金光町大谷『オレンジハウスほっこり』〜 誰もが自由につながれる、町のプラットフォームを目指して

浅口市金光町大谷にある『オレンジハウスほっこり』におじゃましてきました。

訪れた浅口市金光町は金光教発祥の地です。

そのなかでも大谷地区は金光教本部がある門前町として、地元のみならず全国的にも知られています。

映画『とんび』(2022年公開)のロケ地になった場所と言ったほうが、ピンとくる人もいるかもしれません。

古い商店の建物や看板も残っており、まるで昭和時代にタイムスリップしたような、静けさと独特な雰囲気をもつ町です。

筆者は初めて来た場所にもかかわらず、一歩足を踏み入れると、自然と郷愁を誘われる不思議な気持ちになりました。

金光町大谷地区

オレンジハウスほっこりの概要

『オレンジハウスほっこり』は、金光図書館前の駐車場から徒歩で3分ほどの場所にあります。

ノスタルジックな町並みにこつぜんと光るオレンジ色の外観が目印となり、すぐ見つけられますよ。

専用の駐車場はありません。所在地と利用可能な駐車場の案内はこちら。

『オレンジハウスほっこり』を営むのは浅口市に暮らす、しんじさんとけいこさんご夫妻。

2021年11月にオープンしました。

お勤めする本業のお仕事の傍ら、毎週日曜日のみ営業しています。

『オレンジハウスほっこり』は、集客だけを目的としたカフェではありません。

カフェのコンセプトは “誰もが集えて誰もが自由につながれる場所”。

どうしてそのコンセプトなのか、立ち上げた経緯や取り組みなど、後半のインタビューで詳しくお話を聞けました。

まずはその前にカフェとしての基本情報と、取材当日におこなわれていたイベントを簡単に紹介します。

毎週日曜日オープンのカフェメニューを紹介

▼こちらがメニュー表です。

ドリンクは200円からという良心的価格

前置きで「集客だけを目的としたカフェではありません」とお伝えしましたが、メニューにこだわりがないわけでは決してありません。

2021年のオープンから1年以上経ち、メニューのラインナップも増えてきているようです。

とろっとろ卵が魅力のオムライス

ランチにはタコライスもあるのですが、オムライスはオープン当初からあるということで、こちらを選びました。

オムライス(サラダ・スープ・ドリンク付)小サイズ 税込 700円

普通サイズ(税込 1,000円)もありますが、小サイズでも筆者には十分な量でした。

とにかく卵がとろっとろでやわらかく、やさしい食べ心地です。

オムライスの卵は、こだわりの飼養で生産されている『たかたのたまご(岡山県笠岡市)』を使っています。

ランチセットとは別で頼んだコーヒーには、お菓子がついていました。

コーヒー(ご近所の「ぼだいじゅの実」のクッキー付き) 税込 300円

午前8時から週替わりのモーニングセット(税込500円)が提供されています。

そのほか季節ならではのメニューが登場することもあるようです。

最新のメニュー情報はInstagramでチェックできます。

取材当日におこなわれた2つのイベント

『オレンジハウスほっこり』では、さまざまなイベントを開催しています。

取材に訪れた日は2つのイベントがおこなわれました。

1つ目は、やつ ゆきこさんによる、ウクレレ弾き語り。

彼女のライブは『オレンジハウスほっこり』では2回目です。

ウクレレの軽快な音色と澄んだ歌声 やつ ゆきこさん

やつ ゆきこさんは音楽を使った活動や教育関係の仕事をしているかたです。

以前、店主 しんじさんの長男の先生をされていたようで、その縁がきっかけとなり、ライブをすることになったそうです。

2つ目は『大谷西地区まちづくりガイドライン賑わいづくり部会』主催による、地域交流会です。

大谷のロケ地でのエピソードトークを楽しむみなさん

映画『とんび』の大規模ロケ地となった金光町大谷地区。

撮影当時の町のようすを知る人や、エキストラで出演された人たちが集まりました。

映画を題材にいろいろなことを話せるつながりの場として、『オレンジハウスほっこり』を会場におこなわれました。

取材当日はイベントもあったことで、地域のみなさんが入れ替わり立ち替わり来店されていました。

まさに、カフェのコンセプトである “誰もが集えて誰もが自由につながれる場所” として、地域になじんでいるようすが見えてきました。

イベントが一段落したところで、『オレンジハウスほっこり』を立ち上げた経緯など、しんじさん、けいこさんご夫妻から詳しくお話を聞きました。

しんじさん、けいこさんご夫妻にインタビュー

──2021年に『オレンジハウスほっこり』を立ち上げたきっかけを教えてください。

けいこ(敬称略)──

少し長くなるんですけど、順を追ってお話させていただきますね。

きっかけとして遡(さかのぼ)るなら、今から18年前(2005年)ということになります。

当時小学2年生だった長男が、それまで元気だったのに、ある日突然脳内出血で倒れたんです。

診察によれば、おそらく生まれつき脳の血管に問題があったらしいんですけど、発症するまでは気づかなくて……。

長男は後遺症で軽度の知的障がいと身体障がいを患うことになり、その日から突然障がい児の親になりました。

それが一番のきっかけなんです。

待っているよりも、自分たちで動いていく

──それからカフェのオープンに至るまで、どのような経緯があったのでしょうか。

けいこ──

長男が中学生になるタイミングで『金光町みどりの会(知的障がい児、知的障がい者の親の会)』に入りました。※以下『みどりの会

会で一緒に活動を始めると、社会や世間に対して「障がい者にとって、もっとこうだったらいいな」ということが、見えてくるようになりました。

そういう思いを、個人的にだったり『みどりの会』としてだったり、実際に行政にかけあってみたりもしました。

そうしているうちに、知人と「福祉面のサポートをこうしてほしいよね」「もっと浅口市を良くしたいよね」と話す機会がありました。

その輪が少しづつ広がり、集った仲間と一緒に市民としてアプローチをしてみることもあったのですが……。

やがて、なかなか思うようにいかない、簡単ではないことがわかってくるようになりました。

カフェには障がいの有無を問わず誰でも使用できるオストメイトトイレを完備

オストメイトトイレ:病気やケガで人工的なストーマ(排泄口)を装着した人が使いやすい設備のトイレ

「じゃあどうしたらいいんだろう?」という話になったとき、「待っているよりも、今の自分たちにできることから動きだしてみよう」と。

それが、浅口市にある『たまり場カフェ』という団体の誕生でした。

『たまり場カフェ』は障がいの有無にかかわらず、年齢も関係なく、気軽につながれる場所です。

さまざまな立場を越えて、人と人がつながって話し、かかわり合うことで、それぞれの暮らしをもっとよくすることができないかと考えました。

『たまり場カフェ』を単発的に1回目、2回目と公民館でやって、アクションすることで徐々につながる人も増えてきていました。

3回目は金光図書館でやろうというところで、ちょうどコロナ禍もあって……。

活動はそこでいったんストップしましたが、やめてしまったらもったいない。

そこで、自分たちでできることを始めようとカフェをオープンしました。

──最初から大谷地区でやろうと思っていたんですか?

しんじ(敬称略)──

最初は大谷にはこだわっていませんでした。

金光町や大谷地区のいろいろな会に参加させてもらって話すうちに、ここが良いんじゃないかと思うようになりました。

そういった集まりで「僕たちはこういうことをしたいんだ」という話をしていたら、みなさん歓迎ムードで。

ニーズも感じましたし、大谷に空き家も増えてきていたこともあります。

あるとき、今の大家さんから「神具店だったところが空き家になったから使ってみる?」と声をかけてもらいました。

カフェに鎮座する神棚の中央にある書は六代金光様の直筆

カテゴリーでくくるのではなく、誰でも利用してもらいたい

──お店を立ち上げてから、ご近所など周りの反響はどうですか?

けいこ──

近所のかたからは「子どもたちに、遊びにいっておいで、食べにいっておいでと安心して言える場所」という言葉をいただきました。

ありがたいです。

去年の夏は『みどりの会』が地域のかたと交流する機会を設けたいということで、プチ夏祭りをしたんです。

放課後等デイサービスを利用している子どもたちもたくさん来てくれて、ちょっとしたイベントができました。

それがきっかけで『みどりの会』に入られたかたもいらっしゃいました。

爆発的に人が集まるわけじゃないですけど、近所の人に限らず、少しずつご縁をいただいています。

金光教の参拝に全国から来られるんですけど、一度お店に来てくれたかたが、次の参拝でもまた立ち寄ってくださいました。

おしゃべりしたり、手作りしたものを飾っていってくださったり、楽しいひとときをもてる場所になっているのかなと思うと、うれしいですね。

──きっかけは『みどりの会』と『たまり場カフェ』への思いからでしたが、関係性は広がっていますね。

しんじ──

はい。

垣根がないというか、カテゴリーでくくるんじゃなくて、誰でも利用してもらいたいと考えています。

けいこ──

たとえば、障がいのある子どもたちは急にはフレンドリーにはなれないんです。

ここにいるときに出会う人なら、安心できて、交流しやすいんじゃないかと思うんです。

さらに、偶然居合わせなくてもつながる方法はないかと考えて、誰かに向けて書いた手紙を置くコーナーもつくりました。

読むだけでもいいし返事を書いてもOK

最近、お返事を書いてくださるお客さんもいて、展開し始めたんですよ。

内容に関しては万が一傷つくようなことが書いていないか、一応管理人として『オレンジハウスほっこり』のフィルターは通しています。

実際やってみたら一番自分のためになっていた

──2021年のオープンから約1年6か月経ちますが、今どんな心境ですか?

けいこ──

正直言ってめっちゃ楽しいです。

しんじ──

楽しいですね。

けいこ──

この日曜日の『オレンジハウスほっこり』のカフェのおかげで、平日の仕事も元気に頑張れるのかなと感じています。

最初は「誰かの役に立ちたい」と考えていたけれど、実際やってみたら一番自分のためになっているんじゃないかと。

もちろん、ここに至るまでいろいろな人の思いが詰まっていることは、忘れないようにしたいです。

『みどりの会』の親御さんたちの思いも生かしたいですし、『たまり場カフェ』のやりたい企画も実現していきたいと思っています。

笠岡市の就労継続支援B型『Shell(シエル)』の製品販売コーナー

──お店を始めるにあたって、お子さんからどんな反応がありましたか?

しんじ──

「やればいいじゃん」って。

うちは3人の子どもがいるのですが、彼らが難しい思春期も、夕食だけはいつも一緒に食べるようにしていました。

そんなとき「いつか父さんはこういうことしようと思っている」とか「今日はたまり場カフェ行ってくるから」とか話していたんですね。

だから、親のしたいことは感じ取ってくれていて自然に受け入れてくれたのかなと思います。

けいこ──

ところで、メニューにあるオムライスは夫の得意料理なんです。

次男が小さいときは卵アレルギーだったんですが、成長に伴い『たかたのたまご』なら食べられるようになり、夫がつくってくれていたんです。

今、次男は東京にいるんですけど、帰ってきたら「僕も料理できるようになったんだよ」と、ふるまってくれたのがタコライスなんです。

それがおいしくて、ランチのメニューに加えたんですよ。

すべてがここに行き着くまでの伏線だった

──ご長男さんが突然の病に襲われ、大変なときも過ごされてきたのだろうと想像します。

けいこ──

それが、親はあまり何もしていないんですよ。

先生、地域の人、子どもたちを通して知り合う親御さんにも、きっとめずらしいぐらいにめちゃくちゃ恵まれてきたんですよね。

今のカフェでもほぼ毎週お手伝いしてくださる、長男の同級生のお母さんにも最初は申し訳なくて。

「楽しいから来ているんよ」って言ってくれて、おかげで続けられているんだと本当に感謝しています。

最近思うのは「なんだ!こういうことをやるためにいっぱい人に恵まれて、すべてがここに行き着くまでの伏線だったんだな」って。

最初はこうしようああしよう、一生懸命やろうという感じだったんですが、最近はなるべくしてなるから、お任せモード的な感覚になってきました。

──改めて今思う『オレンジハウスほっこり』の役割とは?

けいこ──

つなぎ役でしょうか。

カフェとしてどんどん繁盛してっていうのじゃなくて、いろいろな人とつながるための一つの方法としてやっています。

しんじ──

応援係というか、みんながしてみたいことやざっくり描いていた夢を、実現できる場を作れたらなあと。

僕たちがどうこうしたいというより、お客さんがこんなのどうかなっていうのをどんどん取り入れていきたいと考えています。

──これから取り組んでみたいことや今後の展望はありますか。

けいこ──

もっと地域のいろいろな世代のかたや、近くにいながらもまだ来られてないみなさんとじっくりゆっくりつながっていきたいです。

求めていることや望んでいること、そういった声をもっと拾っていきたいですね。

しんじ──

いつかは日曜日の昼間だけじゃなくて、たとえば夜だったり、平日も曜日で企画を変えたり、要望に応えられる限りはいろいろなことをやってみたいです。

ちなみにうちの長男の夢はバーテンダーなんですよ。

たまたま行った東京のお店でバーテンダーさんと仲良くなったことをきっかけに、カクテルづくりをするようになりました。

彼には体の麻痺が少しあるけれど、覚えたカクテルを家で楽しんでつくり、家族にふるまってくれています。

車椅子のまま利用できる可動式カウンターで未来の夜営業の準備も万端!

けいこ──

ゆくゆくは毎日開けてふらっと寄れる場所としても活用してもらいたいですね。

そんな未来を夢みながら、これからもいろいろな活動をしていきたいとワクワクしています。

インタビューを終えて

文面で見ると、けいこさんのお話のほうが多く感じるかもしれませんが、実際にお話を聞いていた筆者には、おふたりの考えはつながっていると感じていました。

きっとそれは、いろいろなことを思いながら3人のお子さんを一緒に育ててきた積み重ねがつくった絆なんだろうと想像します。

けいこさんの「すべてがここに行き着くまでの伏線だった」は思わず鳥肌の立つ表現です。

運命を受け入れて、それを前進する力に変えて、試行錯誤するなかで、やがて人生の新しい目的を見出すまでの壮大なストーリー。

勇気をもらえたインタビューでした。

『オレンジハウスほっこり』は明るくフレンドリーなところなので、訪れたら間違いなく楽しく迎え入れてくれると思います。

いつかの日曜日、金光町大谷地区を訪れることがあれば、ぜひふらっと立ち寄ってみてください。

© 一般社団法人はれとこ