「ひきこもり女子会」主催・林恭子さん もっと「自分にYES」を!

「母は何事も「何クソ!』と思ってやる人。私たち娘はそんな母を「何クソって何?」って思ってました(苦笑)」と林さん(左)

「皆さん、こんにちはー。今日は、よく来てくださいました。ただいまから『ひきこもり女子会』、始めたいと思いまーす」

都心の貸し会議室。午後の陽光が大きな窓から差し込み、清潔感あふれる部屋の雰囲気そのままに、女性は明るい声で、硬い表情の参加者たちに語りかけていた。

今年3月末、内閣府はひきこもりに関する調査(’22年実施)の結果を発表。それによれば、15〜64歳でひきこもり状態にある人は、全国で推計146万人にのぼるという。なかでも、40歳以上の中高年では女性が半数超の52.3%を占めていたことが注目を集めていた。

「ようやく、実態に追いついた数字が出てきたように思います」

こう話すのは、「一般社団法人ひきこもりUX会議(以下、UX会議)」の代表理事・林恭子さん(56)。貸し会議室で参加者に優しく語りかけた、あの人だ。

「『ひきこもり』という言葉が広く知られるようになって20年以上。その間、困難を抱える当事者に向けて、自治体などによる、さまざまな支援策が講じられてもきました。ですが『ひきこもり=若い男性』というイメージが根強く、実態に即していない支援も少なくなかったように感じています」

’19年発表(’18年実施)の調査では、ひきこもり状態にある中高年女性の割合は23.4%。それが4年で倍増したわけだが、林さんは「いまになって急増したわけではない」と話す。

「コロナ禍を経て、男女を問わず当事者は増えているとは思います。とくに、女性はコロナ禍で困難な状況に追い込まれた人が大勢いますから。ただ、今回の調査結果は、これまでクローズアップされてこなかった、ひきこもり状態にある女性の存在が、可視化されてきた結果ではないかと考えています」

職に就かず家にいても問題と見なされない「家事手伝い」「主婦」という肩書があるのも、女性のひきこもりを見えにくいものにしてきた。さらに、林さんは「社会の変化」についても指摘する。

「『働いてこそ一人前』と、かつては男性のほうが社会からの重圧に強くさらされ、生きづらさを感じていた人も多かったように思います。それが昨今は、女性も『活躍』を強く期待され、『生産性』を問われるように。現代社会で、女性のひきこもりが男性と同等数いたとしても、不思議ではありません」

林さんたちUX会議は、存在が見えにくい女性当事者たちの声を拾い上げたい、彼女たちの心安らげる居場所を作りたいと思案。7年ほど前から、冒頭で紹介した「ひきこもりUX女子会」と銘打った会を、全国各地で約190回も開催してきた。そこには10〜60代の幅広い世代の女性たちが、これまで延べ5千人も参加している。

「女子会で出会う当事者と話していると、本当にしんどそう。よき娘、よき妻、よき母に加え、よき社会人であることを求められ、一つでも欠ければ『自分はダメだ』と卑下し、ひきこもり状態に陥る一因にもなってしまっている」

こう話す林さん自身も、ひきこもりの当事者だった。16歳で不登校になり、そこから断続的に20年間、「出口の見えないまっ暗な闇の中で、もがき続けるしかなかった」

■最近の「ひきこもり女子会」には、本当に40代~50代の参加者が多い。

一時は自殺を考えるまでに追い詰められた林さんだったが、同じくひきこもりの当事者の会に参加したことで、「自分だけじゃないんだ」と救われた気がしたという。

’02年、林さんはアルバイトで生計を立て実家を出ることを決意できるまでに。このとき、林さん36歳。不登校になったあの日から、じつに20年の歳月が流れていた。

「やがて、さまざまな当事者たちとの出会いのなかで、もっと当事者の声を届けたい、そんな思いに駆られるようになりました」

林さんは’12年から、自ら率先して当事者活動を開始。そして’14年には、自分と同じ当事者、経験者らとともに当事者団体「ひきこもりUX会議」を立ち上げた。「UX」とは「Unique eXperience=固有の体験」という意味だ。活動の柱は当事者の声を届けること。そこには、当事者不在のままニーズに合致しない支援が形作られ、無駄に時間だけが過ぎてしまったという焦燥感にも似た思いがあった。

なかでも注目していたのが女性当事者だ。長年、「ひきこもり=若い男性」という間違ったイメージが定着してしまった結果、彼女らへの支援が圧倒的に不足していると実感していた。また、仮に支援はあっても、男性がいる場に怖くて足を運べないDVや性被害を経験した女性当事者も少なくない。

「そこで、女性だけが集まる場を設ければ、女性当事者がもっと来やすくなるのではと考えました」 ’02年。第1回の「ひきこもりUX女子会」が開催された。

「最近の女子会には、本当に40代、50代の参加者が多いんです。時には、50代がいちばん多いこともある。これまで、見過ごされてきた中高年女性の当事者たちです」

なかには「自死寸前だった」と語る50代女性もいた。また「50年生きてきて、初めて自分の話を聞いてもらえた」と涙を流す人も。

「お二方とも『女子会の存在を知り救われた』『勇気を出して今日、来て本当によかった』と言ってくれました。これは、中高年の方に限ったことではありませんが、女子会に参加された当事者の多くは、表情が激変するんです。見ている私たちも感動するぐらい、来たときの硬い表情とは別人のような、明るい顔になって帰っていく」

■当事者の持っている優しさ、エネルギーを生かせる社会になってほしいと願う

ひきこもり女子会の開催を重ねるなかで、驚かされたのが、参加する主婦の多さだった。

「予想以上でした。’19年からは自治体と連携し『ひきこもりママ会』も開催しています。これまで11回開き、延べ参加人数は61人。ニーズは確実にあると思います」

取材の最後に、改めていまの夢を尋ねると、

「UX会議など当事者活動は続けていきたい。それはなにも、誰かを助けたいからじゃなくて。私自身がいまも、この社会に息苦しさを感じているから。自分のためにも、隙間を作りたいんです」

そして、こう言葉を続けた。

「ひきこもり=弱くてダメな人、役に立たない人と思われがちですけど、彼らの持ってるものを測る物差しが社会の側にないだけだと思うんです。当事者の多くは、本当に優しくて繊細で。その半面、エネルギーの大きい人も多い。そのエネルギーで自分を責めるから、ひきこもりになってしまう気がします。彼ら、彼女らの持っている優しさ、エネルギーを生かせる社会になってほしいと思っています。

ま、簡単ではないとは思うし、私が生きているうちは無理かなとも思いますけど。そのための活動は最後まで続けたい。死ぬ瞬間まで『こうあってほしいんです!』って、電話一本、することはできますから」

自分ばかり責めてしまうがためのひきこもり。だが気づいてほしい、仲間がいることに。そして、あなたが自分を好きになることが、“闇”から一歩踏み出すきっかけとなることを。

【後編】20年間ひきこもりだった経験から「ひきこもり女子会」を主催する林恭子さん“原因”となった母との「和解」へ続く

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