックンロールと言っても、チェッカーズがバックボーンとするアメリカン・オールディーズ的な郷愁とは違った、デジタルビートが主体となり、近未来的な疾走感が全体を支配する。

そんなグルーヴに忍ばせたビートルズやキャロルを系譜したようなマイナーコードを効果的に使ったフックの効かせ方が特徴的だ。普遍性と革新性を兼ね備えたこの大名曲は、チェッカーズと並走しながら弱冠24歳の鶴久の新たな一面を感じさせてくれた。

同日に発売された『Lovin’ Spoonful』にしてみても、鶴久楽曲の特徴である透明感に水彩画のように色をつけたカラフルな印象を持つ。乾いたアコースティックギターの音色が壮大な世界観を描く1曲目の「Keep on Rolling」にソロアルバムに対する強い意気込みを感じる。

また、ジャジーな鍵盤の響きが鶴久の甘いボーカルを際立たせる「Dreamer’s Alley」がなんとも心地よい。さらには遊び心満載のファンクチューン「Funkahoric」、チェッカーズナンバーを彷彿させるコーラスワークが特徴的な「Only Lonely Birthday」などひとつのジャンルに固執しない多面性が魅力だ。

後半には秋元康作詞の趣の異なる4曲のバラードが立て続けに収録されている。ここでは純粋にメロディの美しさ、そして深く、深く、聴き手の心に染み渡る歌声からは、ヴォーカリストとしての力量が明確になっている。

あらゆる音楽ジャンルをフォーマットにしながらも、そこに垣間見られるメロディセンスは、まさにポップミュージックの職人である。

今回のストリーミング配信では、このファーストアルバムはもとより、セカンドアルバム『Timely』、サードアルバム『 I’m Your Home』といったチェッカーズと並走、解散直後の3タイトルが一挙解禁になった意義は大きい。2023年の現在も数多くのアーティストに楽曲提供を続ける鶴久政治の音楽性の礎をしっかりと感じ取って欲しい。

カタリベ: 本田隆

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