長崎ヴェルカ リーグ最年少の前田監督 「塩」のようなリーダーに 選手、チームが輝くために

プレーオフ決勝第2戦で指揮を執る前田監督。重圧に耐えチームをB1昇格へ導いた=SAGAアリーナ

 プレーオフの前、長崎ヴェルカの選手とスタッフは「自分がチームのために持ってこれること」を石に書いて瓶に詰め、それを各会場へ持ち込んだ。前田健滋朗が記した言葉は「リーダーシップ」。就任1年目の今季、Bリーグ最年少の32歳で指揮を執った青年監督は惜しくも優勝こそ逃したものの、B1昇格の難題を見事にクリアした。
■ネガティブ
 大阪市出身。福井県の北陸高時代は、当時中学生で現在はヴェルカで活躍する松本健児リオンらと同じ寮で過ごした。東洋大を経て指導法を学ぶために早大大学院へ進学。修士論文のテーマは「バスケットボール競技における勝敗要因に関する研究」だった。
 卒業後、B1のA東京や豪州のメルボルン・ユナイテッド、再びB1秋田でコーチを務め、2021年春に伊藤拓摩(現社長兼ゼネラルマネジャー)が率いるヴェルカへ。リーグ参入1年目の昨季は、伊藤が攻撃、前田が守備を担当していたが、シーズン終盤は「彼に95%任せていた」(伊藤)。実質的に一番手の指導者として、史上最高勝率でのB3優勝とB2昇格に貢献した。
 伊藤から監督を引き継いだ今季。年上のベテラン選手がいて、故障者も相次ぐなど重圧や逆境と闘いながら「最短でのB1昇格」の道のりを歩んだ。「選手は知っているけど、性格はめっちゃネガティブ。どうやって最悪なケースを免れるのかを考える。そこはゲームプランにも影響したと思う」。ハードでアグレッシブなチームのプレースタイルとは対照的に、緻密に戦術を練ってきた。
■引き立て役
 理想のリーダーシップは「塩」だ。「それぞれの選手(食材)の良さを引き立たせたり、チームの方向性(味)を整えたり。時には悪い流れ、汚れを落とすことも求められる」。その上で「それぞれが自分自身をより良くし、自分以外の人たちをより良くする。それが一番価値のある組織だと常に意識している」と相乗効果を口にする。
 長崎のことも「めちゃくちゃ好きになった」。つかの間の休息は妻と一緒に県内各地を旅する。「ゆったりとしたところや自然、人、食べ物、全部がいい。平戸や大島、波佐見、千々石に雲仙、壱岐…、すごくいいところばかりで楽しい」
■胸を張って
 監督として「自らを着飾っても意味がない」と心がけながらも、どうしても「人間なので良くない部分も出るし、感情的になることもある。自分の理想が毎回できているかというと、できていないなと感じる」。決して現状に満足せず、選手やチームを輝かせるための手法を模索し続ける。
 この日の決勝後の記者会見。隣県同士でしのぎを削り、ともにB1昇格を果たした佐賀に敬意を表した後、ほんの少しだけ解放されたようにシーズンを振り返り、次なるステージへ力を込めた。
 「長崎一丸となって勝ち取れたB1昇格かなと思っているので、胸を張って終わりたい。来シーズンはB1で佐賀さんに勝てるように、しっかり準備して強くなります」(敬称略)

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